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眞琴杏樹

わ、和久井さん!

和久井龍也

はぁ!?

和久井龍也

お前眞琴か?

和久井龍也

それに鮎原まで

鮎原透

よ、よう!

和久井龍也

確かに参加者名簿に
眞琴と鮎原って
珍しい苗字はあったけど

和久井龍也

やっぱお前ら
だったんだな!

眞琴杏樹

そういえば
和久井さんって

眞琴杏樹

スキーのインストラクターを
やってるって言ってましたね

眞琴杏樹

まさかこんな
偶然があるなんて

和久井龍也

あはは、まったくだな!

虹山愛莉

あ〜ん〜じゅ〜

愛莉が杏樹の背中に 覆い被さる

眞琴杏樹

ちょ!なに!

虹山愛莉

鮎原さんといい──

虹山愛莉

この和久井さんといい──

虹山愛莉

なんでアンタの周りには

虹山愛莉

こうもイケメンが
集まる訳??

眞琴杏樹

あ、いや・・・

虹山愛莉

まさか二股してたなんて

虹山愛莉

チョー幻滅なんだけど

和久井龍也

(ん?フタマタ?)

眞琴杏樹

バ、バカ!
なに言ってるのよ!

眞琴杏樹

わ、和久井さんは
そういう人じゃないから!

虹山愛莉

だったら何!

眞琴杏樹

まぁ、話すと長いんだけど

虹山愛莉

なに?

眞琴杏樹

私がまだ今の高校に
通う前に

眞琴杏樹

通ってた学校があって

虹山愛莉

ふむふむ!それで?

眞琴杏樹

その時に好きな先輩がいて

眞琴杏樹

その先輩の友達が
この和久井さんなの!

虹山愛莉

友達?

和久井龍也

あはは、本当ですよ

和久井龍也

ただの古い知り合いですよ

虹山愛莉

なんだ♫そういう話か♫

眞琴杏樹

それに和久井さんには
彼女さん居るし

虹山愛莉

え!?

虹山愛莉

彼女居るの?

鮎原透

まだ別れて
ねーんだよな?

和久井龍也

ま、まぁな

虹山愛莉

なんだ〜・・・

虹山愛莉

だったらこの
スキースクールに来た
意味ないじゃん

眞琴杏樹

本当にインストラクター
目的だったんだね

虹山愛莉

そりゃ当たり前じゃん

虹山愛莉

イケメンって聞いたら
ひと目見たくなるでしょ?

眞琴杏樹

ま、まぁ・・・

虹山愛莉

和久井さん!

和久井龍也

は、はい?

虹山愛莉

彼女さんは
可愛いですか?私より?

和久井龍也

あ、いや、それは

眞琴杏樹

愛莉ちゃんも良く
知ってる人だよ

虹山愛莉

は?なにそれ?

虹山愛莉

私、和久井さんの
彼女さんとか
知らないよ?

杏樹は愛莉に そっと耳打ちする

眞琴杏樹

ミサちゃんねるの
美咲さんだよ♫

虹山愛莉

えーーー!?

虹山愛莉

あの美咲さんなの!?

眞琴杏樹

あ、これ言っちゃ
ダメなヤツでした?

和久井龍也

あ、いや、別に
隠してる訳じゃ
ねーからな

虹山愛莉

なら噂にあった

虹山愛莉

高校時代から
付き合ってる
イケメンな彼氏って

虹山愛莉

和久井さんの事なの!?

和久井龍也

(そんな噂あんのか・・)

虹山愛莉

美咲さんが彼女なら
私は到底敵わないなぁ

眞琴杏樹

そういえば
美咲さんは元気ですか?

和久井龍也

ああ、相変わらず
元気だよ

鮎原透

今も同棲してんのか?

和久井龍也

まぁな

和久井龍也

つっても今は一緒に
ばあちゃんの家に
世話になってっけどな

眞琴杏樹

おばあちゃん?

鮎原透

たしかお前の母さんの実家が
軽井沢だったよな?

和久井龍也

ああ!

眞琴杏樹

あっ、そうだったんだ

和久井龍也

今このスキー場は
お試しオープン期間中だろ?

