「お、お前が悪しき魔女か!?」
剣を構えて、こちらを見る少年
……なんだ、いつもの魔女狩りなのか
そう思い、転送魔法で場外まで投げ捨てる
そしたら、また別の人が来る
その、繰り返し
なんて、つまらない
「お前!昨日はよくもやったな!?」
……驚いた
怯みもせず、またここに来たのか
それほどの金を渡されているのか
この首にどれほどの価値がかけられているのかよく分かる忠誠心だ
また、場外へと投げた
……はぁ
「おい!何回やれば気が済むんだ!!」
……それはこっちのセリフだ
何回来れば気が済むんだ
……いい加減、うんざりしてきた
少し乱暴に、場外へと追いやった
……もう、来ないでくれ
「おい!なんか昨日は少し乱暴じゃなかったか!?」
……こいつ、なんで懲りないんだ?
「……なぁ」
……おや?どうやら話があるらしい
まるで興味が無い
「……お前を倒したら、とんでもない量の金が貰える」
「それに、栄誉も手に入る」
「……それは、お前が悪だとされているからだ」
「……だが、よく考えてみた」
「……何故、お前は悪なんだ?」
……そんなの、私が聞きたい
人間にとって、未知は恐怖だ
未知が外道だったら、それは悪だ
……そして、時にそれは濡れ衣として現れる
ただ、それだけの話だ
話す価値もない
「……まぁ、話さんか」
「……俺には、大事な家族が居てな」
「両親は、俺の為に無茶をして体を壊しちまってな」
「……親の為に、すぐ集まる金が必要だった」
「…だから、この依頼を受けたんだ」
「…だけど」
こちらを見て、少し笑う
「あまりにも、件の魔女が美しく凛々しかったもので」
…驚いた
この世には恐れられる魔女に惚れる物好きも居るのか
そう思って、場外まで投げ捨てた
…昨日よりは、優しくしてやった
「…お前、魔女なんて呼ばれているが名前はあるのか?」
次の日から、あいつは私の名前と好みを知ろうとした
もちろん、答えず黙っている
…だけど、こいつと居るのは気が楽だと言うのも否めなかった
その理由として、私はあることを実行した
私は、自分の分身を作って剣で刺してそこらに置いておいた
…私は殺されたのだと、村民達は勘違いした
あの方が、魔女を殺してくれた!と
報奨金は支払われ、栄誉も得た
…あいつがここに来る理由を、自分で無くした
あいつに、気を許しつつあったから
許すな、私は、魔女だ
そこに、慈悲が生まれてはならない
あの日以降、あいつはここに来なかった
当たり前だ
来る理由が無いのだから
ある日、あの時のように必要なものを取りに森へ行くと
「……なんだ、やっぱり生きてるじゃないか」
……後ろから、聞こえるはずのない声が聞こえた
驚いて、後ろを振り返る
「ははっ、その顔は初めて見たな」
「…なんで、あんなことをした?」
答えなかった
受け答えは、禁止されている
「まぁ…答えないだろうな」
「あの日から、すぐに婚約が確約された」
「反論したのに、何も聞いてくれなかった」
「これが……栄誉か?」
それは、私のせいじゃない
それは、割り切らないお前のせいだろ
……なんて、言えたら良かったの?
「俺は……お前が……!」
口を塞いだ
それ以上は、言ってはいけない
…もう、無理だ
取り繕うのも
互いに傷つくのも
もう、うんざりだ
だから、私は彼を抱きしめた
「え…?」
そして、魔法を使った
…いいでしょ、べつに
私は、悪い魔女なのだから
「お前が…悪しき魔女の末裔か?」
懐かしい声が聞こえて、振り返る
懐かしい、顔だ
「そうだよ、私がその魔女の末裔」
「初めまして、名も知らない英雄様」
あの日、記憶を消してから幸せに過ごしてた?
ねぇ、私も貴方のことが好きよ
でもね、貴方の幸せにはなれないわ
だって私は
悪しき魔女なのだから
コメント
4件
うわあああ……っ、切なすぎる……っ😭😭 少年は家族のために魔女を殺 し に行ったけど、彼女の美しさに惚れてしまったために何度も何度も彼女の元へ行っていた……なのにある日突然、魔女が殺 さ れ た状態で発見された、なんて驚いただろうし、ショックを受けたからしばらく彼女の元へ行かなかったのかな、とか思った…… 魔女も魔女で少年を大切に想っていたからこそ魔法を使ったのにまた再会してしまう、なんて