どれくらい時間が経っただろうか
優真さんは無言のまま泣き続け
私はただそれを見ていることしかできなかった
かける言葉が見つからない
「大変でしたね」
「お疲れさまでした」
「凄く辛いのわかります」
そんな言葉が頭の中に浮かんでは消えていく
こんな陳腐な言葉を並べてもなんの慰めにもならない
沢田マリカ
結局こんな言葉しか出てこなくて
自分の無力さを痛感した
芹沢大和
でも確かにこの部屋は凄い
この部屋なら二人でもまだ余裕がありそうだ
こんな広い部屋で二人は過ごしていた
もし警察に捕まらなければ
まだここに二人でいたかもしれない
例え彼女が失声状態でもそれまでと変わらず
筆談ボードや手を使って会話をして
時々、真夜中に悪夢を見て泣きながら目覚める彼女を
優真さんがそっと抱きしめて宥め
愛する人の腕の中で再び眠りにつく
二人の心はもう
誰にも外すことのできない愛の鎖で繋がっている
例え会えなくても
どんなに離れてしまっても
これがただの誘拐事件なら
きっとこんな気持ちにはならなかっただろう
あすみさんは無事に保護されて
優真さんは逮捕されて事件は解決
でも今回の事件の裏にはもっと凄惨な事件が隠れていた
確かに優真さんはあすみさんを拉致したが
あすみさんは自らの意思で優真さんを求め
優真さんの心からの愛を受け止めた
普通とは違い歪んだ形をしていたかもしれないが
確実に彼女の心に届いていた
芹沢大和
芹沢大和
三村優真
三村優真
芹沢大和
三村優真
沢田マリカ
三村優真
私達はこのまま部屋の整理を手伝うことになったけれど
殆どの家具や荷物を置いていくと言う結論に至った
それら全てが龍一さんに与えられた物だったから
本当に必要最低限の物だけを
龍三さんの待つ山梨に持っていくと決めて
夜を待たずに作業は終了した
芹沢大和
沢田マリカ
沢田マリカ
芹沢大和
沢田マリカ
芹沢大和
芹沢大和
新たな再出発に向けて
優真さんは少しずつ前に進もうとしている
例えその先に彼女がいなくても
それでもずっと
優真さんはあすみさんのことを想い生きていくのだろう
その後、警察からの電話で
静(じん)さんが鑑別所へ行く日が決まったことを告げられた
鑑別所で一ヶ月を過ごした後、裁判にて判決が下る
静さんは少年院に行くことになるだろうと言われている
静さん自身ももう覚悟を決め
心の底から反省し更正しようとしている
あとはかすみさんがきちんと罪を認めてくれれば……
芹沢大和
沢田マリカ
あすみさんが一般病棟に移る頃
優真さんは山梨へと旅立つ
このマンションで共に過ごした
あすみさんとの思い出を胸に
でもこの時
私達は知らなかった
あすみさんのために
優真さんがある決意をしていたことを
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