和久井龍也

その間は職場が
長野になるからよ

和久井龍也

その間はばあちゃんの家に
厄介になってんだよ

和久井龍也

通ってたら移動費も
馬鹿になんねーしな

鮎原透

それで美咲ちゃんも
一緒に来てるって訳か

和久井龍也

無理してこなくても
良いって言ったんだけどさ

和久井龍也

一ヶ月離れ離れは
我慢できないから

和久井龍也

私も一緒に行く!
って言うもんだからな

眞琴杏樹

て事は美咲さんも
今長野に居るんですか?

和久井龍也

ああ!軽井沢の
ばあちゃん家に居るよ

虹山愛莉

え!?じゃ、じゃあ
今美咲さんが近くに?

和久井龍也

ま、まぁ

虹山愛莉

杏樹!

虹山愛莉

ちょっとこっち来て!

眞琴杏樹

ん?なに?

虹山愛莉

いいから来て!

愛莉は杏樹の手を引っ張る

眞琴杏樹

ちょ、愛莉ちゃん!?

鮎原透

ん?

眞琴杏樹

どうかしたの?

虹山愛莉

杏樹って和久井さんと
知り合いなんだよね?

眞琴杏樹

ま、まぁ、一応

虹山愛莉

それに和久井さん
彼女さんが

虹山愛莉

美咲さんだって
知ってたって事は

虹山愛莉

もしかして
美咲さんとも面識
あったりするの?

眞琴杏樹

ま、まぁ・・

眞琴杏樹

そんなに親しい間柄
って訳じゃないけど

虹山愛莉

なんで言って
くれなかったのよ!

眞琴杏樹

いや、知り合いだって
話したとしても

眞琴杏樹

信じてもらえないかも
って思ったから・・

虹山愛莉

杏樹!お願い!

愛莉は両手を合わせて 杏樹に頭を下げる

虹山愛莉

私を美咲さんに
会わせてくれない?

眞琴杏樹

え!?

虹山愛莉

お願い!一生のお願い!

虹山愛莉

美咲さんは私にとって
憧れの人なのっ!

虹山愛莉

同じ長野に居るんなら
一回でいいから

虹山愛莉

会ってみたいの!

虹山愛莉

お願い!杏樹!

虹山愛莉

和久井さんに事情話して

虹山愛莉

私を美咲さんに
会わせて!お願い!

眞琴杏樹

確かこのスキースクールに
参加するのが愛莉ちゃんの
一生のお願いじゃなかったかな?

虹山愛莉

何よ!いいじゃん!

眞琴杏樹

ふふふ、冗談だよ

眞琴杏樹

和久井さんに
話してみるね♫

虹山愛莉

あ゛ん゛じゅ゛〜

虹山愛莉

あ゛り゛がどーー

眞琴杏樹

何泣いてんの!

虹山愛莉

だっ゛でぇ゛〜〜

眞琴杏樹

でもあまり
期待しないでよ

眞琴杏樹

一応聞いてみるから

虹山愛莉

ゔん゛

眞琴杏樹

和久井さん

眞琴杏樹

ちょっと良いですか?

和久井龍也

ん?どうした?

眞琴杏樹

実はこの子私の友達で
愛莉ちゃんって
言うんですけど・・

虹山愛莉

改めまして
はじめまして・・

虹山愛莉

虹山愛莉です・・

和久井龍也

あ、あぁ

和久井龍也

その虹山さんが
どうかしたのか?

眞琴杏樹

実は美咲さんの
大ファンらしくて

和久井龍也

ああ、そうだったのか

眞琴杏樹

美咲さんって今
軽井沢の和久井さんの
おばあちゃん家に
居るんですよね?

和久井龍也

ああ、このお試し
オープン期間中はな!

眞琴杏樹

実は、その・・・

眞琴杏樹

無理なのを承知で
お願いなんですけど

和久井龍也

ああ、美咲に
合わせたいって話か?

虹山愛莉

お願いします!和久井さん!

虹山愛莉

美咲さんは私の
憧れの人なんです!

虹山愛莉

一度でいいので
生の美咲さんに
会ってみたいんです!

