私の部屋
寒くて静かな暗闇に包まれた空間
その闇の中でスマホのディスプレイに明かりが灯る
カズマからのメッセージだ
カズマ
おい、引きこもり
カズマ
またすぐに引きこもってんじゃねーよ
ネコ
うっさい
カズマ
出てこいよ
ネコ
ほっとけ
カズマ
そのままでいいのかよ
ネコ
もういいよ
ネコ
もうわかった
ネコ
外に出ても傷つくだけ
ネコ
楽しいことなんて何もない
カズマ
どんだけ悲観的なんだよ
ネコ
あんたにはわかんないよ
カズマ
わかりたくもないね
ネコ
みんなニコニコしてさ
ネコ
仲良さそうに話してるように見えて
ネコ
実際は後ろ手にナイフを隠してるんだ
カズマ
はあ?
カズマ
歌詞かなんかか?
ネコ
死ね!!
ネコ
もうほっとけ!
カズマ
なんかあったのかよ
ネコ
別に
カズマ
あっただろ
ネコ
関係ない
カズマ
聞かせろよ
ネコ
やだ
カズマ
言わなきゃ何も伝わんねーってことわかってるか?
ネコ
伝わらなくていいし
カズマ
ほんとクソみたいな引きこもりだなお前
ネコ
知ってる
カズマ
待ってろ
カズマ
いまいく
ネコ
開けないから
ネコ
鍵かけてるから
ネコ
来ても無駄
ドォン!
ネコ
ちょっと!
ネコ
いまのカズマ!?
ドォン!
ネコ
なにやってんの!?
ネコ
ドア壊すつもり!?
カズマ
そうだ
ドォン!
三度目の衝撃でとうとうドアは壊れ
暗い室内に光が射し込んだ
ネコ
バカじゃないの!?
カズマ
おばさんの許可は取った
ネコ
そういう問題じゃない!
カズマ
どこだ?
カズマ
ベッドの中か?
ネコ
来ないで
カズマ
机の下か?
ネコ
来ないでってば!
カズマ
それとも押し入れの中?
カズマ
お前って昔から狭いとこ好きだよな
ネコ
来んなよ!
カズマ
口で言え
カズマ
ちゃんとその口を使って言葉にしろ
カズマ
じゃなきゃ伝わんねー
ネコ
はあ?
足音が部屋へと侵入しゆったりと探索を始める
ネコ
やめて
ネコ
もうほっといて
カズマ
ベッドの上じゃないか
ネコ
もうやめてよ
カズマ
机の下もいない
ネコ
帰って!
カズマ
じゃあ、押し入れの中だな
ネコ
帰れ!!
カズマ
ちゃんと話せつってんだろ!!
一筋の光が射し込む暗い部屋に
カズマの怒声が響き渡る
カズマ
自分から伝える努力を怠っておいて
カズマ
他の人間には本音を包み隠さず話せだあ?
カズマ
本音をぶつけてほしいならお前も本音をぶつけろ
カズマ
お前は他人にそっぽ向かれたからって勝手に拗ねてる
カズマ
ただの甘えん坊の引きこもりだよ
ネコ
うるさい
押し入れの扉が開きカズマが現れる
カズマ
おい、引きこもり
カズマ
なんとか言えよ
ネコ
うるさい
カズマ
それしか言えねーのか?
ネコ
うるさい!わかってるよそんなこと!
ネコ
私が本音を隠して生きてるから
ネコ
みんなも私に心を開いてくれないことくらい
カズマ
じゃあ、本音でしゃべれよ
ネコ
怖いの……自分をさらけ出すのが怖い……
ネコ
嫌われたらどうしようとか傷つけたらどうしようとか
ネコ
そんなこと考えてると何も話せなくなる
カズマ
嫌われるのも誰かを傷つけるのも
カズマ
生きてたらそんなの当たり前に起こることだろ
ネコ
嫌われて傷つけて独りになりたくない
カズマ
じゃあ、来いよ
ネコ
え?
カズマの手が伸びて私の頼りない指先をそっと掴む
カズマ
お前がどれだけ人に嫌われようがどれだけ人を傷つけようが
カズマ
俺はそばにいてやるよ
カズマの手に引かれるまま、私は押し入れを出る
ネコ
なにそれプロポーズ?
カズマ
バカか、お前、いいから来いって
カズマ
俺はお前の元気な姿が見たいんだよ
ネコ
嘘?
カズマ
俺が嘘言うわけないだろ
カズマ
早く来いよ、ネコ
カズマに導かれるまま私は歩きだす
外に出たらまた傷つくことになるかもしれないけど
カズマの体温を感じているとその不安も耐えられる気がした
だから、私は足を踏み出す
カズマが扉をこじ開けてやってきた
光の射す方へ