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扉を開ける音と共に、 転校生の少女が教室に入ってきた
一ノ瀬露子
一ノ瀬露子
転校生の名前は露子
露子は皆に向かって、 深々とお辞儀をしていた
異様に肌が白く、 雰囲気はどこか儚い
パッと見て感じたのは、 大人しそうな性格で、 今にも消えそうなくらい儚い印象だった
俺は正直言うと、 こいつのことはなんとも思っていなかった
露子が転校してから、 慎一の視線はいつも露子に向くようになった
慎一は上の空になっていることが多く、 露子は露子で、 慎一にその気があるような振る舞いをしてきた
慎一を失ってしまう、 慎一が露子に奪われるような気がして、 俺の心はどんどん焦っていった
慎一は窓際にいる露子の元へ、 歩こうと動いた
古賀勲
俺は慌てて慎一を追いかけ、 慎一の服の裾を引っ張った
古賀勲
都築慎一
慎一は少し驚きつつも、 突き放したり、 怒ったりせず、 いつもの受け流しているようだった
何も変わらないいつもの対応に、 一瞬の安心感はあったが、 「露子から目を離してくれない」という、 もどかしさがあった
古賀勲
いつもなら乱暴に怒鳴ったり、 強がったりする俺
だけど、 今回は素直に引き下がった
「慎一を困らせちまった」 そう直感し、 自分の気持ちを押し殺して、 そっと手を離した
自分のわがままで、 慎一に嫌われたり、 面倒臭いと思われるのが、 何よりも怖かった
露子が来てからは、 5人でかごめかごめをして遊ぶようになった
今日も慎一の心は、 露子によって奪われている
慎一と露子が楽しそうに会話をするたびに、 俺の体の震えは酷くなる
古賀勲
憎かった 慎一を奪う露子が、 憎かった
顔を見るだけでも、 俺の怒りが湧き出てくる
都築慎一
一ノ瀬露子
露子は俺の視線に気づき、 俺と目が合うと、 俺を小馬鹿にしたような笑いを向けてきた
そして、 慎一が無表情に見えるかもしれないが、 慎一の口角が僅かに上がっているのを、 俺は見逃さなかった
古賀勲
その瞬間、 溜まっていたオレの堪忍袋の緒が、 プチッ、という音を立てて、 切れた
俺は助走をつけて、 露子の顔面目掛けて、 思い切り殴りかかった
一ノ瀬露子
殴られた露子は、 少しよろけただけで、 悲鳴を上げることすらしなかった
一ノ瀬露子
一ノ瀬露子
古賀勲
それどころか、 露子は俺の表情を見て小馬鹿にするような態度を取り、 怒り狂う俺を更に挑発してきた
俺はいつもの癖で、 馬鹿らしい露子の挑発に乗ってしまい、 露子の胸ぐらを掴んで、 床に叩きつけようとする
都築慎一
慎一は露子を殴る俺を見て、 顔を真っ赤にして、 激しく感情をぶつけた
そして、 慎一は助走をつけると、 露子を殴った俺を殴り返した
俺より小さな手だったが、 そこにはちゃんと感情がこもっており、 頬に強い衝撃が走った
一ノ瀬露子
都築慎一
普通の子供なら、 「好きな子に怒られた」とショックを受けて、 落ち込んでしまうはずだ
だけど、 俺は落ち込むどころか、 口角を吊り上げて、 少し歪な笑顔で笑った
古賀勲
慎一が俺だけのために感情を爆発させ、 俺だけのために拳を振った
慎一が俺を見てくれたという事実が、 俺の心を安心させるものだった
都築慎一
古賀勲
この日は珍しく、 二人きりだった
露子がいない、 慎一と二人だけの時間
少し二人で話せていなかっただけなはず それなのに、 随分と久しぶりな気がした
都築慎一
都築慎一
慎一は冷徹に、 いつものように俺の本心を当ててくる
古賀勲
都築慎一
さっきまで座り込む俺を見下ろしていた慎一だったが、 俺が過去を語り始めると、 慎一は俺の隣に腰掛けた
慎一との距離が物理的に少しだけ、 縮まっただけ
それなのに、 俺の心拍数は上がっていった
俺が自分の過去を慎一に語っている間に、 水色だった空は茜色になっていた
久しぶりに二人きりで話せる時間だったが、 時の流れは意外に短いものだった
都築慎一
古賀勲
都築慎一
「帰りたくない」という本音を、 いつものように強がって、 「帰したくない」に言い換えた
古賀勲
だけど、 すぐに俺は我に返り、 慎一の返答を遮って、 「なかったこと」にした
古賀勲
都築慎一
古賀勲
都築慎一
慎一は口元を緩めて、 俺に手を振ってくれた
露子が来る前に見せてくれていた温かい笑顔と、 全く同じ
他の奴には見せない、 その不器用だけど温かい笑顔を見ると、 俺にも慎一の表情が移っていた
ある日、 露子が坑道で遊びたいと言うから、 いつもは近づかない坑道に入った
その結果、 露子は瓦礫の下敷きになり、 そのまま亡くなった
慎一は声を上げることなく、 静かに泣いていたが、 俺の心には、 真っ先に「ざまあみろ」という言葉が浮かんだ
しかし、 慎一は亡くなった露子の手を離そうとしなかった
古賀勲
都築慎一
古賀勲
都築慎一
慎一は、 いつものように俺の本心を突いてくる
認めたくないけどその通りだ 露子ばかりを構う慎一に、 俺を見て欲しかった
だけど、 そんな思いを言葉にするほど、 俺は素直ではなかった
古賀勲
俺は必死になって、 露子から慎一の手を離そうとする
慎一と露子が手を繋いだ、 そんな光景は見たくなかった
その時、 天井から岩盤が落ちてきて、 おれは露子と同じように瓦礫の下敷きになってしまった
都築慎一
慎一はようやく露子から手を離し、 その場から逃げ出そうと後退りをする
まずい、 慎一がどこかに行ってしまう
俺は掠れた小さな声を、 必死に絞り出すように出した
古賀勲
都築慎一
慎一には俺の声が届いたのか、 逃げようとする足を止めて、 俺と目を合わせるようにしゃがみ込む
古賀勲
強がってて、 ずっと言えなかった本音を、 ようやく漏らした
しかし、 やっとのところで、 俺は力尽きてしまい、息絶えてた
俺の体は動くことなく、 心臓も止まっていた しかし、
都築慎一
都築慎一
慎一の声は、 亡くなっても聞こえていた
慎一は俺が動かなくなっても、 さっきの露子のように離れようとせず、 優しい手つきで頭を撫でてくれた
そして、 亡くなる直前まで、 慎一が啜り泣く声だけは、 最後まで聞こえていた
よりにもよって、 なんで俺なんだろう
露子がいなくなった後に、 前みたいに慎一と二人で、 もっと話したかった
ジジィになって、 髪の毛がハゲる姿を いじってやりたかった
心残りはたくさんあったけど、 最期に慎一が傍にいてくれて、 温かかった
コメント
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第16話、読み終わりました……。最後の「慎一が傍にいてくれて、温かかった」という一文に、胸がぎゅっとなりました。勲くんがずっと強がって、慎一くんに「自分を見てほしい」と必死だったのが、最期にようやく本音を言えて、しかもちゃんと受け止めてもらえた。その報われ方が切なくて、でも確かに温かかったです。慎一くんの啜り泣く声が最後まで聞こえていた、という描写も、余韻が深くて忘れられません。