虹山愛莉

お願いします!

和久井龍也

ああ、構いませんよ

虹山愛莉

え!?いいんですか?

和久井龍也

美咲自身も常日頃から
ファンの人と交流
したいって言ってますから

和久井龍也

美咲も喜ぶと思いますよ

虹山愛莉

ありがとうございます!

虹山愛莉

ありがとうございます!

虹山愛莉

ありがとうございます!

愛莉は何度も 龍也に頭を下げる

眞琴杏樹

ふふふ

眞琴杏樹

(相当美咲さんのこと
好きなんだなぁ、愛莉ちゃん)

和久井龍也

まぁ、ちょっと
世間話が長くなりましたが

和久井龍也

これより
スキースクール体験を
始めさせていただきます

虹山愛莉

はいっ!!

眞琴杏樹

お願いします

和久井龍也

えー・・・っと

龍也は小慣れた手つきで タブレット端末を操作しながら

和久井龍也

本日の体験は4名様と
伺っていましたが

和久井龍也

3名でよろしいんですか?

眞琴杏樹

え?3名?

虹山愛莉

いや4名ですよ?

虹山愛莉

私に杏樹──

虹山愛莉

それから鮎原さんに──

虹山愛莉

それから絵里──

虹山愛莉

あれ?絵里香は?

そこには、先程まで 居たはずの 絵里香の姿がなかった

眞琴杏樹

あれ?さっきまで
居たよね?絵里香ちゃん

鮎原透

どこ行ったんだ?

和久井龍也

葛城絵里香さんの
姿がないようですね

虹山愛莉

どこ行ったの?
絵里香ったら・・

眞琴杏樹

トイレかな?

虹山愛莉

ちょっと電話して来る

眞琴杏樹

うん、お願い

虹山愛莉

すいません和久井さん

虹山愛莉

ちょっと待ってて
もらえますか?

和久井龍也

ええ、構いませんよ

虹山愛莉

すいません・・・

愛莉は申し訳なさそうに 腰を引くしながら 更衣室へ向かう

眞琴杏樹

(どこ行ったんだろ?)

虹山愛莉

まったく絵里香のヤツ

虹山愛莉

どこ行ったの?

愛莉はロッカーを開け スマホを取り出して 絵里香に電話をかける

虹山愛莉

(ロッカーの中から
着信音が聞こえない)

虹山愛莉

(て事は帰ったって事?)

虹山愛莉

(なんで?急に?)

虹山愛莉

(何考えてんの?)

虹山愛莉

あっ、出た!

虹山愛莉

ちょっと絵里香?

虹山愛莉

アンタ今
どこに居るわけ?

虹山愛莉

もうスキースクール
始まるよ?

虹山愛莉

早くしなきゃ!!

葛城絵里香

ごめん愛莉・・

葛城絵里香

急にバイト先から
電話があってさ

葛城絵里香

スキースクール
ダメになった

虹山愛莉

え!?まじ?

葛城絵里香

ホントごめん

虹山愛莉

まぁ、バイトなら
仕方ないけどさ

虹山愛莉

それならそうと
ちゃんと言ってから
行きなさいよね?

虹山愛莉

何かあったのかも?
って心配するじゃん

葛城絵里香

ごめん・・・

虹山愛莉

まぁ、バイト頑張ってね

葛城絵里香

う、うん・・・

虹山愛莉

なら、また学校でね♫

葛城絵里香

うん、また学校で・・・

虹山愛莉

まったく
自分勝手なんだから

虹山愛莉

バイトならバイトって
言えっつーの!!

虹山愛莉

でも不思議・・・

虹山愛莉

絵里香が何も言わずに
勝手に帰るなんて・・

虹山愛莉

まぁ、緊急の
連絡だったのかな・・

虹山愛莉

まぁ、深くは
考えないどこ!

虹山愛莉

それより早く
行かなきゃ!

愛莉はロッカーにスマホをしまうと 小走りでスキー場へ向かう

眞琴杏樹

あ、愛莉ちゃん!

眞琴杏樹

おかえり!

虹山愛莉

た、ただいま・・

眞琴杏樹

絵里香ちゃんは?

