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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

???

加藤家の跡継ぎはお前か

???

いささか頼りないが……

???

先代が死んでしまっては仕方あるまい

???

さぁ、行こうか名も知らぬ下僕よ

???

城代として、我が城を荒らす不埒者

???

今宵も斬って捨ててみよ

それは突然やって来た

眼前にいるのは、着崩した着物を纏った幼い女児

数日前に死んだ、剣術家だった父の仏前に腰を下ろし

彼女は、大上段から見下す目線でそう言った

アキラ

……は?

アキラ

突然なに言ってるんだ

アキラ

って言うか、誰なんだよお前!

アキラ

いつの前に家の中に……!

夜9時

弔問客が来るには非常識な時間で

なにより、チャイムも鳴らされていない

寝る前に仏前で手を合わせようと和室に入ると

当然の如く仏前にいたのがこの女児だった

???

やれ、やかましい口じゃな

???

少々つぐんでおれ

アキラ

――ッ!?

女児が自分の口元をするりと撫でると同時に

アキラの唇は、まるでジップ式袋のように開かなくなった

アキラ

んー!んん゙ー!?

???

その様子ではなにも聞かされておらんか

???

見たところ、歳は16、17ほど

???

とっくに元服しておる頃じゃが

???

ずいぶん甘やかされたな

アキラ

んぅん゙んんんっ!

アキラ

ん゙っ!んん!!

???

やかましいわい、ちくと黙れ

???

わらわは亀姫

亀姫

お主ら加藤家の者が仕える城主じゃ

亀姫

分かったらかしこまれ、敬服せよ

アキラ

んん゙ん゙んんっ!んんん゙ー!!

亀姫

なにを言っておるのか分からぬわ

亀姫

当代の加藤がうつけとは

亀姫

なんとも頭が痛くなるのぉ

そう言って、亀姫と名乗った女児は

先ほどと逆方向に唇を撫でる

アキラ

っぶは!

アキラ

なん、なんなんだよ、お前!

亀姫

じゃからお主の主君、亀姫じゃ

アキラ

知らねぇよ、なんの冗談だ!

アキラ

ごっこ遊びなら家に帰ってからやれよ!

亀姫

本当にやかましいな

亀姫

亀姫

お主、剣術はきちんと修めておるか?

アキラ

剣術?

アキラ

……父さんに厳しく言われて、少しは

亀姫

ふん、義務だけは果たしておるか

亀姫

うつけに長く時間を取られるわけにもいかん

亀姫

歩きながら話すぞ

亀姫

刀を持ってついて参れ

アキラ

は!?なん……っ!

亀姫

歩きながら話す

亀姫

二度も言わせるな

幼い姿に見合わぬ眼光で睨みつけられ

思わずアキラが怯んだ瞬間だった

母親

姫様

アキラ

母さん!

アキラ

なんか、変な奴が……!!

亀姫

おお、御台(みだい)

亀姫

コレが当代ということでよいな?

母親

はい、お連れください

アキラ

……母さん?

全て了承しているかのような冷静さに、アキラの焦りが募っていく

それを理解した様子で眉尻を下げ、母親はわずかに唇を噛んだ

母親

ごめんねアキラ

母親

次の誕生日に教えるはずだったの

母親

……朝までには帰れるわ

母親

行っていらっしゃい

渡されたのは、日本刀だった

稽古用の模造刀ならば、アキラも数回使ったことがある

しかしその重さがそれと明らかに違うことに気付き

アキラは片眉を上げた

アキラ

……いつもの模造刀じゃ、ない?

疑問符に、答える声はない

あれよあれよという間に身支度を調えられ

気がつけば、アキラは亀姫の後ろをついて歩いていた

アキラ

どこに行くんだよ

亀姫

我が城のあるK公園じゃ

アキラ

城跡のまわりにある、あそこか?

アキラ

昔はよく遊びに行ったけど

亀姫

我が城は、わらわを慕う物の怪が多く来る

言葉をさえぎり、亀姫が歌うように話しはじめる

アキラ

モノノケ?

亀姫

そう

亀姫

しかし悪霊も湧きやすくてな

亀姫

わらわのためにそれを斬り捨てる

亀姫

それがお主ら、加藤家の役割

アキラ

おい、なんの話を……!

亀姫

お主が聞いたのだろう

亀姫

我が城と、城代としてのお前の仕事の話じゃ

アキラ

――っ

アキラ

意味が分からねぇんだよ……!

