葉月🚺
ねえ菜穂(なほ)!

それに対して私は相槌を打ち、興味を示す『フリ』をするだけだ
葉月🚺
デリートスイッチって知ってる?

菜穂🚺
デリートって、『消す』って意味の?

自分でも驚くほど、なぜかこのスイッチには興味を示していた。
葉月🚺
そうそう!

葉月🚺
なんか、パソコン室の奥に部屋があるらしくて

菜穂🚺
パソコン準備室のこと?

葉月🚺
それ!

葉月🚺
そこには壊れたパソコンとかが置いてあるんだけどね

葉月🚺
一つだけ真っ赤で目立つパソコンが置いてあるんだって

菜穂🚺
真っ赤?

菜穂🚺
授業で使うのは、黒とかの地味色だよね

葉月🚺
そう

葉月🚺
そのパソコンを開いたら、ど真ん中にファイルがあるの

菜穂🚺
……ゴクッ

葉月🚺
『デリートスイッチ』って名前のね…!

葉月🚺
それを開いたら名前を入力してくださいって出るの

葉月🚺
そこに消したい人の名前を入れたら

葉月🚺
消した張本人とみてた人以外から、対象の人の記憶が消えるらしい

菜穂🚺
存在…いたことが否定されるんだ?

葉月🚺
うん

葉月🚺
すっごく怖いよね

恋人🚹
菜穂、何の話ししてるんだ?

葉月🚺
ちょっと恋人(れんと)ー

葉月🚺
ほんっとに好きだな!

恋人🚹
!?

菜穂🚺
デリートスイッチの話だよ

菜穂🚺
知ってる?

恋人🚹
なんだそれ?

私たちは恋人にデリートスイッチについてすべて話した。
菜穂🚺
恋人?顔、青いけど…

恋人🚹
いや、奇妙な話だからなんか怖いなって

葉月🚺
怖いよねー!てか恋人、こんな空気にしないでよー

葉月🚺
よかったら菜穂と私とでお昼食べよ!

恋人🚹
あ、ああ…

私達は食堂に向かう。私はいつも食べている学食のラーメンを食べに、並びに行った。
菜穂🚺
今日はまだマシ

菜穂🚺
十分くらいかなあー

チラッと席に視線をやると、神妙な面持ちの恋人が、葉月に何か相談しているように見えた。
菜穂🚺
(なんか気になる……)

おばちゃん
菜穂ちゃん、いつものね?

菜穂🚺
あ、はい!

恋人🚹
葉月は、御堂先輩覚えてる?

葉月🚺
……御堂先輩?誰よそれ、知らなーい

恋人🚹
……っ…

恋人🚹
菜穂って彼氏いたことあったか…?

葉月🚺
ないんだけど

葉月🚺
なーんかあった気がするのよね

葉月🚺
多分あの子魅力的だから

恋人🚹
……

葉月🚺
なー

菜穂🚺
なーんて顔してんの

菜穂🚺
こんな空気で…なんの話?

恋人🚹
なんでも……

菜穂🚺
?

菜穂🚺
あ、恋人はお昼食べないの?

葉月🚺
私のお弁当いる?

恋人🚹
……なんか、何も食べたくないかも

葉月🚺
そういえば御堂先輩って聞いたことあるかも

菜穂🚺
御堂先輩?先週に恋人が探し回ってた人じゃないの?

菜穂🚺
恋人、あれでちょっと有名だよね笑

恋人🚹
あ、あはは、はは……

菜穂🚺
(どんな笑いだろ……?)

菜穂🚺
あ、由奈先輩にノート出さなきゃ

菜穂🚺
恋人残り食べていいよ!てか食べて!

恋人🚹
え……は?

菜穂🚺
……流石になんか食べろっての……

菜穂🚺
(そして、パソコン準備室…)

入った瞬間、真っ赤なパソコンが目に飛び込んできた。
菜穂🚺
(これ……)

菜穂🚺
だ、誰…!?

葉月🚺
菜穂…やっぱりここにいた

菜穂🚺
は、葉月?

葉月🚺
誰を消そうとしてたの?

菜穂🚺
いや、消しにきたんじゃない

菜穂🚺
御堂先輩とやらを調べる為に来たの

菜穂🚺
なんか引っかかるのよ!すごく、懐かしいような…

葉月🚺
……

葉月🚺
私、知ってるんだ

菜穂🚺
え?な、何を…?

葉月🚺
菜穂と御堂先輩…御堂貴之先輩は付き合ってたの

菜穂🚺
…え?

菜穂🚺
ま、待って、私知らない

葉月🚺
恋人が御堂先輩を消したのよ

菜穂🚺
れ……んと…が…?

菜穂🚺
なんで……!?