虹山愛莉

なんか急に
バイトに行かなきゃ
なんなくなったらしくて

虹山愛莉

勝手に帰っちゃった

眞琴杏樹

帰っちゃったの?

眞琴杏樹

絵里香ちゃんが?

虹山愛莉

そうなのよ・・・

虹山愛莉

まったく自分勝手よね

眞琴杏樹

まぁ、バイトなら
仕方ないよね

虹山愛莉

だとしてもよ!

虹山愛莉

一言くらい言って
帰りなさいよね!

虹山愛莉

そう思うでしょ?

眞琴杏樹

ま、まぁ・・確かに

和久井龍也

では葛城さんが
帰られた!という事は

和久井龍也

本日のスキースクールは

和久井龍也

眞琴さん、鮎原さん
それから虹山さん

和久井龍也

この3名様という事で
よろしいでしょうか?

眞琴杏樹

そ、そうなりますね

虹山愛莉

なんかすいません

和久井龍也

いえ、構いませんよ

鮎原透

でもお前にさん付け
されんのって

鮎原透

なんか気持ち悪いな

和久井龍也

仕方ねーだろ!

和久井龍也

こっちは仕事なんだよ!

和久井龍也

仕事!

鮎原透

まぁ、それもそうだな

和久井龍也

では仕切り直して──

和久井龍也

ただまより
スキースクール体験を
始めさせていただきます

眞琴杏樹

よろしくお願いします

こうして絵里香不在のまま 約2時間のスキースクール体験が 幕を開けた

虹山愛莉

いやぁ、楽しかったぁ

虹山愛莉

ね?杏樹♫

眞琴杏樹

うん♫めちゃ楽しかった♫

和久井龍也

楽しんでくれたんなら
何よりだよ♫

虹山愛莉

教え方が上手いって
噂では聞いてたけど

虹山愛莉

噂以上ですね♫

和久井龍也

あはは、ありがとう♫

虹山愛莉

私、スキーに
ハマっちゃったよ♫

眞琴杏樹

それ私も♫

虹山愛莉

長野に居ながら
スキーしないなんて

虹山愛莉

やっぱ勿体無いもんね

虹山愛莉

私、定期的に
通っちゃおうかな♫

和久井龍也

いつでも歓迎しますよ♫

鮎原透

でよ、和久井

和久井龍也

ん?なんだ?

鮎原透

このあとはもう、予約は
入ってねーんだよな?

和久井龍也

ああ、今日の予約は
お前らで最後だよ

鮎原透

じゃあもうこのまま
帰るのか?

和久井龍也

まぁ、この後にちょっとした
事務作業が残ってっけど

和久井龍也

それが終わったら
帰るつもりだよ

和久井龍也

たぶん30分も
かかんねーと思う

虹山愛莉

うあぁあぁあぁ

虹山愛莉

もうすぐ、憧れの
美咲に会えるぅぅ!!

虹山愛莉

やばい・・・

虹山愛莉

ドキドキしてきた・・・

眞琴杏樹

緊張しすぎだよ愛莉ちゃん

虹山愛莉

杏樹からしたら
美咲さんは知り合いだから

虹山愛莉

緊張しないだろうけど

虹山愛莉

私からしたら美咲さんは
いつも観てる憧れの
YouTuberなんだよ?

虹山愛莉

緊張するなって方が
無理があるっしょ?

眞琴杏樹

まぁ、確かに・・・

虹山愛莉

あ!そうだ!

虹山愛莉

サイン色紙
準備しとかなきゃ!

鮎原透

じゃあ杏樹ちゃん

鮎原透

俺は先に帰ってるわ

眞琴杏樹

え!?

眞琴杏樹

帰っちゃっうんですか?

鮎原透

いや、俺が居たって・・

眞琴杏樹

鮎原さんだって
美咲さんと面識
あるんですから

眞琴杏樹

一緒に来れば
いいじゃないですか!

鮎原透

いや、俺は・・・

和久井龍也

いいじゃねーかよ!
お前もこいよ!

