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彼は今、70階建ての超高層ビルの屋上に立っていた
爽やかな秋風が、彼の前を通り過ぎて行く
誰もこの時間を邪魔しようとはしなかった
彼はフェンスの外に顔を突き出して、下を見た
彼は目が悪かった
だから下のコンクリートは見えそうにもなかった
彼はフェンスを乗り越えようとしてーー
動きを止めた
別に彼は死ななくたって良かった
彼はただ
人生という固定概念にとらわれているのが嫌だったのだ
彼は人生をやり直したいだけ
でも、やり直そうなんていう気力は
どこにもなかった
なんならいっそ
死んでしまえ
ーーそれが彼の考えだった
彼は神に祈った
“神様。僕がここで死んだら、生まれ変わって新たな人生を歩めますように”
彼には神の声が聞こえていた
彼は低く、轟くような声でこう言う
“良かろう。君には新たな人生を歩ませてやる”
彼は黙って空に向かって微笑むと
フェンスを乗り越え
フェンスの向こう側へと
ゆっくりと落ちていった
彼は落ちている間もずっと
ずっとずっと
笑顔だった
神は彼との約束を守った
彼は生まれ変わることができたのだ
ゴキブリに。