太田豊太郎
翻訳は一晩で終えた。
太田豊太郎
ホテル・カイザーホーフに通うことはこれ以降段々頻繁になっていき、
太田豊太郎
初めは天方伯の言葉も用事だけだったが、
天方伯
太田、これについて、どう思うかね?
太田豊太郎
後には近頃故郷であったことなどを取り上げて俺の意見を聞き、
天方伯
そういえば、旅の途中でな……
太田豊太郎
折に触れては旅の途中で人びとの失敗があったことなどを話してお笑いになった。
太田豊太郎
一月ばかり過ぎて、ある日天方伯は突然俺に向かって、
天方伯
わしは明日、ロシアに向かって出発する
天方伯
お前もついて来るか?
太田豊太郎
と尋ねた。
太田豊太郎
俺は数日間、公務で忙しい相沢にあっていなかったので、
太田豊太郎
この問いは突然で俺を驚かした。
太田豊太郎
「どうして命令に従わないことがあるでしょうか」
太田豊太郎
……俺は自分の恥を言おう。
太田豊太郎
この答えはいち早く決断して言ったのではない。
太田豊太郎
俺は自分が信じて頼みにする人に、
太田豊太郎
突然物をたずねられたとき、とっさにその答えの持つ意味もよく考えず、
太田豊太郎
すぐに肯定してしまうことがある。
太田豊太郎
そうして肯定しておいて、それをやるのが難しいことに気づいても、
太田豊太郎
肯定したとき何も考えていなかったことを隠し、
太田豊太郎
我慢してこれを実行することがしばしばであった。
太田豊太郎
この日は翻訳の代金に、旅費を添えていただいたのを持って帰って、
太田豊太郎
翻訳代をエリスに預けた。
エリス
~♪
太田豊太郎
これでロシアより返ってくるまでの生活費を支えることが出来るだろう。
大臣の信頼がだんだん厚くなる豊太郎だったが…… 続く。