和久井龍也

今更昔の事を
蒸し返すつもりなんて
さらさらねーからさ

和久井龍也

来いって!せっかくだし!

鮎原透

そ、そうだな・・・

鮎原透

なら俺も一緒に行くか・・

虹山愛莉

ん?過去の話?

虹山愛莉

過去に何か
あったんですか?

和久井龍也

あ、いや・・
こっちの話なんで

和久井龍也

気にしないでください

虹山愛莉

ふー・・・ん

和久井龍也

なら17時に駅前で
待っててくれるか?

和久井龍也

そこで落ち合おうぜ!

眞琴杏樹

はい!わかりました!

虹山愛莉

くぅー!楽しみぃー!

虹山愛莉

絵里香も残念よね♫

虹山愛莉

バイトじゃなかったら
美咲に会えたのに

眞琴杏樹

ふふふ、だね♫

その後、駅前にて合流した一同は

龍也の母、和久井友恵の実家である 軽井沢の祖母宅へ向かう

和久井龍也

ただいま!

姫川美咲

あ、龍也おかえり!

龍也が部屋に入ると 美咲が笑顔で近づいて来る

姫川美咲

って、あれ?

姫川美咲

杏樹ちゃん!?

姫川美咲

それに鮎原さん!?

美咲は予想外の訪問者に 驚きを隠せない

眞琴杏樹

お久しぶりです!美咲さん!

鮎原透

久しぶりだな!

姫川美咲

なんで杏樹ちゃんと
鮎原さんが!?

和久井龍也

今日のスキースクールの
最後の予約が

和久井龍也

偶然にもコイツらでさ

和久井龍也

せっかくだから
連れてきたんだよ

姫川美咲

そうだったんだ♫

姫川美咲

こんな偶然あるんだ♫

姫川美咲

杏樹ちゃん、元気だった?

眞琴杏樹

はい♫

眞琴杏樹

それと、美咲さんの
動画も観てますよ♫

姫川美咲

えへへ、ありがと♫

虹山愛莉

ちょっと!杏樹!

眞琴杏樹

あ、愛理ちゃん

虹山愛莉

早く私を美咲さんに
紹介してよ

眞琴杏樹

あ、ごめん・・・

眞琴杏樹

つい話し込んじゃって

眞琴杏樹

あの、美咲さん・・・

姫川美咲

なぁに?どうかした?

眞琴杏樹

この子・・・

虹山愛莉

・・・・・

愛莉が恥ずかしそうに 杏樹の背中から顔を覗かせる

姫川美咲

ん?その子だれ?

眞琴杏樹

私の学校の友達で

眞琴杏樹

虹山愛莉って
子なんですけど

虹山愛莉

は、は、はじめまして

虹山愛莉

虹山・・愛莉って言います

愛莉は緊張のあまりに ガチガチに硬直した体を 必死に動かして会釈をする

姫川美咲

愛莉ちゃん?

眞琴杏樹

実は美咲さんの
大ファンらしくて・・

姫川美咲

え!?そうなの?

虹山愛莉

い、いつも・・動画観てます

姫川美咲

ありがと♫

和久井龍也

どうしても美咲に
会いたいって言うからさ

和久井龍也

せっかくだから
連れてきたんだよ

和久井龍也

ホラ!いつもファンと
交流したいって
言ってたろ?

虹山愛莉

あの・・美咲さんは
私の憧れの人なんです

姫川美咲

え!?ホントに!?

姫川美咲

嬉しい♫ありがと♫

虹山愛莉

い、いえ・・・

虹山愛莉

お礼を言うのは
私の方で・・・

姫川美咲

でも憧れなんて
なんか、ちょっと
照れちゃうね

眞琴杏樹

ホラ!握手してもらったら?

虹山愛莉

いや、でも私なんかが

姫川美咲

えー!?握手しようよ♫

姫川美咲

ね?ね?しようよ♫

美咲は笑顔で 愛莉に両手を差し出す

虹山愛莉

じゃ、じゃあ
お畏れ多いですけど・・

愛莉は恐る恐る右手を差し出し その手を美咲は 両手で優しく包み込む

姫川美咲

これからも動画観てね♫

虹山愛莉

いやぁぁぁ!今私
美咲さんと握手してる!

