「うわぁー。美人さんすねぇー。ダリルさんの彼女っすかっ? だからあんなにいつもより必死だったんすか⁉︎ 私のことは遊びだったんすね⁉︎きぃーーーーーーっ!」
なんだかうさ耳が捲し立てているが無視だ。いまはそんな遊びに構っている時てはない。
「ダリル様、これでこの王国を覆っていた英雄たちの呪いは消え去りました。この王国は、奴らから解放されたのです」
ナツという存在は助かる。本来ならばこれから全体を見て回って確認するという面倒極まりない仕事があるはずなのに、この未来視のできる者が言うならばその心配がないと安心出来てしまう。
だが、依然油断の出来ないことはある。
「ダリルさん! それはそうとあのホビットの男の子……死にそうっすよ⁉︎」
そうだ。エミールは呪いがなくとも、俺の与えたチカラを使いすぎてもともと死にかけていたのだ。俺はエミールを助ける。それが目的なのだから、呪いを消滅させたところでまだ達成はされていない。
俺はまだ意識を取り戻さないバレッタをうさ耳に預けて、エミールに駆け寄る。
必死な荒々しい息遣いは、エミールがまだ生きていることを知らせているが、このままではそれもそう長くはないだろう。
「大いなる癒しを」
俺の治癒の魔術でさえ、擦り切れた寿命まではどうにもならない。少しだけ延命するのが精一杯なのだろう。
「ダリルよ。そのホビットの子は、寿命であるならば延命することなど不要なのではないのかの?」
いつの間に来ていたのか、幼女はそんな事を問いかけてくる。
「そう睨むでない。いや、の? 不要と言ったのはちと悪い言い方ではあったが、もっとはっきりと言うなら、それは不可能だろうということよ」
「俺は……真神だ。神なら出来るだろう」
「いや、解呪も封印も自力で出来ぬ者が、尽きかけの命を救うなど出来ようもなかろう。お主、自身のことを知らなさすぎよの」
幼女が呆れたように俺を見て嘆息する。
「なら……」
「あの生贄の子どものように名付けなどするなよ。そやつは死ぬ運命を受け入れておる。呪いにて死ぬことは業腹であったようだが、己のしたことによって寿命が尽きること自体は納得ずくのようよの。そんな相手に名付けでどうにかしようとしても不発に終わってどんな結果になるか分からんぞ? 最悪未来永劫に死に続けることも!」
不滅の生物にとっての死生観は俺には分からん。
「それでも、可能性があるなら俺は!」
「分からんやつよの! すでに納得しておる! 本人が! それはお主のエゴよ!──死ぬことを納得してもうその時がすぐなのだ。その子の願いを叶えるのか、お主のエゴを通すのか」
そんなのは俺の事だ、決まっている。そのまま死ねることを願っているのならば、俺は……。
「キスミ……さん」
「エミール! 気がついたのかっ? それより喋れるのか?」
「呪いが解けたからですかね……。キスミさん、僕を助けないで。呪いが解けたなら、もうこの世界にはいないんでしょ? 僕の願いは叶ったんだ」
「しかし、エミール。お前は死ぬほどにはまだ生きていない。そんなのは残酷だ」
憎き敵が消え失せれば命もいらないなど、そんな風に死んでいっていい奴じゃない。
「キスミさん、叶ったんだよ。そのために僕は燃やし尽くしたんだから。僕だけでは無理だった願いを叶えたんだから。この命尽きても惜しくないんだよ。それに残酷なら──僕はたくさんしてきた。今さら僕自身の運命を残酷だなんて思わない……」
エミールは、確かに死ぬことを受け入れている。もはやそれ以外を求めてはいない。……だが。
「まあ、それでもキスミさんともう少しだけおしゃべりしたかったかな」
死ぬことを願ってなどはいない!
俺は自身の中に何かが渦巻くのを感じた。
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