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「お父さん! 来たよっ!」
底抜けに明るい声とともに横から抱きつかれて、俺は意識を引き戻される。
「あれ? マイちゃんじゃないっすか。どうやってここに…。っていうかお父さん? ずっとダリルさまって言ってなかったっすか?」
「エイミアちゃんも久しぶり! だってずっと封印に付き合ってたから。その間のマイは半分くらいはマイじゃなかったもの!」
「そ、そうなんすか? そうっすね、話し方もずいぶんと変わったっす! そっちの方が可愛いっすよ!」
俺はマイがかつての振る舞いをしていることに安堵したが今はエミールだ。
「凄く思い詰めてますね、ダリルさん。でもここでは俺の筋肉は役に立ちそうにないですね……」
「あんたの筋肉が役に立つのなんて子どもを喜ばせる時くらいよ? そん時にはわたしの弓も炸裂するけどね」
エルフと巨人までやって来た。一体どうなっているのか?
「僕もいますよ。ダリルにいちゃん。今は鉱山も安定してます。ていうかなんだか今日の村のみんなはいつもよりエネルギッシュていうか……魔力を使っていた気がするんですが……ついにってことですか?」
ドワーフの坊も……ということは。
「もちろん私も来てますよ、ダリルさん。私は他の方と違って闘えないですけど……それでも呼ばれたという事はなにか出来ることがあるのですね?」
サツキまで。いや、呼ばれた? 誰に?
「それはダリルにだよっ! ダリルってばこういう時でもないと仲間を呼んでくれないんだからっ! ダリルに助けられたみんなは現人神の眷属なんだから……必要なら遠慮はいらないんだよ?」
「俺も来ちゃいました。狼を斬るくらいしか出来ませんが」
ミーナとビリーまで。眷属? 必要? それはまさか、さっきの俺の中にあった……。
あまりの状況に戸惑う俺の胸に降ってきたのは美しくもやかましい人魚。
「やっとこれたで! 守り人っての安請け合いしてもうたけど、こっちから会いに来れへんかったやん! まあ、それもこれからは遠慮いらんのやったらええけどっ?」
馬鹿な人魚はここでも恋愛脳だ。
「ワシも来てしまったが、何があるのかの?」
「あ! 農夫のおじさんっす! この間は通してくれてありがとうっすよ!」
「よくも世界の垣根を越えてこれだけ呼び寄せたものよの。ダリル、これから何をしようというつもりよの? まさかさっきあれほど言ってその子どもと話してそれでも曲げないつもりかの?」
幼女は呆れているのか凄んでいるのか分からない顔で確認してくる。
そうだな……俺はエミールがさっき口にした願いの|半《・》|分《・》だけでも叶えたいんだ。
「それが俺の本分だからな」
「キスミ様。これを……」
意識を取り戻したバレッタが上体だけ起こして俺に手渡してくる。
「それがキスミ様の最後のカケラ。これでキスミ様は全てを揃えられるのです。お受け取りを……」
バレッタは手のひらの小さな飴を俺に渡そうとする。俺がこれまで集めて来た、俺を構成するカケラの数々。それは封印に使い撒き散らして、みんなが集めてくれた俺のカケラ。心も感情もそこに置いて来たから。みんなには世話をかけた。けどそれは。
「バレッタ、それはお前が持っていてくれ。確かにそれは俺が忘れてはならない俺の物語だが、受け取ればバレッタがいなくなる。俺はその方が堪らなく嫌なんだ。俺もバレッタが好きだからな」
「ですが……私などはあとでどうとでも造れるはずです。ですから」
「俺に好きな人を殺すような真似はさせないでくれ。それに……いまはそれが無くても構わない状況だからな」
「キスミ様──」
俺はそれを受け取る訳にはいかない。そこには俺の根底にある記憶と感情が詰まっているが、だからこそバレッタという相棒としてそばにいてくれる方がいいからな。
たとえそれが、今だけだとしても。