テラーノベル
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朝の光が障子越しに差し込み、澪はゆっくりと目を覚ました。
「⋯⋯ここは⋯⋯朧さんのお屋敷⋯⋯」
まだ慣れない和室の天井を見上げながら、昨夜の出来事を思い出す。
《“あなたは、私の花嫁ですから”》
胸が少しだけ、熱くなった。
のっそりと起き上がり、廊下を歩いていると、どこか華やかな声が聞こえてきた。
「朧様、お久しゅうございます」
「⋯⋯あなたでしたか。どうぞ、お入りください」
(誰か来てる⋯⋯?)
そっと覗くと、朧と同じくらいの年齢に見える女性の人⋯妖が、優雅に頭を下げていた。
──長い黒髪に、艷やかな着物。
人間離れした美しさ。
やはり、妖に違いない。
「朧様は、相変わらずお美しいですね。異界でも噂になっておりますよ」
「⋯⋯そうですか。あなたもお美しいですよ」
(⋯⋯!でも⋯⋯綺麗な人⋯⋯)
澪の胸が、きゅっと痛んだ。
(⋯。さっきの部屋に戻ろう⋯)
「澪さん」
「っ⋯⋯!」
朧がこちらを向いた。
金色の瞳がまっすぐに澪を捉える。
「どうして隠れているのですか。こちらへ」
「い、いえ⋯⋯私は、その⋯⋯」
「澪さんは私の花嫁です。隠れる必要などありません」
その一言で、客人の女性が驚いたように澪を見る。
「まあ⋯⋯この方が、朧様の”花嫁”⋯⋯?」
「”仮”の花嫁ですが」
朧が淡々と補足する。
(”仮”⋯そうですよね⋯⋯)
胸が沈んで、また少し痛んだ。
客人の女性は、澪に優しく微笑んだ。
「澪様、どうぞよろしくお願いいたします。
朧様は昔から人気がおありで──」
澪の顔が少し歪む。
「その話の必要はありません」
朧の声が、いつもより少しだけ冷たかった。
「⋯⋯朧さん?」
「澪さんが困ります。」
(⋯⋯え?)
客人の女性はくすっと笑った。
「相変わらずですね、朧様。
では、私はこれで失礼いたします」
女性が去った後、オルカには静けさが戻った。
「澪さん」
「⋯⋯はい」
「先程の方の話は、気にしなくていいのです」
「⋯!い、いえ⋯⋯!私は別に⋯⋯」
「澪さんは、顔に出ます」
「っ⋯⋯!」
朧は静かに澪の方へ歩み寄る。
「私は⋯⋯あなたが不安になるようなことは、望んでいません」
「朧さん⋯⋯」
「何度も言いますが あなたは、私の花嫁ですから」
その言葉は、昨夜よりもずっと近くて、ずっと優しかった。
澪の胸が、また熱くなる。
(⋯⋯でも、私は”仮”の花嫁⋯⋯)
朧の優しさが嬉しいほど、その言葉が胸に刺さる。
(本当の花嫁になれる日は⋯⋯)
「来るのでしょうか──」
澪が小さな声で言った。
「澪さん⋯⋯?」
「⋯⋯!」
(私、声に出て⋯!
それより、どうしてあんなこと思って⋯⋯?
もしかして⋯⋯
いやそんなこと無い⋯⋯無い⋯)
澪は、ぎゅっと目を瞑りそっと胸元を押さえた。
澪の想いに、朧はまだ気付いていない。
コメント
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嫉妬大好き❕