葉月🚺
嫉妬だと思う

葉月🚺
恋人は菜穂のことが、好きだから

菜穂🚺
そんなので人を消したっていうの?

菜穂🚺
そんな……

葉月🚺
菜穂、落ち着いて…

菜穂🚺
……なんで知ってるの?

葉月🚺
見ちゃったのよ

葉月🚺
部活に行くときに横を通りすがって…

葉月🚺
(部活、部活〜♪)

葉月🚺
(なんで電気つけないんだ?)

恋人🚹
み……ど…う……

あの赤いパソコンは、間違いない。そして、視力の良い葉月は遠目からでもわかった。
恋人のその殺意と、バーにどんどんと明らかになっていく『御堂貴之』の名前。
葉月🚺
(これ……デリートスイッチってやつだっけ)

葉月🚺
(なんで御堂先輩を!?)

私はそう信じながらも、一枚だけ写真を撮って部活に行った。
菜穂🚺
………あ……

菜穂🚺
あの不自然なリアクション……っ

葉月🚺
黙っててごめん。でもあなた、きっと悲しむから

葉月🚺
とっても円満してたもの

葉月🚺
……言えなくて…

菜穂🚺
葉月は悪くない

菜穂🚺
御堂先輩を元に戻す方法を考えましょう

恋人🚹
何してるんだ???

菜穂🚺
〜〜〜っ!?

葉月🚺
恋人っ…!?!

葉月🚺
逃げろ!

恋人🚹
待て!

菜穂🚺
あうっ…!

葉月🚺
菜穂!

菜穂🚺
私はいいから!

菜穂🚺
早く助けを!

葉月🚺
あ、そ、そっか、わかった!

恋人🚹
先生が来る前に葉月を消さないとな……

菜穂🚺
恋人!待って!

菜穂🚺
なんでこんなことするのよ!

恋人🚹
……要らないんだよ

菜穂🚺
え?

恋人🚹
菜穂と俺の恋を邪魔する御堂も、ベタベタひっついてる葉月も、思い通りに行かせない菜穂も!

恋人🚹
地球なんて俺中心に回ればいいのに

恋人🚹
驚くほどに全てがうまくいかない!

菜穂🚺
……

恋人🚹
笑うんだろ?

恋人🚹
いいよ…笑ってみろよ!

菜穂🚺
笑わないよ

恋人🚹
……?

菜穂🚺
恋人は…馬鹿だからなァー!

菜穂🚺
私の本性に気がつかなかった?

菜穂🚺
私の偽の性格に恋してるような奴なんて、最初からこの世界に必要ないの

菜穂🚺
あんたこそ消えるべき

菜穂🚺
消してあげようか?『あのパソコン』は私の方が近いんだから

菜穂🚺
いっそあなたの存在ごと消して…楽にさせてあげようか?

恋人🚹
…菜穂?

菜穂🚺
そうよ

菜穂🚺
あなたの知ってる菜穂ではなくなってしまったかもね

菜穂🚺
取り敢えず、早く御堂先輩を返してよ

菜穂🚺
彼は直接的には関係ない

菜穂🚺
まだ返してくれないなら、私が消えるわよ

恋人🚹
ま、待て…

菜穂🚺
仮にも好きだった女なんだからね、さっきまで

菜穂🚺
庇うのなんてわかってやった

恋人🚹
なん…だよ!

葉月🚺
菜穂ォ!

教師
何叫んでるんだお前達

教師
パソコン室の鍵もなぜ空いている?

葉月🚺
(私が菜穂に御堂先輩のことを話す為に誘き寄せちゃった…)

教師
二人とも、取り敢えず出なさい

菜穂🚺
待ってください先生

葉月🚺
菜穂!?

葉月🚺
やめて!

菜穂🚺
葉月、シーッ

菜穂🚺
見てて

葉月🚺
あ……!

恋人🚹
何したの?菜穂

恋人🚹
見てなかった

恋人🚹
なんだよその真っ赤なパソコン

教師
おい、早く出なさい

菜穂🚺
はい

貴之🚹
菜穂?

菜穂🚺
え?

葉月🚺
御堂先輩…!

教師
貴之がどうしたんだ?

菜穂🚺
私って、あなたの彼女ですよね?

教師
は?

貴之🚹
そうだよ菜穂

貴之🚹
菜穂が先生に呼ばれるなんて珍しいね

菜穂🚺
あなたが大好きなので

菜穂🚺
呼ばれてしまったんです

貴之🚹
えっ…😳

葉月🚺
あっ、そうか!

葉月🚺
『アレ』の存在が消えたから、『アレ』によって消えた人が蘇ったのね!

菜穂🚺
あ、記憶が戻って……

葉月🚺
菜穂……ありがとう…!

菜穂🚺
ふふ

菜穂🚺
こちらこそありがとう
