注:続編です
繋ごうと伸ばした手が
空を切る
そんな光景が脳裏をよぎって
私はよろめいた
颯
颯
颯
律
傾いた私の体を 彼がそっと支えて まっすぐ立たせる
その瞬間
説明もつかない感情が 胸を締めつけて
私は背筋に力を入れた
涙がひとつぶ、 頬を伝った。
颯
颯
律
律
律
なぜだろう?
こうなるはずじゃなかった
ほんとうはもっと悲しくて 泣きたいはずだった
もしかして どこかずっと遠くの別の世界で
私達に似た誰かが
今この瞬間に離れ離れになったのかな
なんとなく、そんな気がした
ふと目線を上げると
気遣うように私を見つめる 恋人の瞳に出会った
まるで濃紫の葡萄みたいな 深い夜の色が映りこんでいた
律
律
颯
律
律
彼の瞳からもひとつぶ、
大粒の涙がこぼれた。
颯
律
私達は見つめ合って
くすりとほほえみあった
ゴオオオオオ…
闇夜に轟音を響かせて またどこか遠くの空に 戦闘機が駆けていった
颯
律
律
時計は9:08を指していた なぜだかホッとしている自分がいた
律
颯
颯
この国は、私達が生まれる ずっとずっと前から、 もう何十年も戦争が続いている。
『平和』という言葉は 辞書の中にしかないものだと思う。
颯
私達にとっては、 争い合い、 憎み合うのが日常だ。
律
颯
悲しげに彼が言葉を漏らす
そうだね
そんなふうに、無邪気に 笑うことはできなかった
ほんとうは、 そうしたかったけど
颯
颯
颯
律
今日元気に笑いあっていても
明日にはどちらかが命を落とすかも
もしそんな世界が変わるなら
私達、なんだって我慢できるのに
戦闘機の去った空は月が明るくて 私達の間には静けさが取り残された
颯
律
私達は
見つめ合って
強く手を握った。
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