虹山愛莉

夢みたい♫

姫川美咲

そんな、大袈裟だよ♫

虹山愛莉

そんな事ないです!

虹山愛莉

もう!一生の
思い出ができました!

姫川美咲

そんなに喜んでくれるなんて

姫川美咲

ありがとう♫

姫川美咲

愛莉ちゃん♫

虹山愛莉

いやぁぁぁ!
愛梨ちゃんって
言ってもらえたぁ!

絹枝

あらまぁ随分と
賑やかね〜

皆がしばらく談笑していると 龍也の祖母 絹枝(きぬえ)が帰ってきた

和久井龍也

ああ、ばあちゃん
おかえり

絹枝

ああ、タッちゃん

絹枝

帰ってたのね

絹枝

ただいま

眞琴杏樹

お、お邪魔してます

絹枝

あら、可愛い子ねぇ

絹枝

タッちゃんのお知り合い?

和久井龍也

ああ、高校生の頃の
友達みてーなヤツでさ

絹枝

そうだったの

絹枝

ゆっくりしてってね

眞琴杏樹

あ、ありがとうございます

その後、しばらく 談笑した一同

眞琴杏樹

じゃあ、私たちはそろそろ

姫川美咲

え?もう
帰っちゃうの?

虹山愛莉

えー、もっと美咲さんと
話してたいなぁ

眞琴杏樹

でも──

眞琴杏樹

あまり長居してても
迷惑だろうし・・

絹枝

迷惑なんて
思わないわよ

絹枝

あ!そうだ!

絹枝

晩御飯でも
食べていきなさいよ

眞琴杏樹

え?いいんですか?

絹枝

せっかくタッちゃんの
お友達が来てくれたんだもの

絹枝

私の手料理を
ご馳走させてよ♫

和久井龍也

ばあちゃんは
料理上手だからよ!

和久井龍也

食べてけよ!

鮎原透

まぁ、こう
言ってくれてんだから

鮎原透

言葉に甘えようぜ

鮎原透

杏樹ちゃん

眞琴杏樹

そ、そうですね

眞琴杏樹

無理に断るのも
悪いですよね

絹枝

よぉし!!

絹枝

そうと決まれば、私
張り切っちゃうわよ♫

絹枝は意気揚々と 割烹着を着用する

姫川美咲

あ、絹枝さん!
私も手伝いますよ

絹枝

いつも悪いわね
美咲ちゃん

姫川美咲

これくらい
当然ですから!

絹枝

いつも助かってるわ

その時、透のスマホから 着信音が鳴り響く

鮎原透

ん?誰からだ?

透はズボンのポケットから スマホを取り出して画面を確認する

鮎原透

珍しいな・・・

眞琴杏樹

どうか
したんですか?

鮎原透

いや、父さんから
電話みたいでさ

眞琴杏樹

社長さんからですか?

和久井龍也

お前まだ勘当
されたままなんだよな?

鮎原透

まぁ、な・・・

鮎原透

とりあえず出て来るわ

透は居間から一旦退出し 電話に出る

鮎原透

もしもし

鮎原拓郎

ああ、透!

鮎原拓郎

いま大丈夫か?

鮎原透

はい、大丈夫ですけど

鮎原拓郎

悪いが至急、鮎原長野店の
社長室に来てくれないか?

鮎原透

今からですか?

鮎原拓郎

ああ・・・

鮎原拓郎

緊急の要件なんだ

鮎原拓郎

だから悪いが
とりあえず来てくれ

鮎原拓郎

詳しくはコッチで話す

鮎原透

わ、わかりました

鮎原透

すぐに向かいます

鮎原拓郎

ああ!頼んだ

電話を終えた透は しばらくの間、頭を悩ませていた

鮎原透

・・・・・

鮎原透

理由を告げずに

鮎原透

とりあえず来いって

鮎原透

珍しいな・・・

鮎原透

大抵いつもは
理由をハッキリ言うのに

鮎原透

なにかトラブルか?

