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ウロボロスの慟哭

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ウロボロスの慟哭

2 - 2話 微笑む殺意

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2023年09月21日

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白壁

血のニオイ…バスの中からしてるのか?

白壁

中から、妙な音もしてる…

白壁

(きつい事件のニュースが続いてるから、嫌な想像をしてしまう)

白壁

狩猟資格を持ってる人、かな。猪か鹿でも解体して…

白壁

それか、野犬かなにかが中に…

白壁

(やめておけ、行かないほうがいい。近づくな)

白壁

(下手な現実逃避だ、なにも考えず逃げたほうがいい)

白壁

(もし本当に犯罪現場なら、俺自身の身だって)

???

うわっ

ドチャッ!

白壁

(人の声! 転倒したのか?)

白壁

(乗降口になにか、白いボールみたいなのが…?)

白壁

ヒッ…!!

転がり出ていたそれは、視神経のついた眼球だった

白壁

あ、うぁ…!

腰が抜け、枯れ葉が大きく鳴る

白壁

(ダメだ、音を出してしまった…!)

白壁

(ああ出てくる、誰かが廃バスを降りてくる!!)

白壁

(起きろよ、早く、早く逃げないと…!!)

玄迫

あれ、白壁くんじゃないですか

白壁

…へ?

玄迫

ここはキャンプ場や展望台からも距離があるのに

玄迫

なんでこんな場所に?

白壁

玄迫…先生…?

思いがけない知人の登場に、白壁の全身から力が抜けた

白壁

なんだ、先生だったんですか…!

白壁

すみません、俺すごく失礼な勘違いを!

白壁

あのその、俺、キャンプで夜に山の散策するのが好きで…!

玄迫

それはまた事故に遭いそうな趣味ですね

玄迫

勘違いって、クマかなにかかとでも思いました?

白壁

ああいえ、そうじゃなくて

白壁

(まさか殺人現場だと思ったとか、言えないよなぁ)

苦笑して頬を掻き、恐らく鹿かなにかを解体しているのだと納得した

白壁

先生がこんなワイルドキャンパーだとは知らなかったなぁ

白壁

この廃バス、先生の所有物ですか?

玄迫

いいえ、一晩お借りしてるだけです。悪いことなんですけどね

白壁

俺も惹かれたんですよ、これ

白壁

ちょっと中見てもいいですか?

玄迫

もちろんいいですけど、今は中に不快にさせそうなものが…

白壁

ああ、なにか解体中ですよね。血抜きも中でやってるんですか?

白壁

さすがにそれだと匂いがこもって…

バスに上がった白壁は、それきり言葉を失った

中にあるランタンの光が鮮烈な赤を見せる

見えたのは、黄色い脂肪と血にまみれた、人間の死体だった

白壁

うわ、うわぁああああああああ!!

階段から転がり落ち、頭を打っても、恐怖はやまなかった

玄迫

白壁くん。落ち着いて、白壁くん

白壁

く、来るな! 来るなぁ!! ぅぐ…!

びちゃびちゃびちゃっ

嘔吐しながら、近付こうとする玄迫を手だけで牽制する

白壁

尊敬してたのに…! あなたが殺人を犯すなんて!

白壁

こんなの裏切りですよ、信じられない!

白壁

目撃した俺のことも殺すんですか!!

玄迫

落ち着いてください、そんなことはしませんよ

玄迫

君はなんの罪も犯していない善良な人だ

玄迫

そんな人を殺す理由はないでしょう

白壁

そこの人は…!

白壁

その人には、殺される理由があったとでも言うんですか!

玄迫

ええもちろん

玄迫

あれは再犯した殺人鬼です

白壁

…え?

玄迫

30年ほど前のことです

玄迫

眠っている妻から乳房と性器を切り取る、猟奇事件が起きました

玄迫

同居家族が発見したので発覚は早かったんですが

玄迫

奥さんは処置が遅かったことであえなく死亡

玄迫

病床の妻を失う恐怖に耐えかねての凶行だったとされています

白壁

その犯人が、そこの人なんですか

玄迫

そう

玄迫

無期懲役で30年ほど収監され、先日仮釈放になったんです

玄迫

──白壁くん

玄迫

さっき言った犯行と似た事件、最近聞きませんでしたか?

