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「おう、いらっしゃい、涼平久しぶりだな!」
カウンターにいた60歳前後の男性が涼平に声をかけた。
その男性は、涼平にマンションを貸した菊田だった。
菊田は一目でサーファーだとわかる男性で、白髪交じりの髪を後ろで一つに結び口ひげを生やしている。
肌はもちろん真っ黒に日焼けし、穏やかな雰囲気の男性だった。
「こんばんは。席空いていますか?」
涼平が店内を見渡しながら聞くと菊田は大丈夫だよと言った。
店内には四組ほどのグループが楽しそうに食事をしている。
菊田は涼平の後ろにいた詩帆に気づき、優しく微笑みながら声をかけた。
「いらっしゃい」
「こんばんは」
詩帆は少し恥ずかしそうに挨拶をした。
すると奥から50代くらいの日に焼けた女性が出て来た。
菊田の妻の優子だ。
優子はすらっと背が高く髪の長いエレガントな女性だった。
優子は涼平を見るなり言った。
「涼ちゃん久しぶり! いらっしゃい!」
そこで後ろにいる詩帆に気付く。
「あら、涼ちゃんが女性を連れて来るなんて珍しい! いらっしゃいませ。さ、どうぞ」
優子は笑顔で二人を窓際のテーブルへ案内した。
二人が席に着くと、今お冷を持って来るわねと言って一度カウンターへ戻る。
涼平はメニューを詩帆に渡しながら、
「ここのはどれも美味しいよ」
と教える。
メニューには、湘南で獲れたしらす丼をメインにした定食や、
湘南野菜をふんだんに使ったスパイスの効いた野菜カレー、
そしてシーフードがたっぷり入ったシーフードパスタやハワイアン風ロコモコなど、
美味しそうなメニューが写真と共に載っている。
詩帆は悩んだ末シーフードパスタにした。
そして涼平はしらす丼定食にする。
そこへ優子がお冷を持ってきた。
優子は注文を受けるとオーダーを伝えに一度厨房へ行ってからまた戻ってきた。
「こちらのお嬢さんは涼ちゃんのお友達?」
「彼女は江藤詩帆さん。俺がよく行くカフェで働いているんだ」
「江藤です」
詩帆は優子に挨拶をする。
「はじめまして! 私は菊田優子と申します。あそこにいる菊田の妻です」
と優子が夫の方を指差そうとした時、菊田はすでに優子の後ろに立っていた。
「どうも、菊田です。僕はね、涼平の辻堂の父みたいなものなんですよ」
菊田は微笑んで言った。
すると涼平が二人に言った。
「彼女は美大を出ていてすごく絵が上手なんだ」
「えー、そうなの? 是非その絵を拝見したいわー」
「いえいえ、そんなお見せ出来るほどのものではないので……」
詩帆が恐縮していると、涼平が言った。
「いや、素人の俺が見てもこれはすごいっていう絵だったよ」
「余計に見たいわー! 詩帆さん、今度来る時は見せてねー!」
優子がしきりに言ったので、詩帆ははいと頷いた。
それから優子はふと思いついたように言った。
「そうだ、来週の私の誕生日パーティー是非詩帆さんもいらして! その時にこっそりでいいから絵を見せてちょうだい」
すると、夫の菊田も言った。
「それはいい考えだ。涼平、詩帆ちゃんを連れて来いよ」
菊田に言われた涼平は、詩帆の方を向いて聞いた。
「来週の金曜日なんだけれど大丈夫?」
詩帆はスマホを出してバイトのシフトを見てみる。
するとちょうどその日は休日だった。
詩帆が「大丈夫です」と答えると、じゃあ決まりだなと言って菊田夫妻は微笑んだ。
詩帆は、全く知らない人達のパーティーにいきなり参加する事になったので緊張していたが、
菊田夫妻が嬉しそうなので断るわけにもいかずに了承した。
そこへ料理が運ばれて来る。
「じゃあ、ごゆっくり」
優子は二人にそう告げると、夫と共にカウンターへ戻って行った。
料理を食べ始める前に、詩帆は涼平に聞いた。
「お誕生日パーティーって、大勢の方が来られるのですか?」
「20人くらいかなぁ。でもね、みんないい奴ばかりだから心配ないよ」
それを聞いた詩帆は、そんなに大勢が集まるのかと驚いていた。
しかし涼平が心配ないよと言ったので少しホッとした。
それから二人は料理を食べ始めた。
詩帆はシーフードパスタを一口食べると、
「おいしい!」
と言って幸せそうな笑顔を見せた。
そんな詩帆の笑顔を見つめながら、涼平もしらす丼を食べ始めた。
コメント
1件
菊田さんの奥さんのパーティー🎉のお誘い🎶 絵のお披露目もあってこれで少し涼平さんとの距離が縮まるかな🤭⁉️