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「きゃああぁっ! すっごい、すんごいよぉダリルぅー!」
しばし放心していた俺の耳に、場違いな賞賛の声が聞こえた。
「自分の後輩が心配でそこにいたらしいぞ」
ダリルの手には何もなく右手を腰に当てて立っている。
先輩の優しさが身に染みる。声援はダリルに向けられたものだったが。それも致し方ないだろう。この俺だって見惚れていた。
魔獣のあの状態、俺ならわかる。あの濃密な魔力を纏った時の防御力は比類なきものとなり、あわせてその身体能力も爆発的にあがっていたはずだ。それを何する間もなくバラバラにして見せたのだから。
興奮した先輩はダリルに飛びつきぶら下がっている。
「お主も、やっとその力の本領を発揮出来たな。もはや我も敵いはしまい」
嘘か真か。いや、レオは気の利いたことや嘘などつけるヤツではない。ここに俺の「街最強」は成されたのだ。
ダリルはレオから飴玉を貰ってありがとうと一言。あそこは上下関係だと思っていたがそうでもないのか?
「さて、帰るか」
ダリルの言葉でみんな歩き出す。レオ師匠が俺に肩を貸してくれる。いつのまにか外に停めていた馬に繋いだ荷台に無造作に転がされて馬車は走り出す。
隣にはやけにデカい馬に2人乗りのダリルと先輩。荷台が跳ねるたびに身体が痛い。でも動けない。優しさのおかわりをもう少し欲しくなるのは贅沢だろうか。魔力切れて体力ゼロの俺は板張りの荷台に寝転がされたままに暴走運転されるという試練をなんとか乗り切った。
誰もいない工房にダリルひとり。
うずらの卵ほどの紅い宝石を飾るように細工された銀は精緻で獅子のたてがみを思わせる出来だ。
それに鎖を取り付けただけの簡単なブレスレットだが、ダリルは宝石を覆うようにして茶色い毛を1束乗せる。そこに手をかざすと毛は魔力の粒となり宝石に吸い込まれて行く。紅い宝石はその中心に光を宿し、さらにダリルはエンチャントを施す。
出来上がった宝石の中には輝く太陽のような光が静かに灯っていた。