私はマンションの最上階7階に住んでいる
高層階なのにやたらと安い部屋だったので
事故物件かなんかだろうと思っていた
私はあまりそういうのを気にする方ではないし
まぁいいやと思って借りたのだが…
実際は誰かがそこで亡くなったとか
心霊現象が起こるとかではなかった
ドアは開閉の度にギギーと音を立てるほど建て付けが悪く
水道の蛇口もやたらと固い
そのくせに窓と窓の鍵は驚くほど軽く、滑りが良い
そのため開ける時に途中で手を離せば
反動ですぐ閉まり、鍵もかかってしまう
ハンドル型の鍵で下に回すと施錠される、というのは
最早、壊れ始めに1度は閉じ込めよう
という意図が働いているとしか思えない
誰かとこれらの思いを共有したいのだが
どの現象もこの部屋でしか起こらないのだ
それでも仕事終わりに
目の前の小さな川と星空を
ぼーっと眺めながら一服するのが至福の時だった
ある日、いつものように至福の時を過ごしていると
向かいのマンションから星空を見上げている女の子と目が合った
こんなおじさんと目が合って嫌だろうと目線を外そうとしたが
女の子はにっこりと笑いかけてくれた
その日から、2人で星を見上げる日々が続いた
お互いに窓を閉めて過ごす2人だけの時間
それはほとんど孤独だった私にとって
これまでの一服する時間とは比べ物にならないほど至福の時だった
それからしばらくすると
女の子は紙ヒコーキの折り方を覚えた
伝えたいメッセージを書いて
毎晩一通だけお互いに投げる
その時、女の子の名前があかりちゃんであることを知った
折り方が上手なせいか
お互いあまり下に落ちることは無かったが
たまに落ちてしまった時は私が拾いに行っていた
ある日、同じマンションの5階に住んでいる
唯一の友人、永田が家に遊びに来た
明るくて一緒にいても負担にならない最高の友人で、付き合いも長い
プライドが高めなのがたまに傷だが…
そんな永田に彼女の話をすると
「俺も会いたい」と言うので2人でベランダで待機した
いつものように彼女が出てきた
こちらを見ると驚いたような表情をした後、一度いなくなった
急に2人いたらそうなるか、と思いつつ待っていると
再び出てきた彼女は慌てたように
でも力強く紙ヒコーキを飛ばした
しかし力が入ったせいか
こちらに届く手前で方向が変わり、川に落ちてしまった
川に落ちることは初めてだったが
幸い、流れが弱い上に途中で止まってくれそうな岩もある
だが彼女の表情は固まっており
自分のミスを気にしてるように見えた
大丈夫大丈夫と目で訴えかけ
部屋を出て、エレベーターで1階に降りた
と同時に
何かが水に落ちる音が聞こえてきた
嫌な予感がして急いで外に出てみると
川でうつぶせになった彼女が…
血が川に流れ、ピクリとも動かない
濡れるのも構わず、彼女を抱き寄せ、上を見上げる
強い風が吹いて、彼女のマンションのカーテンがはためき
向かいでは自分の部屋のベランダから
驚いた様子で下をのぞく永田の姿があった
その後の警察の調べで
彼女は事故死だと断定された
理由としては全ての窓、玄関に施錠がされており
こじ開けた形跡もなかったこと
さらに落ちる彼女を
永田が私の部屋のベランダから目撃していたことが決定打となった
私のせいだ私のせいだ
何度も何度も自分を責めた
紙ヒコーキなんか教えなければ
そもそも私なんかと出会ってなければ…
その後、彼女の母親いずみさんと初めて会うことができた
許して貰おうなどとは思わない
でも今の私にできることは誠心誠意謝罪をすることだけ
しかし、いずみさんは
「謝るだなんて……むしろ仲良くしてくださってありがとうございます」
と泣きながら感謝の言葉を口にした
死のうとさえ思っていた私にとって
その言葉はまさに"救い"だった
そして1人で育ててきたこと
仕事が忙しく一緒にいてあげられる時間が少なかったことなど
女の子がなぜ1人だったかを私に話し
「悪いのは私なんです…1人にさせすぎた私の…」と
自責の念に駆られていることを告げた
私が抱いた感情と全く同じ感情を相手も抱いている
このことで2人の結束のようなものは強まり
そのままの流れで連絡先を交換した
そこから
傷のなめ合いのような歪な関係が続いていった
コメント
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すごい伏線になってきそうで面白い!
いつもとは違った感じの作品です 全3話予定です、ぜひ読んでみてください!