白壁

…昨日、確かそんなニュースの通知を…

白壁

まさか

玄迫

仮釈放中の再犯率なんてごく僅かのはずなのにね

玄迫

──忘れられなかったんでしょう。人体を切りとる感覚が

笑いながら目だけは強い怒りを湛えた玄迫に、白壁は怖じ気づいた

白壁

だから殺したって言うんですか?

白壁

だとしても司法に任せるべきじゃないんですか!

白壁

殺すなんて、私刑にするなんて、いくらなんでも人道に…!

玄迫

だけどみんな喜んでるじゃないですか

玄迫

司法はぬるいと、みんな思っているでしょう?

玄迫

被害者感情を軽んじている、もっと重い刑じゃないと罰にならない

玄迫

反省もしない人間は死んでほしいと

玄迫

僕のやっていることを、天罰だと賞賛するほどに

白壁

──天罰さま?

白壁

玄迫先生が?

呼びかけに笑顔を見せた玄迫に、次の瞬間、白壁は逃げ出していた

白壁

(あれから、テントを詰め込むようにして逃げ帰ってしまった)

白壁

(寒くもないのに、体の震えが止まらない…!)

白壁

(目を閉じると、あの死体が、目の前に…!!)

ガチガチと歯を鳴らし、頭から布団を被って恐怖に耐える

白壁

(どうしたらいいんだ、月曜だって仕事があるのに)

白壁

(通報しても絶対俺だってバレるし、逆恨みとか…!)

白壁

(いや、速効で逮捕されるなら…逆恨みの心配はないのか…?)

むくりと起き上がり、スマートフォンを見る

ホーム画面には緊急通報ボタンが表示されていた

翌朝

玄迫

おはようございます白壁くん

玄迫

今日もいい天気ですね

白壁

…おはようございます、玄迫先生

白壁

(もしかしたらもう職場に来ないんじゃないかと思ったのに)

白壁

(普通にいるし!)

白壁

(しかもあっちから話しかけてくるし!)

白壁

(どういう神経してんだ、この人!)

戸惑いと憤慨が入り交じった複雑な気持ちながらも、仕事にかかる

スタッフ

玄迫先生、次の依頼者さんなんですけど

玄迫

長田さんですか?

玄迫

ああ、電車内でパニックになってしまわれたんですね

玄迫

白壁くん、悪いんですが○駅に迎車行けますか?

白壁

あ、はいもちろん!

白壁

(あんな事をしでかした人だけど、仕事ぶりは真面目だ)

白壁

(カウンセリング相手だけじゃなく、みんなに優しいし)

白壁

(もし俺に危害を加えられないなら、見て見ぬフリも…)

…その考えが止まったのは、終業後だ

夕刻

白壁

(このタイミングで先生と二人で残されることあるか!?)

白壁は頭を抱え、書棚に隠れて玄迫を見る

白壁

(書類片付けてたらまさかの事態だよ!)

白壁

(いや、今日は先生だってすごくニコニコ仕事してたし)

白壁

(いくらなんでも職場で俺を殺すようなことは…!)

玄迫

なんで通報しなかったんです?

白壁

へぇ!?

玄迫

ははっ。とんでもなく緊張してるの笑えますね

白壁

いや、こっちは笑いごとじゃないんですよ…

白壁

(まさか直球でこんな話を振られるとは思わなかった)

白壁

(もう、なぁなぁで済ませていくのかと思ってたのに…)

白壁

(この場合、誤魔化すべきか? それとも正直に…)

しばし頭を捻ったあと、白壁は挑むように玄迫を見た

白壁

本音で、話します

玄迫

どうぞ

白壁

職場で見る限り、あなたは優しい

白壁

被害者や遺族にも真摯に向き合っているのを知ってます

白壁

それに天罰さまの犯行は──正義感の賜物じゃないですか

白壁

だから一度は通報も考えたけど、思い留まったんです

その言葉に一瞬の沈黙が落ち、やがて

玄迫

あっはははははははははははは!!

響いたのは、弾けるような笑う声だった

白壁

な、なにがおかしいんですか!

玄迫

いや、いやいやこれは、これは予想外すぎて

玄迫

はーっ、すみません。あんまり笑うと失礼ですよね

玄迫

だけどあのね白壁くん。ふふっ

玄迫

──失礼ですが、アタマ大丈夫ですか?

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