鮎原透

まぁ、ここで
考えてても埒があかねー

鮎原透

とりあえず行くか

眞琴杏樹

あ、鮎原さん

眞琴杏樹

なんの電話
だったんですか?

鮎原透

悪いな杏樹ちゃん

鮎原透

急に父さんから
呼び出しくらっちまった

眞琴杏樹

え?呼び出し?

和久井龍也

何かわらかしたか?

鮎原透

そんな覚え
ねーんだけどな

鮎原透

とりあえず来いって
言われちまったからよ

鮎原透

悪いけど俺はこのまま
帰らせてもらうわ

眞琴杏樹

それなら
仕方ないですね

鮎原透

すいませんね
おばさん

鮎原透

せっかく晩御飯
用意してもらったのに

絹枝

いいのよ♫気にしないで♫

絹枝

タッちゃんのお友達なら
いつでも大歓迎だから

絹枝

またおいで♫

鮎原透

ありがとうございます

鮎原透

また機会があったら
お邪魔させてもらいます

透は絹枝に 深々と頭を下げる

鮎原透

じゃあ杏樹ちゃん

鮎原透

悪いけど帰りは──

和久井龍也

俺が送ってくから
心配いらねーよ

鮎原透

悪いな和久井

鮎原透

助かるよ

和久井龍也

なんかしばらく
見ねーうちに
礼儀正しくなったな

和久井龍也

どんな心境の変化だ?

鮎原透

うるせーな・・・

眞琴杏樹

じゃあ鮎原さん

眞琴杏樹

気をつけて下さいね

鮎原透

ああ!

鮎原透

ならまたバイトでな!

眞琴杏樹

はい♫

透は軽く会釈をすると 小走りで絹枝宅を後にする

時間を少し遡る

透のスマホに 拓郎からの着信が入る数時間前

鮎屋 社長室

社員

社員!少々
よろしいでしょうか?

社員が拓郎に 神妙な面持ちで語りかける

鮎原拓郎

どうした?

社員

つい今しがた、1階の
サービスカウンターから

社員

社員に会わせて欲しい!
という女性が来ていると
連絡があったのですが

鮎原拓郎

私に?

社員

どうもアポは
取ってらっしゃらない
方のようなんですか・・

鮎原拓郎

ほぅ・・・

社員

なんでも社長に
示談金を返したい!と

社員

妙な事を口に
しているらしいんです

鮎原拓郎

示談金?

社員

どうしますか?

社員

一応、今は警備員が
対応しているようなんですが

社員

追い返しますか?

鮎原拓郎

その方の名前?

社員

カエラ、という
珍しい名前の方らしいです

鮎原拓郎

(か、カエラだと?)

鮎原拓郎

(確か、透が中学の頃に
妊娠をさせた女子生徒の名前が)

鮎原拓郎

(カエラだったな・・・)

鮎原拓郎

(だとしたら示談金とは)

鮎原拓郎

(あの時に私が支払った
示談金の事か?)

鮎原拓郎

(しかし、なぜその
示談金の返金を?)

社員

どうされます?

鮎原拓郎

通してくれ

社員

え?いいんですか?

鮎原拓郎

その方は、私の知り合いだ

社員

社員の?

鮎原拓郎

大切な友人だ

鮎原拓郎

丁重にご案内してくれ

社員

わ、わかりました

社員

ただちに
サービスカウンターに
伝えてきます!

