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体育祭当日の早朝
空はまだ薄く白んでいて、 川面にはまだ朝靄がかかっていた
人の気配は少なく、聞こえるのは川の音と、自分の呼吸だけ
私は一人、河川敷の ランニングコースを走っていた
花
花
足が地面を蹴る感覚を、 確かめるように
私はもう一度走り出した
その時、向こうから誰かが 走ってくるのが見えた
すれ違いざま、目が合う
蓮
花
白崎君はペースを落として、 隣に並んだ
蓮
花
蓮
朝の空気が、 肺に冷たく入ってくる
蓮
花
蓮
白崎君は前を向いたまま言った
何周か走り、足を止める
そして川を見下ろす土手の上で、 息を整える
蓮
蓮
花
蓮
蓮
その時
胸の奥が、 すっと軽くなった気がした
蓮
花
花
その時
朝日が、ゆっくりと川面を 照らし始めていた
そして──
いよいよ体育祭が開催
校庭には、すでに大勢の人が 集まっていた
保護者たちは校庭の端にシートを広げ、カメラを構えている
花
花
蓮
花
蓮
蓮
私たちは校庭の中央に整列した
ざわめき、笑い声、 スピーカーの音
これより、第○回体育祭を 開催します──
校長先生の声がマイク越しに響く
……やっぱり、長い
周囲の男子たちが 小さくため息をつく
私は視線を前に戻す
最初の競技は、玉入れ
私たちのクラスは バスケ部の多いクラスだ
有利すぎて、他のクラスは 萎縮した
男子高生A
そんな声があちこちから上がる
バスケ部
おーーー!!
開始の合図と同時に、 玉が一斉に宙を舞った
放物線を描いて、 次々とカゴに吸い込まれていく
花
迷いのないフォーム、 正確なコントロール
結果は開始前から 決まっていたようなものだった
先生A
歓声が上がり、私も 掌を握りしめた
蓮
花
胸の奥が、少し温かくなる
次に、パン食い競争
スタート地点に立った瞬間、 ざわつきが起きた
男子高生B
男子高生C
ぽっちゃり男子…… 基、丸山君は、頭のはちまきを ぎゅっときつく縛り
真剣な目でトラックに設置された パンを見つめる
丸山元
目が、完全に獲物を捉えた 肉食獣のそれだった
蓮
陽斗
──パン!!
ピストルの音が鳴った次の瞬間
男子高生A
男子高生B
男子高生C
丸山元
丸山君は迷いなし
ほんの一瞬で設置していた パンがなくなる
そしてそのまま ゴールテープを切った
先生B
陽斗
丸山元
当の本人は満足そうにパンを 頬張っている
丸山元
丸山元
男子高生A
観客席は笑いに包まれた
そして、借り物競走
2組の選手として 名前を呼ばれたのは、 なんと瀬戸君だった
陽斗
軽く手を上げ、スタートラインへ
瀬戸君はピストルと同時に 走り出し、お題が書いてある 紙を引く
瀬戸君は一瞬だけ紙を見て、 ──笑った
そのまま一直線、 向かった先は……
花
瀬戸君は迷いなく 私の腕をつかみ、引っ張った
抵抗する間もなく、 走り出す瀬戸君
花
手を振りほどこうとしたが、 瀬戸君は私の手を握る
一気に、身体が冷える
母
父
心臓が、凍ったみたいに固まる
ゴールテープを切った瞬間、 歓声が上がった
そして係員が、お題を読み上げる
係員
陽斗
陽斗
花
陽斗
私は、氷みたいに固まったまま、 声が出なくなった
昼休み
お弁当を食べ終えたあと、 私は校舎に戻り、 トイレの鏡の前に立った
花
花
結び目をきゅっと直し、 私は深呼吸する
花
花
そう自分に言い聞かせて、校庭へ戻ろうとした、その時──
──コツン
花
角を曲がった瞬間、 誰かにぶつかった
花
蓮
一瞬、互いに言葉が止まる
近い、思ったよりずっと
白崎君の視線が、 私の頭のてっぺんに落ちる
蓮
花
ぽつりと零れた声
白崎君は無意識に、 手を伸ばしかけて、 途中でぴたりと止めた
花
私は、その不自然な間に気づく
花
恐る恐る聞くと、
白崎君は一瞬目を泳がせ、 慌てて手を引っ込めた
蓮
白崎君がそう言った瞬間、 彼の耳が赤く染まった気がした
蓮
彼はぼそっと付け足して、 視線を逸らした
花
蓮
花
蓮
蓮
蓮
蓮
蓮
「あいつのこと……」
そしていよいよクラス対抗リレー
校庭の熱気が、一段階上がる
放送係の指示が響いた瞬間、 私の胸が、どくんと鳴った
トラックの内側では、 すでに大歓声が巻き起こっている
母
母
父
母
母
父
炎城寺大
蓮
陽斗
花
炎城寺大
炎城寺大
おーーー!!
最初の走者は、炎城寺君
スタートの合図と 同時に飛び出し、 迷いのない走りで、次々と前を 行くクラスを抜いていく
炎城寺大
蓮
陽斗
バトンはトップで、瀬戸君へ
瀬戸君は余裕のある表情で 受け取り、風を切るように走る
ふざけた態度はどこにもなく、 ただ真っ直ぐ、前だけを見ていた
観客席にいる他校の女の子達の 歓声がすごい……
陽斗
瀬戸君は白崎君にバトンを渡す
白崎君は歯を食いしばり、 全力で走り出した
トップはまだ私たちのクラス
他の選手たちは、まだ後方にいる
蓮
その瞬間だった
蓮
白崎君の足がもつれ、 体が大きく前に倒れた
どっと、場内がざわつく
陽斗
炎城寺大
花
砂に打ちつけられ、 痛みに顔を歪めながらも、 白崎君はすぐには立ち上がれない
その間に、 二人、三人と追い抜かれていく
クラスが一瞬で静まり返った
それでも白崎君は、 歯を食いしばり、立ち上がる
そして──
私に、バトンを差し出した
蓮
私はバトンを受け取り、 白崎君の目を見る
花
私ははっきりと白崎君に伝え
思いっきり走った
その一言で、 クラスの空気が一気に変わる
炎城寺大
風の音が、耳を打つ
前には、男子の背中
一人、また一人
中学の頃、 走るたびに向けられた視線が 脳裏をよぎる
──でも、今は違う
私は地面を蹴った
一気に加速し、 男子たちを次々と追い抜いていく
男子高生A
男子高生B
ざわめきが、歓声に変わる
そして──
私は、ゴールテープを胸で切った
先生A
2組!!
その瞬間、 爆発するような歓声が 巻き起こった
炎城寺大
陽斗
蓮
花
次の瞬間、 私の体がふわりと浮いた
花
炎城寺大
突然のことに、私は固まる
恐怖で、体がこわばった
だけど
空を見上げると、 青空が、まぶしかった
──ここはもう、
あの頃の私が思う 地獄じゃないのかもしれない
そう、初めて思えた