凛
沢木さん!
夏夜
…え
それは一瞬の出来事だった。
胃から何かが混み上がってくるのが分かった。でも、気づいた時には口から出ていた。
私は凛に支えられながら保健室へ向かった。
吐いた瞬間、「え」と声は出たものの表情はいつもと変わらない無表情だった。
養護教諭
あなた最近は何も食べてなかった?
夏夜
あ、はい。
養護教諭
それよ。朝たくさん食べたの?
夏夜
パンを、ひとつ。
養護教諭
だけ?
夏夜
はい。
養護教諭
飲み物は?
夏夜
ないです。
養護教諭
あなた、昨日も一昨日もほとんど何も食べてないんじゃないの?
凛
昨日の夜はたくさん食べたんですよ!沢木さん!
養護教諭
きっと胃がびっくりしたのよ。
養護教諭
睡眠は取れてる?昨日は何時に寝たの?
夏夜
午前3時…くらいです。
養護教諭
おっそいわね〜!睡眠不足も原因の一つよ。
養護教諭
あと、考えられるのはストレスね。
最近物理的な痛みもちゃんと感じれなくなってきている私がストレスなんて感じるはず無かった。
養護教諭
まぁ、とにかく今日はいっぱい食べて早く寝る!いいわね?
と言われてみたものの、あいにく今日も私は援交へ行く。
昨日は1万円しか稼げなかったから。
食べる気もない。寝るのも今日も午前になるだろう。
凛
そういえば沢木さんっておうちどこ?
まだ居たのかこの女。
夏夜
あなたに教える義理はない。
家がないということをしったらどう思うのだろうか。
凛
送っていかなくても平気?
夏夜
…。
凛
…援交なんてやめなよ。
私だって好きでやってる訳じゃない。金があったらこんなことしてない。
凛
援交なんて…後で後悔するだけだよ。
でも私には感情がないからな。後悔どころか辛くも悲しくも苦しくもない。
気持ちよくはないけど、最近はちっとも痛くない。慣れちゃったのか。痛みに一層鈍くなったのか。
夏夜
あなた、やってことあるの?
凛
あるよ。
夏夜
意外。
本当にあるなんて。こいつも似たようなもんだな。
凛
沢木さんの、初めては…その、いつ、だったの?
夏夜
小6だったかな。中一だったかな。忘れた。
凛
私は中一なんだ。
夕暮れどきだった。
この女は夕焼けに混じりそうな、夕日に照らされてとんでもないことを言ったのだ。
この女は一体
凛
私、人殺しなんだ。
何者なんだろうか。