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彼女

今から

彼女

君に絵を描いてあげようか

彼女は僕の許可なんて 聞く気もなかったと思う

"描いてあげようか"

とか言いながら既に

タブレットとペンを用意し

膝の上に乗せた

制限時間は到着駅、終点までね

描き出した彼女のペンは

もう止まらない

__高校から来ました小鳥遊翼です

季節は梅雨

この中途半端な時期に 転校してきた僕は

クラスの前で簡単な自己紹介をした

同じ自己紹介を何度もやっても

慣れないものは慣れない

じゃあ後ろの空いている席に座ってね

先生にそう言われ 真っ直ぐ自分の席へと向かった

隣の席には女子が 座っていたけど

自分から話すことが苦手な僕は

挨拶せずに席に座った

挨拶とかして仲良くなれれば

漫画とかでよくある シーンになるのになぁ

としょうもないことを考える

ふと窓越しに外を眺める

うっすらと隣の人の姿が見えた

まさか 自分のことを見られてるとは

思うはずない

隣の女子と窓越しに

目が合ってしまった

それでも彼女は

目を逸らすことはしなかったし

僕もしなかった

だって、きっと

気のせいだと思うから

そんな彼女と 話すことになったきっかけは

転校してから1週間後のこと

放課後 僕が美術の先生に頼まれて

ダンボールを美術室に置きに行こうと

した時だった

誰もいないと思っていた 部屋の中には

僕に背を向けて

ひたすらに絵を描いている 女子生徒がいた

扉を開ける音をたてても 彼女は気づかない

彼女の集中力を 妨げることはしたくなかったから

静かにダンボールを 指定された位置に置いた

彼女は僕に全く気づかない

一生懸命描いている彼女の絵を

何となく見たくなった

そこに描かれていたのは

まるで

夢の世界を 見ているような絵だった

思わず魅入ってしまう

流石にその場に 居すぎたのかもしれない

じっと絵を見ていると

彼女は僕の方を振り向いた

えーっと、あの、その...

彼女と目が合った瞬間

どんな言い訳をしようかと

慌てて考えたけど

何も思いつかず あたふたしてしまう

彼女

私の絵、どう?

まるで僕がここにいた事を 知っているかのように

冷静に

彼女は僕に聞いた

なんて言うかその、

幻想的で僕は好きです

感想を伝えることが苦手な僕は

これで精一杯だった

でもとても素敵だということには

間違いない

彼女

ありがとう

彼女は僕に笑顔を見せた

その時に

隣の席の彼女だということに 気づいた

彼女

翼くんは絵、好きなの?

別に好きとかじゃないけど

君のはなんか魅入った

彼女

そっか

彼女は再び手を動かした

ここ美術部なんてあった?

彼女

あるけど、誰も殆ど活動してないよ

転校初日に部活動の一覧を

先生に見せてもらったけど

美術部があったことに気づかなかった

知らなかった...

彼女

まぁ部活動紹介もまともにしてないからね

それから彼女は 手を止めることなく

絵を描き続けた

僕はそれを

じっと見続ける

双葉さんまだやってたのね

もう下校時刻だから片付けちゃいなさい

美術の先生が声を掛けてきたことで

もうそんな時間が 経っていることに気づいた

彼女

はーい

あら小鳥遊くんもいたのね

ダンボール運んでくれてありがとう

彼女は速やかに道具を片付けた

僕はとくに教室に居続ける理由も なくなったから

教室を出ようとした

彼女

ねぇ

彼女

せっかくだし一緒に帰ろうよ

断る理由もなく 僕は彼女の片付けを待った

外はさっきまで雨が降っていたとは 思えないほど

綺麗な夕焼けで包まれていた

彼女

君さ

彼女

転校初日私と目あったでしょ

校門を出てすぐ

僕を覗き込みながら彼女は言った

気づいてたんだ

彼女

そりゃね

彼女

私、ぼーっと外見るの

彼女

好きだから

彼女

あの教室緑が綺麗だったでしょ?

うん

彼女

だから好きなんだ

彼女

春はもっと綺麗で

彼女

沢山の桜が見れるの

彼女

ってそんなことはどうでも良くて

彼女

君も美術部入らない?

え?

