母
梨花!

梨花
はい…。なんでしょうか。お母様。

母
この間のテスト、75点だったの!?

梨花
…!?

母
やっぱりそうだったのね!あなたの机の下に隠してあったわよ!

母
勉強はしているの!?

梨花
はい…。

母
してたらこんな点数取れるわけないじゃない!

母
あなた、もっとお父様の病院を継ぐ自覚を持って!

母
東大の理3、受からなきゃいけないのよ!?

母
私があなたにどれだけの時間とお金を使ってきたか…

母
早く勉強して!!

梨花
はい…。ごめんなさい…。

私は昔から、父の病院を継ぐ自覚を持てと言われてきた。
ゲームなんてしたことも無い。休み時間は、みんなギャーギャー騒ぎまくる中、私ひとりでいつも東大の問題集を必死で解いていた。
私は1度も勉強してきてよかったと思えるようなことは無かった。
勉強は出来ない。運動神経も悪い。おまけに根暗で友達もいたことがない。
梨花
失敗作だ…

母
なんであの子はあんなに出来が悪いのかしら…。

母
本当にあの子は、

母
失敗作だわ。

梨花
はぁ…

梨花
…え?

私の上履きには、大量の泥水がタプタプと入っていた。
美佳
ぷっはははははっ!

萌
こんなことされても、よく来る気になるよねー笑

美佳
ガッコ来んなよ!

萌
ちょ!待てよ!

梨花
はぁ…はぁ…

梨花
っ…!

そして私の体は宙を舞い、痛々しく地面に突き落とされた。
梨花
…?

???
やぁ~!

梨花
…!?

そこには後ろに羽がついていて、ふわふわと飛んでいる赤ちゃんのような人の姿があった。
梨花
なんで、飛んでるの?

???
僕?

天使
だって天使だも〜ん

梨花
天使?

天使
これは夢じゃない。本当に君は天国に来てしまったんだよ。

なんでこの子、私の考えていることが分かるのかしら。
天使
なんで考えていることが分かるのか?って、思っていたね!

梨花
うん…。

天使
天使ってね。誰でも1個、能力が与えられるんだ〜

天使
んで、僕が人の心を覗ける能力を持っているのさ〜!

梨花
意味わかんないし、

梨花
あとここ天国なの?天使って存在しないんじゃ…

天使
今君が立っているじゃないか〜

天使
それにしても、

天使
君はなんで死んだんだい?

梨花
何にも成功しないからよ!!!

梨花
あんたに何がわかんのよ!

梨花
みんな心の中で私の事死ねって思ってんだよ!

梨花
勉強も運動も出来ない、根暗で気弱な私の事!みんな早く死ねって言ってんだよ!

天使
そんなに容易く死ねなんて言うな!

天使は、今までのふわふわした声とは違う、地の底から響き渡るような声で叫んだ。
天使
人の命ってさ〜

天使
そう簡単には手に入らないんだよ〜

天使
親が今までにないくらい頑張って、お金をかけて、将来自分の子が困らないようにって。

天使
自分を犠牲にしてでも守ってくれる。

天使
僕、人って、悪い面が数え切れないほど沢山あると思うんだ〜

天使
君だって、その人間の黒さに押しつぶされて、今ここにいるんだろう?

天使
でも、人間ってさ。

天使
素直になれないだけで、本当は優しくてあったかいとこ、いっぱいあるんだよ。

梨花
うるさい!

梨花
何があったかいとこだ!人は冷たくて、怖くて、黒いものなんだよ!!

天使
でも君は、とてもあったかい人間だなって思うんだけど。

梨花
私が?

天使
君はいつも人間に見捨てられてきた。

天使
いじめられ、見捨てられ、卑下され。

天使
でも、困っている人がいたり、人生の道を踏み外そうとしている人を見たら、

天使
君は絶対、見て見ぬふりをしない。放っておかない。

天使
そこが、とてもあったかかったよ。

天使
そう。それがあったかいの。

天使
君はとてもあったかい人間だったのに。

天使
君はもう存在しない者となってしまった。

天使
自分から命を絶った者の魂って、永遠に魂のバトン、他の人に繋げないんだよ。

天使
お墓の近くで、腐った魂と名づけられた魂は、ずっと決められた小箱の中で眠り続けるんだ。

天使
君ももうすぐそうなる。

天使
あとちょっとで君は魂になって、肉体は半日もすれば腐る。骨も日々が入って干からびる。

天使
きっと君の魂も絶望的な色の魂になってしまうんだろうね。

梨花
嫌よ!そんなの!

天使
でも、こればかりはどうすることも出来ないんだ。

天使
最期に、君の葬式の様子を見ていくかい?

梨花
え?

天使
はい。どうぞ。

そこには真っ白いスクリーンに映し出された母と父の姿があった。
母
うぅ…

母
梨花…

母
なんであなたが自殺なんか…

母
私が失敗作なんて言ったから!

父
梨花…

母
梨花…お母さんがこの名前もつけたのよ…

母
私達は木の上で見守っている。だから、私達の上よりもっと高いところにある勝利を掴んで欲しかった…

母
だから「梨」

母
そして、大きくておおらかで、麗らかな花を咲かせて欲しい…

母
だから「花」

母
私がこの子から勝利を奪ったの…

母
木の上から大人しく見守っていくつもりだったのに…

母
ごめんなさい…!梨花…!

梨花
っ…

天使
泣いているってことは、君はやっぱり本の世界が好きで、家族が好きで、人間が好きだったんじゃないのかい?

天使
こんなことで命を無駄にするな。

天使
いつか必ず

天使
来世かもしれないけど、

天使
手を差し伸べてくれる人がいるから…