鮎原拓郎

ああ、頼んだ・・・

社員は拓郎からの指示を受け 駆け足で社長室から出て行く

鮎原拓郎

・・・・・

しばらくして──

コンコン

ドアをノックする音が 社長室全体に響き渡る

社員

社長!楓咲様を
お連れしました

鮎原拓郎

入ってくれ

拓郎の声と共にドアが開き 一人の女性が社長室に入って来る

女性

・・・・・

社長室に入ってきたのは 50代くらい女性だった

その風貌は、お世辞にも 健康だとは言い難いほどに 疲れ切っていた

鮎原拓郎

楓咲さん・・・

鮎原拓郎

お久しぶりです

女性

お、お久しぶりです・・

自らを楓咲と名乗るその女性は 小さくか細い声を出し 軽く会釈をした

鮎原拓郎

それと君、もう
下がってくれていい

鮎原拓郎

しばらく楓咲さんと
二人にしてくれ

社員

かしこまりました

社員

では、失礼いたします

社員は拓郎に深々と頭を下げると 社長室から出て行った

鮎原拓郎

楓咲さん・・・

鮎原拓郎

改めて謝罪を
させていただきたい

鮎原拓郎

透が・・私の息子が──

鮎原拓郎

本当に申し訳
ありませんでした

拓郎は女性に頭を下げる

女性

やめてください・・

鮎原拓郎

いいえ、いけません

鮎原拓郎

大切な娘さんを妊娠させ──

鮎原拓郎

挙げ句の果てには
自殺未遂を──

鮎原拓郎

息子のした事は
決して許される
事ではありません!

女性

・・・・・

女性

あの・・これ・・

女性はテーブルの上に 分厚い茶封筒を置く

鮎原拓郎

こ、これは・・・

女性

あの時鮎原さんから
頂いた示談金──

女性

400万円です

女性

これをお返しします

鮎原拓郎

な、なぜですか?

鮎原拓郎

こ、このお金は
償いのお金で──

女性

いいんです・・・

女性

こんなお金──

女性

やはり頂けません

鮎原拓郎

楓咲さん・・・

女性

それに、もう
楓咲とは呼ばないでください

鮎原拓郎

え?

女性

娘が自殺未遂をした後すぐに

女性

主人とは離婚しました

鮎原拓郎

離婚を・・ですか・・

女性

今は旧姓の──

鮎原拓郎

・・・・・

女性

ですから私はもう
楓咲ではありません

女性

先ほどは楓咲と
名乗らなければ

女性

鮎原さんには
伝わらないと思い

女性

楓咲と言わせて
いただいたんです

鮎原拓郎

ですが、だとするなら
何故この示談金を
使わなかったんですか?

女性

どういう意味ですか?

鮎原拓郎

離婚されたという事は

鮎原拓郎

アナタは女手ひとつで

鮎原拓郎

娘さんを育てていた
という事ですよね?

鮎原拓郎

女手ひとつというのは

鮎原拓郎

頭で考えている以上に
大変だったはずです

女性

・・・・・

鮎原拓郎

この示談金を使えば──

女性

忍びなくて
使えなかったんです

女性

申し訳なくて・・・

鮎原拓郎

なぜアナタが
申し訳ないと思う
必要があるんですか?

鮎原拓郎

アナタは被害者だ

鮎原拓郎

申し訳ないと言う
言葉を使うのは
私の方で──

女性

娘の妊娠は──

女性

息子さんの──

女性

透くんの
せいではないんです!

女性の口から発せられた言葉に 拓郎は驚きを隠せない

鮎原拓郎

と、透のせいではない?

女性

すいません・・・

女性

私たちはずっと──

女性

あなた方を騙して
いたんです・・・

女性

悪いのは私と
前夫だというのに・・・

女性

私たちはあなた方を
利用したんです・・・

女性の瞳から 大粒の涙が溢れだす

鮎原拓郎

どういう意味ですか?

女性

全てを話します・・・

女性

私たちの嘘を全て・・・

鮎原拓郎

・・・・・

女性

そして──

女性

助けて欲しいんです

鮎原拓郎

助け?

女性

娘を──

女性

救って欲しい・・・

鮎原拓郎

娘さんを?

女性

お願いします!鮎原さん!

女性はその場で 涙を流しながら土下座をする

何度も何度も額を 床に叩きつけながら土下座をする

鮎原拓郎

落ち着いてください!

女性

お願いします!

女性

お願いします!

女性

どうか・・どうか・・・

女性

娘を・・・

鮎原拓郎

わかりましたから!

鮎原拓郎

頭を上げてください!

女性

う・・うぅ・・・

鮎原拓郎

とりあえず話を
聞かせてください

女性

・・・・・

女性

は、はい・・・

落ち着きを取り戻した女性は おもむろに口を開く

女性の口か告げられた真実は

杏樹と透の運命を 大きく変える事となる

お節介アゲハと弱虫ヒナタ〜アルメリア〜

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