あまりにも唐突な発言に

思考も歩みも止まってしまった

彼女はそれに気づいたようで

僕の方へ振り返った

彼女

見てたんだよね

彼女

君が授業中絵を描いてたの

絶対に見られていないと思っていた

あまりの恥ずかしさに

彼女の目を見ていられなくなる

彼女

あんまよく見えなかったけど

彼女

なんか凄く楽しそうだった

彼女

さっきあんなこと言ってたけど

彼女

好きなんでしょ、絵

初めて会話したというのに

どうしてこんなにも バレてしまうのだろう

どうしてそんなに気づくの

彼女

趣味だからね

彼女

人間観察

"立ち止まってないで帰るよ"

彼女の言葉でまた歩き出す

今まで絵を描いてきて

バカにされ続けてきたから

美術部になんて入る気はなかった

それに どうせまた転校するだろうし

でも

何故か

今回は入ってみたいと思った

入りたいです

彼女

えっ

僕、美術部入りたい

彼女

ありがとう

彼女

嬉しい

夕焼けと彼女の笑顔が

マッチしていて

とても

綺麗だった

あの、今更なんだけど

名前は...

彼女

双葉心菜

彼女

心菜って呼んでいいよ

今まで僕がどれほど

周りを見ていなかったのか

痛いほど分かった気がする

つまらない授業中

いつも通りにノートを広げ

適当に絵を描いていると

凄く視線を感じた

横を見ると

彼女が僕のことを見ていた

彼女はにこっと笑って返した

今までもこんな風に 見ていたのだろうか

彼女には常に周りに人がいて

あの時絵を描いていた表情とは

全く別の顔をしていた

それから描きたいと思った日に

美術部へ行き

彼女と一緒に絵を描いた

彼女はとても優しくて

僕の描いた絵を一切笑わなかった

そんなことは初めてで

凄く温かかった

僕はずっと心菜と

絵を描き続けられると思ってたのにな

彼女が絵を描いてあげると言ってから

もう30分は経っただろうか

相変わらず

絵を描く彼女はとても真剣で

殆ど喋らない

だから僕は駅に着くまで

目を瞑りながら

彼女と出会った時のことを 思い出していた

一緒に絵を描き始めて

まだ1年も経ってないのに

あれは確か

寒かった冬が

終わりを迎えそうな 時期だったと思う

彼女はこの春

引っ越すと

僕に告げた

唐突な言葉で声が出なかったのを

覚えている

次は__、__駅、終点です

心菜

もう駅着くよ

彼女

うん、もう完成するから

本当はこの電車に揺られる時間は

彼女と話す時間にしたかった

でもそれ以上に

絵を描いている彼女を見るのが

僕は好き

彼女

よしっ完成

彼女はぐーっと腕を伸ばして

やりきったという表情を こちらに見せた

お疲れ様

彼女

キャンパスに描く絵もいいけど

彼女

デジタルもいいね

まさか初めてデジタルを?

彼女

んーまぁ数回ぐらいかな

それにしては手馴れたように

操作していた気がするけど

彼女

あぁもう着いちゃった

彼女

さ、電車降りよ

電車を降りて景色を見ると

そこは満開の桜で覆われていた

彼女

どう?

彼女

素敵な所でしょ

あぁ、とても

彼女

教室の桜は一緒に見れなかったけど

彼女

どうしても君と見たかったから

彼女

着いてきてもらっちゃった

最高だよ

ありがとう

彼女

それとイラストね

僕に描いてくれた絵を見せてくれた

絵の中心には人がいて

翼が生えている

桜と綺麗な緑でいっぱいの背景

もう言葉では表しきれない

好きだ

彼女

ふふっ、ありがとう

彼女

喜んでもらえて良かった

彼女

さて、見せたいものは見せたし

彼女

この地域を観光しようか

えっ

彼女

このまま帰らせる訳にもいかないでしょ

彼女

それに

彼女

君とは少しでも長くいたいからね

それってどう言う意味...

彼女

さ、いこ!

彼女は僕のことを置いて

真っ直ぐ前へ進んでいく

僕はふぅっと一息ついてから

彼女を追いかけた

今は別れなんて考えずに

楽しもう

君との思い出は

貰った絵に 詰まっているから

この作品はいかがでしたか?

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コメント

8

ユーザー
ユーザー

青春をぎゅっと凝縮したような情景が広がっている素敵な物語世界でした✨ ふたりのその後も見ていたかったですがそんな必要がないほど綺麗なラストシーンでした👏お見事!

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