雨の降る路地裏
幸宏
ヒック……ヒック……
藍
おやおや、こんな所に汚らしい子犬が落ちているよ
ボディーガード
ボス、雨に濡れます
ボディーガード
どうぞ車にお戻りください
藍
まぁ、待て
藍
あたしは今日、とてもいい気分なんだ
藍
ずぶ濡れになった子犬を拾ってやるっていう慈善事業をしてもいいだろう?
ボディーガード
しかし、ボス……
藍
さぁおいで、あたしがかわいがってやろう
幸宏
…………
1ヶ月後
タワーマンション35階 3501室
幸宏
ふわぁ〜よく寝た
幸宏
今何時だ?
家政婦
昼の2時過ぎでございます
幸宏
えっ、てことは俺12時間も寝ちゃったの?
幸宏
いっけね、藍さんにどやされる
カツカツカツ
幸宏
ヒェッ、足音が近づいてくる……
ビターン!!
幸宏
痛〜
幸宏
札束で殴るの止めてくださいよ、藍さん
藍
ようやくお目覚めのようだな、坊や
藍
こんな時間まで寝ているなんて、いいご身分だな
幸宏
おはようございます
幸宏
あんまり怒ると美人が台無しですよ
藍
誰のせいで怒ってると思ってる!
藍
就活に失敗して泣いているところをあたしに拾われた“ヒモ”のくせに、惰眠を貪るな
幸宏
はい、すみませんでした!
藍
何の為にこの部屋を用意してやったと思ってる?
藍
都心の夜景を見渡せる、高級マンションの一室まるまるお前のもの
藍
資格の勉強をするにはこれ以上ないほど集中できる部屋だぞ
幸宏
豪華すぎて集中できない程です……!!!
家政婦
まぁまぁ、藍様
家政婦
幸宏様は夜遅くまで本を読まれていたみたいですよ
家政婦
ほら、テーブルの上に読みかけの本が置いてあります
藍
本を読んでいたというのは本当か?
幸宏
はい、資格の勉強をするにしても、自分のなりたいものが何かわからないので……
幸宏
視野を広げたいと思って、本を読んでいました
藍
ふん、まぁ良い
藍
頑張るんだぞ
藍
差し入れだ
幸宏
あっ、俺が食べたいって言ってた銀座堂のケーキ
幸宏
これ、高いやつなんじゃ……
藍
知らん、値段も見ずにカードで買った
幸宏
さすが、お金持ちの発言……
幸宏
ありがとうございます
藍
ふんっ、ようやく笑ったか
幸宏
藍さん、靴ズレ大丈夫ですか?
藍
靴ズレ……?
藍
どうしてわかった?
幸宏
いや、歩き方がいつもと違ったから
幸宏
威勢がないっていうか、引きずっているっていうか
藍
ぼぉーっとしてるかと思えば、よく見ているんだな
幸宏
はい、自分のママのことなので
幸宏
絆創膏貼らせてください
幸宏
靴を脱いで、ベッドに足を乗せて
藍
これでいいか?
幸宏
はい、大丈夫です
幸宏
貼り終わりました
藍
礼を言う、助かった
幸宏
新しいハイヒールなんだから、無茶しちゃダメですよ
藍
言われなくてもわかってる
藍
仕事に行ってくる
家政婦
行ってらっしゃいませ
幸宏
行ってらっしゃい、藍さん
カツカツカツ
ヒールの音を立てて、藍は去っていった
幸宏
相変わらず、仕事ばっかの人だな
家政婦
幸宏様もそうおっしゃらずに
家政婦
こんな良い暮らしができるのは藍様の財力のお陰でしょう
幸宏
それもそうですね
幸宏
タワーマンションの最上階、三食豪華な食事付き、部屋で映画も漫画も見放題、ゲームやり放題
家政婦
庶民の私からしたら羨ましい生活です
幸宏
俺にとっても羨ましい生活です
家政婦
幸宏様は、路地に落ちているところを藍様に拾ってもらわれたとお聞きしましたが
幸宏
本当、俺、犬みたいですよね
幸宏
就活でどこにも受からなくて、バイトもクビになって
幸宏
道端で泣いていたところを藍さんに拾われたんです
家政婦
まぁ、おかわいそうに
幸宏
俺なりに頑張っていたはずなんですけど、ダメでした
家政婦
藍様も、よく見ず知らずの男性を拾う気になりましたね
幸宏
顔見知りだったんです
幸宏
俺、生活費稼ぐ為にママ活していて……
幸宏
藍さんはそこで知り合ったママの一人でした
家政婦
まぁ、そうだったんですね
幸宏
お陰でこの部屋に引っ越してくることもできましたし
幸宏
お金には全く困らない生活です
幸宏
ふわぁ〜、眠い
幸宏は大きな欠伸を抑えきれない もう一眠りしようと、キングサイズのベッドに横たわるのだった