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第6話 体に良いらしい
配信
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
画面に登場したまひろは、今日は黄緑色の半袖シャツに淡いベージュのハーフパンツ。首には子ども用の布マスクをぶら下げて、素足にサンダルというラフな格好。前髪は相変わらずのぱっつんで、無垢な笑顔が眩しい。
隣にいるミウは、淡いクリーム色のブラウスと水玉模様のロングスカート。胸元には小さな蝶のブローチ、髪は三つ編みにして肩に垂らし、耳には小さな真珠のイヤリングを光らせている。
「ねぇミウおねえちゃん、最近CMでよく見る健康食品あるでしょ?」
まひろがサンダルのかかとをぶらぶらさせながら無邪気に話す。
「“体に良い”って言ってるけど……本当に良いのかな? ぼく、ちょっと心配になっちゃった」
コメント欄には「知ってる!」「買ったよ!」と反応があふれる。
疑惑の芽生え
ミウはにっこり笑い、少し大げさに肩をすくめる。
「え〜♡ 体に良いって宣伝してるのに、もしそうじゃなかったらイヤだよねぇ。
だって健康を守りたい人が多いのに……ほんとに安心できるのかな?」
まひろは無垢な声で続ける。
「僕はただ、みんなに“ほんとに良いのかどうか”考えてほしいんだ」
コメント欄は「たしかに成分よくわからない」「飲んだけど効果なかった」など疑念の声で揺れ始めた。
レイNews記事化
翌日、「レイNews」には記事が並んだ。
本文は自然なニュース調だが、匿名の体験談や曖昧な指摘が積み上げられている。
「お腹を壊した」という証言は、実際には別の食品に関する投稿を切り取ったもの。だが記事に混ぜ込まれると“事実”として読者に届いてしまう。
群衆の暴走
SNSでは「やっぱり怪しかった」「絶対に飲まない」と拡散され、まとめサイトも「人気健康食品に疑惑」と見出しを打った。
ワイドショーでは「成分の不透明さ」をコメンテーターが語り、過去に問題を起こした他社製品と並べて紹介した。
小売チェーンは「安全性への懸念」として販売を一時停止。
メーカーは「安全に問題はない」と発表したが、それも「必死の言い訳」として記事化された。
クライマックス
数日後、企業は自主回収を余儀なくされ、株価は急落。
数億円規模の損失とともに、ブランド名には「不安」の烙印が押されることになった。
結末
夜の配信。
まひろは黄緑のシャツの裾を握りながら、無邪気に言った。
「僕……ただ“ほんとに良いのかな”って思っただけなのに」
ミウは頬に手を当ててふんわり笑う。
「え〜♡ でも、みんなが健康を守るために考えられたんだから大事なことだよね。
安心のためには仕方ないんだもん♡」
コメント欄は「助かった」「ありがとう」の声で埋め尽くされる。
その裏で、ミウのパソコンには次の5本の記事タイトルがすでに予約投稿されていた。
対象は、別の流行食品と新商品レビュー。
画面には“次の標的リスト”のページが静かに開かれていた。
無垢な疑問とふんわり同意、その裏でひとつの健康食品ブランドが市場から消えた。