この作品はいかがでしたか?
1,020
この作品はいかがでしたか?
1,020
(誕生日の朝・自室──)
テレビ
いつもの朝、いつものニュースが わたしを出迎えてくれた。 新しいループに入ったのだ。
咲
テレビ
咲
テレビ
セカンドインパクト、 レイワカモン…。
アナウンサーが読み上げる単語を、わたしはただ聞いている。
もはや一字一句と たがわずに言えるくらい聞いたニュースが、
『昨日』のことがあってから 自分とは遠い世界の出来事のように感じられた。
──今の状況は、 これまでのわたしの認識とはまるで違う。
咲
咲
咲
咲
咲
自分の間抜けさに、 反吐が出そうになっていた。
咲
仮面の男が殺し合いに 慣れていることはわかってたのに、
どうしてそこから 『この事実』に 思い当たらなかったんだ。
咲
咲
いたのだ、もう1人。 わたしと、あの仮面の男の他に。
ループ者は、もう1人いたのだ。
それが、 あのファミレスにいたあの女──
(昼・街路──)
わたしは雑踏を歩いている。
生存戦略に従うという これまでの行動指針からではなく
100回近くもループしていれば、 もはや目覚めたら すぐ移動し続けることが癖になっていた。
意味もなくひとところに 停滞していると、落ち着かないのだ。
歩きながらのほうが考えがまとまる。 考えることは、山ほどもあるのだ。
咲
脳裏によみがえるのは、 まだ新鮮な死の記憶。 破裂する爆竹。 転がる手りゅう弾。
そして吹き飛ばされる わたしと仮面の男。
咲
爆殺というと即死するイメージがあるが、そうではなかった。
実際には数秒だったのだろうが やたら長く感じられた。
閃光で視界が奪われたので、 全て感覚のことだが、 だからこそ逆にねっとりと体に 記憶がこびりついているような感じがする。
咲
熱いとか痛いとかじゃなく、 体の部位を、 ところどころでちぎられるような、 そんな感覚…。
咲
咲
咲
思い起こされるのは、ファミレスの制服と、 それから、あの奇妙な笑い声。
キキャキャキャキャキャキャ!
咲
咲
咲
咲
咲
『せっかく3人も揃ったんですからァァァァ!』
咲
思わずため息が出てしまった。
咲
咲
わたしは立ち止まり、 近くにあった店の壁に寄りかかる。
立ち向かう為の意思と技術を手に入れ
ようやく仮面の男という既存の驚異と渡り合えるようになった… と思ったところで現れた新たな脅威
咲
わたしの戦闘力は仮面の男と 充分に渡り合えるレベルまで向上していた。
それはつまり、 生き残りのビジョンが 見え始めていたということだ。
それが、いまはもう、全然見えない。 お先は真っ暗だ。
咲
咲
咲
(午後・駅ビル──)
電車に乗って、電車を降りて、 そしてまた電車に乗って、また電車を降りた。
改札を抜けて 巨大な駅ビルを歩く。
戦略的な放浪ではあるが、 あてのない散策でもある。
新たな襲撃に備えて 準備すべきだろうが、 どうしてもその気にならない。
わたしは自分の左腕をさすった。
咲
刻まれている数字がわたしの命の残り──。
『昨日』の爆発でわたしは死ななかった。 仮面の男か、もしくはあの店員が先に死んだと思われる。
咲
この残り23個の命を守りながら
わたしは 2人の殺人鬼に立ち向かわなければならない。
この命が尽きたらどうなるかはわからないが、およその検討はつく。
完全な死──。
いや、それで済めばまだいいかもしれない。
ループなんて荒唐無稽なことが起きているのだから、 その終焉にあるものが わたしの想像を超えている可能性も充分にある。
咲
咲
咲
咲
いまわたしは孤立無援。 たったひとり。
そう考えると、少し心細くなった。
咲
咲
咲
考えることを放棄してしまいたくなる。 だって、いくら考えても 追い詰められていることを確認するだけなのだ。
呟いて、ビルのなかのエスカレーターに乗った。
エスカレーターは全自動で体を運んでくれる。 自分の全部を丸投げにして任せてしまえる。 何も考えなくても、行動しなくてもいい。
そのまま延々とエスカレーターで 上階へと運ばれて ──最上階に辿り着いたら、 今度は下に向かって折り返した。
咲
わたしはこれまでの人生、 基本的に全て流されて生きてきた。 その場のノリ、それだけの人生だった。
ループ者になってからは、だいぶ変わったと思うが…。
今はなんだか、 やる気が湧いてこなかった。 わたしはだいぶ疲れているらしい。 身体だけじゃなくて、心が。
咲
咲
しかし。
どうやらそういうわけにもいかないらしかった。
エスカレーターの魔力に囚われること2往復と少し。
わたしが3度目に上っている途中、奴はその先に待っていた。
咲
仮面の男
おなじみの仮面。 もういい加減付き合いも長くなって、
おかげで妙な親近感すら覚える。
咲
咲
咲
仮面の男
咲
咲
言っている間もエスカレーターは止まらない。 わたしはどんどん仮面の男に近づいていく。
わたしはゆっくりと、ハンドバッグから 愛用のキッチン包丁を取り出そうとした。
すると──
仮面の男
仮面の男が、わたしに向かって言った。
その間もエスカレーターは止まらない。
咲
仮面の男
仮面の男はわたしの名前を言った。
咲
エスカレーターが私を頂上まで運ぶと、仮面の男と間近で向かい合った。
仮面の男
コメント
16件
(´-ω-)ウムムおもしろ!ꉂ(ˊᗜˋ*)
イケメン+イケボでないと許せんやつ…(許すな)