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管野アリオ
847
#大人ロマンス
桃下結衣
320
#ロマンスファンタジー
Jasmine
1,008
浴室の扉を開けると、湯気が細く立ち昇る。
髪から滴る水滴が、タイルに小さな窪みを作っていた。
まだおぼつかない足取りで洗面台と向かい合う。
備え付けの鏡に、二日酔いの顔が映る。
日奈子
赤くなった頬。
腫れぼったい瞼。
全体的に青白い顔。
首筋や鎖骨には、何の痕跡も見えない。
そのことにほっとしながらも、胸の奥に不思議な違和感があった。
日奈子
身体に不自然な痛みはない。
けれど、どこか熱を持ったような、甘く痺れるような余韻が、身体の芯に残っている気がして――。
日奈子
昨日、何があったのか。
記憶がない以上、考えても答えは出ない。
ただ一つ確かなのは、あの綺麗な男の人と、一晩中同じ空間にいたという現実だけだ。
バスタオルで髪を拭きながら、脱衣かごに入れた衣服に手を伸ばした。
昨日も着ていた、花柄のワンピース。
そして、薄いピンク色の下着。
まさか翌日も、同じものを身に着けることになるとは思わなかった。
けれど、他に着るものはない。
逡巡した末、日奈子はまずショーツを手に取った。
それから、昨日と同じワンピースを、肌寒い素肌に直接身に纏う。
その後は壁に掛けておいた、彼のシャツも丁寧に畳んでおく。
日奈子
日奈子の服の2倍はありそうなサイズ感。
男の逞しい体格を思い出して、どくんと鼓動が強くなるのを感じた。
リビングへ続く扉をそっと開ける。
途端、芳醇なコーヒーの香りが鼻腔をくすぐった。
配置された家具はどれもシンプルで、無駄なものが少なく、スタイリッシュな空間に仕上がっている。
ソファーに腰掛けて足を組む男の姿が、部屋の全体像に溶け込んでいた。
日奈子
男は長い脚を緩やかに折り、背もたれに身を預けている。
その姿勢は極めて自然で、計算された美しさすら感じさせる。
男は無言のままコーヒーカップを傾け、深い漆黒の液体を喉奥へと流し込んだ。
日奈子が息を詰めて佇んでいると、その双眸がゆっくりとこちらを捉える。
立ち上がった男の動きは澱みなく、音さえ立てなかった。
ゆっくりと歩み寄ってきて、日奈子の指先に力がこもる。
少しシワの寄った、昨日と同じワンピース姿が気になってしまい、気恥ずかしくなった。
日奈子
日奈子
陸
男は黙ったまま、じっと日奈子を見下ろしている。
貸したシャツではなく、わざわざ窮屈な元の服を身に纏った彼女の身体――
その胸元から、細い腰のラインまでを滑るように辿り、再び顔へと戻される。
探るような熱い眼差しに、羞恥心がじわりと湧き上がった。
陸
ぽつりと零れた言葉に、日奈子は顔を上げた。
日奈子
何を咎められたのかと戸惑い、胸元を掻き合わせる。
しかし男はそれ以上何も言わず、キッチンへと向かう。
陸
遠くから投げかけられた問いに、こくりと頷く。
テーブルに運ばれたコーヒーカップから、白い湯気が立ち上る。
それを前に、日奈子は静かに、男の隣に腰掛けた。
コーヒーの表面に、小さな泡が踊っている。
日奈子
一口啜ると、深煎り豆特有の苦みと酸味が舌を刺激した。
緊張で乾いていた喉に、少しずつ潤いが満ちていく。
やがて、男の低い声が鼓膜を震わせた。
陸
その一言に、心臓が大きく跳ねる。
手のひらに、じっとりとした汗が滲み出た。
日奈子は硬直したまま、次の言葉を待つ。
断片的な記憶の欠片が、ガラス片のように危険に煌めいている。
それを掬い上げる勇気もないまま、ただ呼吸を殺した。
陸
日奈子
予期せぬ単語に思考が停止する。
男の視線が真横から突き刺さっていた。
陸
唐突な宣言に、時間が止まったような錯覚に囚われる。
陸
コメント
1件
おお、2話も一気に読んだわ。冒頭の浴室シーンの描写がすごく丁寧で、ヒロインのちょっとぼんやりした感じがリアルに伝わってきた。それに、あのイケメンが「昨日、可愛かった」とか「一目惚れした」ってストレートに言ってくるの、めっちゃ心臓に来るんですけど…。展開が急でびっくりしたけど、逆にそこがいいスパイスになってるわ。続きが気になる〜!