人間社会の技術進歩は、猫社会にも影響を及ぼしていた
『にゃんチャット』という新たな猫ネットワークの誕生である
ヨシダさん
…ふぅ。今日も我が主は寝坊さ

ヨシダさん
ドタバタとやかましく仕事に行ったよ

スズ
毎朝の恒例行事だね

ヨシダさん
ともかく、今からは俺達の時間だ…イタタッ、まだヒリヒリする

スズ
どうしたの?怪我?

ヨシダさん
今朝はドタバタついでに俺の尻尾を踏んで行ったんだ

スズ
うわっ。痛そう…大丈夫?

ヨシダさん
だいぶ痛みも引いた。心配ない

スズ
それなら安心

スズ
でも、どうして毎日同じことを繰り返すのかなぁ

スズ
ニンゲンって不思議だね

ヨシダさん
スズの主も朝寝坊か?

スズ
ううん。余裕持ってるよ

ヨシダさん
俺も、一度は余裕ある主を見てみたいものだな

スズ
私は…うーん

スズ
ドタバタするご主人は見たくないかも…

ヨシダさん
ま、見苦しいからな。今日のようにとばっちり食らうこともあるし

スズ
私、ご主人にはいつも優雅でいてほしいな

スズ
それで、たまに遊んであげるの

スズ
そうするとご主人も、すっごく楽しそうなの

ヨシダさん
仲が良いんだな

スズ
んふふ~。やっぱり私がかわいいからかな?

スズ
…なんてね

ヨシダさん
ハハ、我が主もかまってやると嬉しそうだぞ

ヨシダさん
俺と遊ぶと疲れも吹き飛ぶそうだ

スズ
私のご主人も同じこと言ってた

スズ
もう立派な大人なのに甘えんぼなのね

ヨシダさん
可愛らしいものだ。そこが好きなのだが

スズ
本当にね~

ヨシダさん
む。スズ、緊急事態だ

ヨシダさん
主の足音が近づいてきている

スズ
ニャッ!?この時間は仕事中じゃ?

ヨシダさん
わからない。まずい、かなりの急ぎ足のようだ

スズ
ニャニャッ!?パソコン切らなきゃ!

スズ
えーとえーと…

ヨシダさん
待て。スズは切らなくてもいいだろう

ヨシダさん
いったん落ちる。またな

スズ
れれれれれれれれれれれれれれれ

ヨシダさん
スズ、起きろ。キーボードから足を離せ

スズ
…にゃ?ヨシダさん?

ヨシダさん
寝る時はパソコンから離れろと言っただろう

スズ
つ、つい…。うわぁっ、れ、がいっぱい!

スズ
何これ、はずかしーっ

ヨシダさん
ククッ。この前は「ひ」が並んでいたな

ヨシダさん
スズも不気味に笑うものだと

スズ
もう、忘れてよーっ

ヨシダさん
ははは、善処する

スズ
ヨシダさんのそれは信用ならないからなぁ

スズ
ところで、主さんはもう行ったの?

ヨシダさん
ああ。忘れ物を取りに来ただけだった

スズ
そっか。あー、びっくりした

ヨシダさん
悪いな。そそっかしい主で

スズ
バレなかったんだから、いいよ

スズ
まさかご主人がいない時にチャットしてるなんて

スズ
知ったらびっくりだよね

ヨシダさん
びっくりどころじゃないだろう

スズ
いつかご主人にメール送りたいなぁ

ヨシダさん
やめとけ。混乱させるだけだ

ヨシダさん
あ、エリザだ

ヨシダさんの家は窓を開け放っているため、よく出入りするのだ
エリザ
ごきげんよう、スズさん

エリザ
今日も引き籠っているのかしら?

スズ
ム。あんた、汚れた足でヨシダさんの家にあがってるの?

エリザ
わたくしが汚れているわけないでしょう

スズ
野良猫のくせに

エリザ
何よ、ひ弱な家猫の分際で

ヨシダさん
おい、ケンカはよせ

スズ
だってエリザが

エリザ
スズさんが生意気なせいですわ

スズ
上から目線を棚に上げてよく言うよ

エリザ
仕方ないでしょう

エリザ
わたくしは女王なのですから

エリザ
生まれ持った高貴さというものですわ

スズ
野良が何を気取ってんだか

スズ
あんたなんて、ただの性悪ババアじゃない

ヨシダさん
スズ、汚い言葉を使うものじゃない

スズ
ヨシダさん、エリザを追い出してよっ

スズ
そいつと話してるとストレスだから!

エリザ
円形脱毛症にでもなればよろしいですわ

エリザ
おほほほほほっ

スズ
むかつく…!

ヨシダさん
二人とも、いい加減にしないか

スズ
そもそも!ヨシダさんはどっちの味方なの?

エリザ
確かに、気になりますわね

スズ
そろそろハッキリしてくれてもいいよね

ヨシダさん
何でそういう話になるんだ…

ヨシダさん
君達が仲良くしてくれればいいんだ

スズ
またそうやって自分は無関係って態度するし!

エリザ
日和見もたいがいになさいませ

ヨシダさん
実際、俺は無関係だろう

ヨシダさん
もういい。勝手にやりあっててくれ

スズ
……

エリザ
…………

スズ
…ヨシダさん、怒っちゃった?

エリザ
怒ったというより、不貞腐れてますわ

スズ
う…さすがにやりすぎたか

スズ
ヨシダさん、ごめんね。八つ当たりしちゃった

エリザ
わたくしも、女王の振る舞いではありませんでしたわ

スズ
もう巻き込まないから。またお話ししよ?

エリザ
お詫びにイキの良いネズミを差し入れしますわ

スズ
わ、私も!私も、おいしいゴハンあげる!

エリザ
あら。家から出られますの?

エリザ
出たとしても、迷子になってベソかきそうですわね

スズ
ならないもん!馬鹿にして!

スズ
…っとと。いけないいけない

エリザ
…失礼。言い過ぎましたわ

ヨシダさん
君達…

ヨシダさん
ケンカをしないという選択肢はないのかね?

スズ
それは無理

エリザ
無理ですわね

スズ
だって、エリザのこと気に入らないもの

エリザ
こっちのセリフですわ、この小娘が

エリザ
ですが、ヨシダさんを巻き込むことはしませんわ

エリザ
わたくしの名に誓って

スズ
私も誓う

スズ
エリザはともかく、ヨシダさんは大事なチャット友達だもん

ヨシダさん
ま、俺の見えないところでやり合うなら…

ヨシダさん
好きにすればいい

スズ
ヨシダさんの見えないところ…

エリザ
あ、あるかしら…

スズ
エリザ、他に家に入れてくれるとこないの?

エリザ
隣のバカネコの領地になら心当たりが…

エリザ
見つからなければ、ですけれど

スズ
危ないところなんだね

エリザ
ですが、ヨシダさんのためなら突破してみせますわ!

スズ
あんまり無茶したらダメだよ

ヨシダさん
何もそこまでしなくても…

ヨシダさん
というか、君達本当は仲が良いのでは?

スズ
それはない

エリザ
気味の悪いことを言わないでください

ヨシダさん
やれやれ

スズ
あ、そろそろご主人が帰って来る時間だ

ヨシダさん
では、今日はここまでだな

スズ
いつもありがとね。またお話ししようね

スズ
エリザは別にいいけど

エリザ
わたくしはお話ししてあげてもよくってよ

エリザ
あなたと違って心の広いオトナですから

スズ
ふ、ふんっ。私だって、たまーーーにならいいよ!

ヨシダさん
君達…

スズ
あ、あははっ。じゃあ、またね!
