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第7話 正しい学び
配信
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”です!」
画面に映ったまひろは、今日は水色の長袖シャツにベージュの半ズボン。袖は少し長く、手首まで隠れがちで、無垢な小さな体を覆っている。ランドセルは椅子の横にかけられ、ぱっつん前髪の下の大きな瞳はきらきらと澄んでいた。
隣のミウは、薄いピンク色のカーディガンにクリームのブラウス、フレアスカート。髪はゆるくまとめ、耳には小さな花形のイヤリング。見守るように優しく笑い、手を胸の前で軽く重ねていた。
「ねぇミウおねえちゃん。最近すごい人気の教育ユーチューバーさんがいるんだよ」
まひろは無邪気な声で言う。
「子どもにも分かりやすく教えてくれて、勉強が楽しくなるって評判なんだけど……僕、ちょっと心配になっちゃったんだ。
だって“失敗した子のエピソード”をよく取り上げてるでしょ? あれって、見てる子どもたちがつらくならないのかなって」
コメント欄がざわつく。「確かに」「でも助かってる」という声が入り混じる。
疑惑の芽生え
ミウがふんわり笑って頷く。
「え〜♡ 分かりやすくて素敵だと思ってたけどぉ……もし子どもたちに“プレッシャー”になってたら心配だよねぇ」
「うん。僕はただ、みんなに“ほんとに安心して学べるのかな”って考えてほしいんだ」
コメント欄には「ウチの子が泣いてた」「でも役立ってる」という相反する体験談が書き込まれる。
視聴者の胸に小さな疑問の種が植え付けられた。
レイNews記事化
その夜、「レイNews」には記事が並んだ。
本文は冷静だが、匿名投稿や切り取られた映像を並べ、視聴者に「子どもを傷つけている人」という印象を植えつけていた。
群衆の暴走
SNSでは「教育どころかトラウマ」「うちの子が不登校になったのはこの人のせい」と声が広がる。
まとめサイトは「教育業界に激震」と見出しを打ち、ワイドショーは「正しい学びとは?」と特集。過去の動画を繰り返し流しながら「子どもの表情に注目してください」と専門家を呼んだ。
結果——企業タイアップは打ち切り、自治体が予定していた講演は中止。
「子どもたちのため」と掲げてきた活動は、逆に「子どもを苦しめる」と断定されてしまった。
クライマックス
数日後、教育ユーチューバーZは「誰かを傷つけるつもりはなかった」と謝罪配信を行った。
しかしコメント欄は「言い訳にしか聞こえない」「本音を隠している」と炎上。
その様子さえ、翌朝のレイNewsに記事化された。
「必死の弁明、理解を得られず」
結末
その夜。
「はごろもまごころ」の配信に、ランドセルを背負ったまひろと、やわらかな笑みのミウが映った。
「僕……ただ“心配だな”って思っただけなのに」
まひろは無垢な瞳をカメラに向ける。
ミウはやわらかく微笑み、首を傾ける。
「え〜♡ でも、みんなで考えられたんだから素敵だよね。
安心できる学びって大事なんだもん♡」
コメント欄は「ありがとう」「正義の子だ」の言葉で埋まる。
その裏で、ミウのパソコンには“次に狙う教育系インフルエンサー”の候補リストがすでに表示されていた。
無垢な子どもの問いかけとふんわりした同意、その裏で一人の教育者の未来は断ち切られていた。