僕は人形だ
だから非人道的な事も出来る
矢野 棗
銀色の刃で肉片を切り分けていく
赤、赤、赤
こぼれ落ちる鮮やかな液体
指先で絡めると…すでにぷよぷよとした塊が出来つつあった
ゼリー状になった血液の塊を食べてみる
鉄臭い
千切れた肉片は味の無くなったガムのようだ
ああ、この感覚をなんと言ったらいいのだろう?
部屋は血液の匂いで満ちていた
脳に甘い痺れが広がってきた
これでいい
ようやく幸せになれる、そういう確信があった
視界が白く霞んでいく…
きっと僕は安らかな笑顔を浮かべているに違いない
息苦しさが徐々に加速していく
まるで走馬灯のように過去の思い出がふつふつと浮かんできた
僕は人形なので様々な欠陥がある
例えば、感情が無い
だから他人の気持ちも分からない
人形は人間みたいに価値が無い
だから僕は、それを隠して生きている
中学生 女子
中学生 女子
矢野 棗
僕には人を見分ける事が出来ない
だから、僕は人と会話する度に 相手にあわせて笑顔をつくる
何故か殆どの人がそれに騙されて
僕の事を“人間”だと思ってくれるし
僕と“仲が良い”と思ってくれる
この世界には僕以外にも人形がいて
中には人形だと人間にバレてしまう人形もいる
例えば、姫路さん…
見る限りずっと虐められている
彼女は“人間扱い”されていない
人形だから
姫路 さくら
彼女は僕に近づくとボソリと言った
姫路 さくら
矢野 棗
僕はドキリとした
すると近くにいた女子に引っ張られる
中学生 女子
矢野 棗
中学生 女子
中学生 女子
矢野 棗
中学生 女子
中学生 女子
中学生 女子
中学生 女子
中学生 女子
でも、おかげで見間違わなくて助かる
なんて言わないほうがいいのだろうな
彼女らは悪意を抱いているみたいだし
矢野 棗
中学生 女子
え?…ってこの回答間違ってるのか?
中学生 女子
中学生 女子
ホッとして僕は笑顔を浮かべた
人間は本当に面倒くさい
帰り道、姫路さんを見かけた
矢野 棗
姫路 さくら
矢野 棗
矢野 棗
姫路さんの背中には『化け物です』と書かれた紙が貼られていた
姫路 さくら
姫路 さくら
矢野 棗
矢野 棗
僕は姫路さんにだけは、正直だった
同じ“人間扱い”されてない人形だから
姫路さんは悲しそうにうつむいた
まるで人間みたいだった
姫路 さくら
姫路 さくら
微かな嗚咽が聞こえて驚いた
人形なのに、泣けるなんて!
姫路さんは僕よりずっと性能がいいのかな
僕は微笑む
僕を育ててくれた人は真面目な人だった
小夜子
矢野 棗
小夜子
小夜子
小夜子
矢野 棗
小夜子
奇声をあげて髪を掻きむしっている
矢野 棗
小夜子
小夜子
小夜子
小夜子
矢野 棗
小夜子
小夜子
『さ、い、て、いっ!!』
大きな怒鳴り声が近所に聞こえてしまわないか心配になった
小夜子
小夜子
叩かれて床に膝をつくと
彼女はダンダンと床を蹴った
どうやら僕は今日も殴られるらしい
でもどうせ、僕は人形だから痛みは感じない
いつものように解決を時間にまかせた
小夜子
僕の出来が悪いという事実を受け止められないようだ
ぼんやりと目を閉じると世界は静かになる
体が軽くなった気がして
遠くの囁き声が聞こえる
『殺せ、殺せ、殺せ』って
朝
矢野 棗
矢野 棗
お母さんは死んだように眠っていた
僕には分からないが、副作用のせいだろう
あの人は時間帯で別人のようになる
小学生の頃に一度だけそれを先生に相談した事がある
『おいおい、嘘をつくな』と言われた
『お前は繊細過ぎる』と軽い嘲笑
それで理解した…
これが普通、なんでしょ?
コメント
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俺達はホームボタン押して逃げれるけど…この子は逃げれないんだよな…
小学校の先生嫌い