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#ドラマ
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家の玄関をくぐって間もなく、
直人と莉乃は、まるで
“いつもの儀式”のように 凪を呼びつけた。
雨宮 莉乃
わざとらしく優しい声。
けれど、その奥にひそむ冷たさは、
凪の身体にすぐ伝わる。
凪は静かにランドセルを床に置いた。
“今日はどんな命令だろう”
喉の奥がつまる。
でも、昨日よりほんの少しだけ、
心のどこかが固くなっているのも 自分で分かった。
直人が凪のランドセルを 片手で持ち上げる。
重さなんて感じていないような 軽い仕草。
雨宮 直人
にやり、と口元だけが笑う。
次の瞬間、
ランドセルがふわりと 放物線を描いて
莉乃の方へ投げられた。
雨宮 莉乃
莉乃がキャッチし、 すぐさままた投げ返す。
まるでボール遊びのように。
でも、笑っているのは2人だけだ。
凪の胸がチクリと痛んだ。
手の届かない位置で 宙を舞う自分の物。
教科書もノートも入っている。 大事なもの。
雨宮 凪
絞るような声が出たが、 2人の耳には届かない。
雨宮 直人
雨宮 莉乃
からかいの声が刺さる。
視界が滲みかける。
だけど──
今日は涙をこらえられた。
ぐっと唇を噛む。
泣いても変わらないなら、
せめて今は…涙だけは見せない。
直人が目を細める。
その反応が気に入らないのか、
あるいは別の“試し”を 思いついたのか。
雨宮 直人
雨宮 直人
次の命令が口をついて出る気配に、 凪の心臓がぎゅっと縮む。
“試し”は終わらない。
むしろ、これからもっと深いところへ
潜っていく──。
玄関の薄明かりの中、
凪はランドセルをしっかり抱きしめた。
泣きそうなのに、泣かない。
弱いのに、折れない。
その小さな変化を、 兄姉だけがすぐに見抜いていた。