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うっ…うっ…

体を突かれる。

うっ…あっ…

突かれる──。 ぶすり、ぶすりと、音がしていた。

血濡れの包丁が──

私の体を何度も出入りしていた。

倫道咲(りんどうさき)は20回目の誕生日を迎え、こうつぶやいた。

『あの頃に戻りたい──』

(朝・自室──)

…………

あ~…

あー!20歳になっちゃったー!

寝ても!覚めても!

泣いても!笑っても!

テレビ

──本日開催されるのは春風杯。年に一度の大レースです

ハタチ!ハタチ!ハタチ!

わたしもついにハタチになってしまった…!

…はぁ、マジか

テレビ

大本命は令和の大競走馬『セカンドインパクト』

テレビ

負けが込んでいる『レイワカモン』は復活なるか──

うるっさいな!競馬なんか興味ないっつーの!

あー

あの頃に戻りたい…

何にも気にしなくてよかった子供の頃に…

(夕方・居酒屋──)

友人たちと居酒屋にきていた。

友人A

は、なんで?大学生って最高じゃない?

友人A

それにあんた、両親は健在でお金の心配もないし

友人A

大学生活もそこそこ充実してて…

友人A

こうやって誕生日に優しいお友達にも恵まれてんじゃん

友人A

まぁ、彼氏はいないけど

うるさい、ばーか

友人B

すいませーん。生中おかわりー

友人B

で、そのそこそこ恵まれてるお前に何の不満があるんだよ

別に不満ってわけじゃないけどさ

わたしは今日ハタチになったわけよ

友人A

うん、そうだね

つまり成人したわけよ

友人B

だな

つまり、今日を境にあたしは法的にも大人として扱われるわけ

リーガルにアダルトなわけよ

友人B

その言い換え意味あるか?

すると、どうなると思う?

友人A

少年法で守られなくなる。少年じゃないからね

そう。悪いことした日にゃ実名報道不可避…!

友人A

悪いことすんの?

私がそんな奴に見える!?

友人B

言ったお前がキレんなよ

で、他には?

友人A

え~っと、税金と年金納付の義務が発生する?

それもある

ていうか気が重くなること言わないでくれ!?

友人A

だからあんたが言えって言ったんでしょ

友人A

まぁでも、わからないではないわ

友人A

つまり、悩みなんて無い子供の世界を永久追放されて

友人A

責任まみれの大人の世界に終身刑で収監されてナイーブになってんのね?

まさしくそのとおり!

友人A

それで子供に戻りたいとピーターパンになりかけていると

さよう!

友人A

子供だなー

仕方ないでしょ!こちとら成人初日だっつの!

今日からアルコールも解禁だよ!

ジョッキでレモンサワーいっちゃおうかな!?

友人B

やめろ。お前はおちょこだ

はあ…

子供ってさー、元気なだけで褒められるじゃん

なんなら何もしなくてもよかったじゃん

大人になるメリットってなに?

友人A

こうやって堂々とお酒が飲める?

おちょこでレモンサワーは堂々としてる?

友人A

タバコも吸えるじゃん?

吸わん!

友人B

あっ、そうだ!ギャンブルもできるぞ!

テンション急にアガったな

今日勝ったの?

友人B

おう!レイワカモンのお陰でな!単勝一点張りだ

友人B

いやこれが下馬評は最悪だったわけ。でも信じて正解だったわ~

友人B

だから2人とも今夜は俺の奢りだ

友人B

好きなだけ飲み食いするがいい!

友人A

はは~

おだいじんさま~

──これが人生最初で最後のお酒になるとは思わなかった。

(夜・自室──)

うう…

飲み過ぎた…

おちょこレモンサワーだったのに…

わたしお酒弱かったんだな…

それにしても人のお金で飲み食いするってなんて素晴らしいんだろ…

私はテレビを点けた。

テレビ

〇〇区長が特定企業に便宜を図った見返りに3億円分の商品券を受け取ったという疑惑について──

…代わり映えしないニュース

毎日同じようなことが起きて、すぐにみんな忘れる…

わたしはハタチになっちゃったってのにさ

相変わらず世はこともなく…

それが平和ってもんなのか?

…ま、これはこれで悪くない誕生日だったけど

テレビ

次のニュースです

テレビ

茨城県常陸太田市にある竜神大吊橋で、恒例行事の男気バンジージャンプが──

あいつらの言うとおりだな

学費を出してくれて、こうして一人暮らしもさせてくれる両親がいて

誕生日を祝ってくれる友達にも恵まれて…

まぁ、幸せっちゃ幸せか

…彼氏いないけど

テレビ

作家の長谷上州さんが、フィンランドのヘルシンキで行われたカレワラ文学賞の授賞式でスピーチし──

人生の大きな節目を迎えたけど…

特になにかが変わるってわけでもないんだなー

この平和な日本で、明日もわたしは同じ日常を営んでいくのである

悪くはないか。そういうのも…

なんかしみじみしちゃった

はよ寝よ~

ピンポーン

チャイムが鳴った。

ん?誰だろう、こんな時間に

あっ。いちおうドアチェーン掛けるか

はーい

ガチャ

???

…………

すると、そこには男が立っていた。

黒いパーカーに、黒いスウェット。 フードを被っている。

…………

ええと、誰?

あっ、わかった。バースデーサプライズ?

???

…………

ていうかそのお面、気持ち悪いんだけど

男は奇妙な仮面をつけていた。

すると、わずかに開いたドアの隙間に足を捻じ込んでくる。

そして大振りのワイヤーカッターを取り出した。

ちょちょちょ…。なにそれ

仮面の男がドアチェーンを呆気なく切断した。

…いや、言えよ。開けるし

ドアチェーンは切断したらダメでしょ

常識的に考えて…

仮面の男

…………

ほんとに、あんた誰よ…

男が無言のまま部屋に押し入る。

うわっ!ちょ!こ、こっち来るな!

男は無言のまま懐から何かを取り出した。

──出刃包丁。

わかったわかった!もうびっくりした!すごくびっくりしたから!

冗談でもやめてって!

仮面の男

…………

冗談になってな…!!

男の包丁が、深々と咲の腹に刺さった。

ぐっ、ふ…

男は繰り返し何度も咲を刺す。

がっ…

倒れ込んだわたしに覆いかぶさってくる。

そして刺す。 何度も刺す。

うっ…あうっ…

刺す。刺す。

刺す。 刺す。

うあっ…っ…

──刺す。

…………

仮面の男

…………

男が立ち上がる頃には、 私はもう声もでなくなっていた。 かすれる視界は、真っ赤に染まっていた。

倫道咲の20回目の誕生日。 わたしは惨殺された。

──。

──。

(朝・自室──)

…はっ!

ああああああああ…っっ!

テレビ

──本日開催されるのは春風杯。年に一度の大レースで

はぁ…はぁ…

は?

テレビ

大本命は令和の大競走馬『セカンドインパクト』──

テレビ

負けが込んでいる『レイワカモン』は復活なるか──

あれ…夢だったの…?

わたし…

夢じゃないと思い知る。

『誕生日の夜』に惨殺されたわたしは──。

『誕生日の朝』に再び目を覚ましたことを。

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