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春休み前
図書室は、いつも通り静かだった
最近は放課後に図書室で 本を読むのが日課となっている
私が背表紙をなぞりながら棚を 見ていると──
花
(ドサッ)
頭上から影が落ち、
反射的に顔を上げた瞬間、積み上げられていた数冊の本が傾き、 こちらへ倒れてきた
花
私は倒れてきた本に 頭をぶつけてしまった
その時
声になる前に、誰かの手が伸びた
同時に、私も手を差し出す
花
指先が触れ、目が合った
次の瞬間
「ひぃ!!」
花
鋭く裏返った声が、 静かな図書室に響いた
藤井直人
叫んだのは、図書委員の 男子だった
彼は慌てて手を引っ込め、 数歩後ずさる
私はというと、手を伸ばしたままその場で固まってしまった
数秒間の沈黙が続く
本は床に散らばり、 時計の秒針の音だけがやけに 大きく聞こえた
藤井直人
先に口を開いたのは、 男子の方だった
冷や汗をかき、 視線を泳がせながら、 恐る恐るこちらを見る
花
藤井直人
花
花
私の声は小さく、 かすれていた
そして
私と彼は、不自然な距離を 保ったまま本を拾い、 近くの椅子にそれぞれ腰掛ける
藤井直人
藤井直人
花
そしてまた沈黙が続く
彼は咳払いをひとつしてから、 意を決したように言った
藤井直人
藤井直人
私は一瞬、目を瞬かせた
花
藤井直人
私は入学式のことを思い出す
そういえばそんな人が いたような気がした
藤井君は苦笑して、肩をすくめた
藤井直人
冗談めかした口調だったが、 どこか慣れている響きだった
花
私は反射的に頭を下げる
藤井直人
藤井直人
藤井直人
藤井君は慌てて手を振る
そう言ってから、 少しだけ声を落とす
藤井直人
藤井直人
藤井直人
私は、膝の上で指を握りしめた
藤井直人
藤井直人
花
藤井直人
「女性恐怖症」 なんだよね
花
花
一瞬、周りの音が 消えた気がした
藤井直人
藤井君は視線を机に落としたまま、淡々と続けた
藤井直人
藤井直人
藤井直人
私は何も言わず、ただ聞いていた
藤井直人
藤井直人
そして藤井君は 自嘲気味に笑う
藤井直人
藤井直人
藤井直人
藤井直人
藤井直人
私の指先がわずかに震えた
花
花
藤井直人
花
藤井君が顔を上げる
花
花
私は言葉を選びながら続ける
花
花
花
花
次の瞬間、 藤井君の目がはっきりと 見開かれた
それは驚きというより、 光が差したような表情だった
藤井直人
藤井直人
藤井君は、 信じられないものを 見るように私を見た
藤井直人
私は小さく頷く
藤井君はしばらく言葉を失い、 やがて唇を噛みしめた
藤井直人
藤井直人
震える声でそう言った
藤井直人
そして、意を決したように 私の方へ向き直った
だけど距離は詰めず、 線を越えない位置で 止まったまま
藤井直人
藤井直人
友達に…… なってくれない?
恐る恐る、逃げ道を 残すような問いかけだった
彼も…… 克服したいのだろうか……
私は少し考え、そして──
花
花
はっきりと答えた
藤井君は一瞬きょとんとし、 それから安堵したように 肩の力を抜く
藤井直人
藤井直人
その声は今までで一番、 自然だった
図書室の静けさの中で、
ふたりの間に、ようやく “同じ高さの場所”が生まれた 気がした
しかしその時……
図書室の静けさを破ったのは、 勢いよく開いた扉の音だった
花
顔を上げると、そこには見慣れた二人が立っていた
蓮君と瀬戸君だった
花
陽斗
陽斗
蓮
蓮君と瀬戸君が げんなりした声で言う
陽斗
2人は今朝の数学の小テストの 答案を見せる
蓮君は25点、瀬戸君は13点…
見事に……赤点だった
どうやら二人とも、 居残りを言い渡されて、行き場を探してここに辿り着いたらしい
私は小さくため息をついた
花
蓮
陽斗
そう言いながらも、 自然と椅子を引いて、 私は空いている席を示した
放っておけないのは、 自分でも分かっている
花
花
そう答えながら、 ふと隣を見ると、藤井君が少し だけ戸惑ったように こちらを見ていた
花
花
私が声をかけると、 彼は一瞬目を丸くしてから、 こくりと頷いた
藤井直人
その様子を見て、 蓮君と瀬戸君が 首を傾げた
蓮
蓮
陽斗
藤井君は苦笑いを浮かべた
花
花
蓮
陽斗
蓮
陽斗
藤井直人
そうして、四人で 同じ机を囲むことになった
ノートを広げ、 問題集を開き、 私はペンを走らせる
花
蓮
陽斗
蓮
瀬戸君と蓮君のやり取りに、 藤井君がくすっと 小さく笑った
その笑顔を見て、 私は少しだけ安心する
静かだけど、ひとりじゃない時間
そんな空気が、確かにそこにあった
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