亀姫

……理解できんのも無理はない

亀姫

なればこそ、その身で感じよ

亀姫

今宵、ここでな

アキラ

……普通の自然公園だろ

亀姫

敷地に一歩入っただけで判断するでないわ

亀姫

例えば……そうじゃな

亀姫

そこの池に入ってみよ

アキラ

子どもの水遊び池?

アキラ

靴脱ぐのめんどくさ……

亀姫

遅い

アキラ

あッ、ちょ……!

躊躇した様子を見せた瞬間、問答無用で蹴り込まれる

アキラ

なにすんだお前!!

亀姫

おやおや、わらわに怒っておる余裕があるか?

亀姫

周りをみよ

アキラ

は!? ――!?

亀姫

それが悪霊じゃ

池の中からは、何本もの腕が生えていた

アキラ

な、なん……!!

街灯の光にてらてらと反射を見せるそれが

まるでヒルかナメクジのように腕や足にしがみつく

それだけでなく下へ下へと引き込もうとするその力強さに

アキラは水に触れている以外の寒気を覚えた

亀姫

本来はくるぶしほどの深さしかないが……

亀姫

こやつらに捕まれば地の底に引きずり込まれるぞ

アキラ

どうすりゃいいんだよ、こんなの!!

亀姫

斬ればよかろう

亀姫

お主の手にあるのは竹光か?

嘲笑に、手に持った刀を見る

しかし蠢く腕を斬りつけることに躊躇する目に気付くと

亀姫は呆れたため息を吐いた

亀姫

戸惑うな

亀姫

それとも、殺されてもよいと思うほど

亀姫

そやつらに情でもあるか?

アキラ

そんな訳あるか!!

アキラ

こっちの気も知らないで……!!

人を斬れる物を使うためには、大義と覚悟を必要とする

生前、父親が毎日のように言っていた言葉だった

亀姫が悪霊と称したこの手がヤバい物だと理解していても

アキラはコレを、つまりは人の命だった物だと理解した

だからこそそれを斬る大義が自分にあるかを悩み

鯉口を切ることもできない

それを察し、亀姫は知らぬ振りで口を開いた

亀姫

……言い忘れておったが知っての通り

亀姫

ここで遊ぶのはオムツも取れぬやや子ばかりじゃ

亀姫

こやつらも今は夜しか姿を見せんが……

亀姫

放っておけば昼でも人を引きずり込むようになる

亀姫

先代はそれをひどく嫌っておったがお主は違うか

亀姫

それとも、お主に剣技の腕がないだけか?

瞬間、水しぶきが水平に走った

アキラ

子どもに被害が出るんなら先に言え

音もなく切られた鯉口から先には

もはや水滴さえついていない

ぐるりと取り囲んでいたはずの手はことごとく横断され

風が鳴くような声を上げてサラサラと砂になっていた

亀姫

ほう

亀姫

抜刀速度は目を見張る物がある

亀姫

ただのうつけでなくてなによりじゃ

アキラ

……1個聞きたい

亀姫

うん?

アキラ

父さんも、こんな風に

亀姫

あぁ、そうじゃな

亀姫

――早世させるには惜しい腕であった

その目は明らかに、親しい友人の死を悲しんでいた

アキラ

……お前が仏前にいたことに納得した

亀姫

お前とはなんじゃ、城主に向かって!

アキラ

そのあたりのこと

アキラ

なにも説明されてないんだけどな

亀姫

おぉ、そうか

亀姫

聞きたいことがあれば遠慮なく聞くがいい

アキラ

説明になってない説明しかしないだろ

アキラ

母さんにでも聞くよ

アキラ

事情は知ってそうだしな

亀姫

うむ、面倒が減るのはありがたい!

亀姫

ともあれ、今宵よりお主がここの城代

亀姫

幼子の命がお主の大義と覚悟になるなら

亀姫

これからもよろしく頼むぞ

アキラ

よろしくしたくないけど

アキラ

まぁ、ほどほどによろしく

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コメント

17

ユーザー

えええ読み切り…🥺 井之上さん、こういうファンタジー系得意ですものね…🤔 はい…好きなので 続編読みたいです🤗 え、書いてくれますよね😍 すごいキャラも設定も好きですし、バトル…というかそういう系統の あまり読まないので読みたいですね…😁 ってことで、待ってますね😌 井之上さんを愛しているチョコより🥰

ユーザー

コンテストに参加ありがとうございます_(._.)_とてもかっこいいお話でした!

ユーザー

これ読み切りなのかー! いや、いつか続きが読める日が来るのかな···?(。-∀-)

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