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騎士団長は恋と忠義を区別できない

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騎士団長は恋と忠義を区別できない

20 - 【第十九話】最果ての森①(シド・レイナード・談)

2025年12月05日

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出来るだけ真っ直ぐ前を向いているつもりなのに、気が付くとロシェルの谷間に目がいっている。気が付いては逸らし、また無意識に見てしまう。そんな不毛な行動を繰り返しながら森を目指し始めてからかれこれ二時間程が経過した。

その間、街を守る巨大な魔法の保護壁を見たり、遺跡群があったりとなかなか見所が多く、移動しているだけでも楽しかった……はずだ。


いや、実はあまり覚えていない。

邪念の発生源がチラチラ視界に入ると、どうしてもまともに旅路を記憶しておけなかったのだ。


「此処で馬はもう降りるぞ。そこに預けておけば、管理の者が、我等が戻るまで面倒を見てくれる」

サビィルはそう言い、翼で森のすぐ側にある小屋を指し示した。

森へ行く者は多くはないそうだが、かといって少ない訳でもないらしい。魔物の数を減らすために討伐依頼を受けた警護兵や騎士団達が入ったり、冒険者達が古代の遺物や魔法具を作る為の素材を集める為に来たりもするそうだ。そんな者達の為、馬車屋は共同で貸出した馬を一時的に預かる商売を森の入り口でおこなっているらしく、そこへ、此処まで俺達を運んでくれたこの子を預けるのだとか。

言われた通りその小屋で手続きをして馬を預ける。そして俺達は、夕方になりそうな空の下、早速最果ての森の中に入って行った。


森は入るなり鬱蒼としていて少し暗い。漂う空気には妙な重さがあり、気温が低い。木々は歪な形で空へと伸びていて禍々しさすら感じさせる。物語だと『魔女の森』や『死の旅路』といった名前がつきそうな雰囲気だ。

そんな場所なのに、俺が目下気になるのは別の事だった。

谷間が見える様な格好のロシェルでは寒いのでは?と思い「寒くないか?」と声をかけると「全然平気」だと言われて安堵した。


森の中に道らしい道は無く獣道に毛が生えた程度のものだけだ。薄暗い道をサビィルが飛んで道案内をし、先を歩くシュウが白い体を光らせて足元を照らしてくれた。

「シュウが役に立つ日が来るとは……」

愛らしい姿を愛でさせるくらいしか出来る事が無いのかもと正直思っていたシュウが、しっかりと使い魔らしく働く姿に少し驚いた。

「もっと色々出来るみたいですよ。なんたってこの子は、この世界を創った神々が、異世界を旅した時にオトモだった子なんですからね」

今は自分の使い魔だからか、ロシェルがとても自慢気に話す。

「由緒正しき存在だったのか。……ん?じゃあ、シュウがカルサールに居たという事は、此処の神々とやらは俺の生まれた世界にも来た事があるのか?」

「そうなりますね。似た様な物がこの世界にもあるのなら、気に入って取り入れた物なのかもしれませんよ?」

「なるほど」と納得し、頷く。建造物、生き物や植物など、共有する物がかなり多い事の答えを得た気がした。


「この辺はまだ魔物も居ないはずだ。もう少し先に進んだら、野営準備をしようか」

「わかった。その辺の事は任せてくれ」

そう返したのだが、どうやら状況は即一転したみたいだ。

「——すまん、言った側から早速一匹こちらへ向かって来ている!すぐ来るぞ!前方だっ」とサビィルが大声で叫んだ。 それを合図に、俺は肩に掛けていた鞄を隅に投げ捨て、即座に大剣を構えた。

「来るぞ!」

サビィルの叫ぶ声と同時に、四つ足の獣が腐った様な姿をした物体が、形容し難い呻き声をあげて木々の奥から俺達の方へと飛びかかって来た。

「ふんっ!」

重さの丁度いい剣は扱いやすく、目の前の生き物を簡単に切り裂く事が出来る。真っ二つになったモノは切った側から塵になり、空気の中へと消えていった。

「……これが魔物か」

初めて見たが気分のいい物では無かった。そして、たいした手応えも無く簡単に倒せる。これならば『レイナードが居るから大丈夫』という理由でロシェルを俺に預けたカイル達の言葉にも頷けた。


「この辺はまだ居ないはずなんじゃが、珍しいな」

サビィルが周囲を見渡し、不思議そうに首を傾げた。

「ロシェル、大丈夫だったか?」

そう言いながら彼女の方を見ると、魔法を使おうとしていたのか、手を前にかざした格好をして下ろすタイミングを逸していた。

「えぇ、大丈夫です。すみません」

頷いてロシェルが構えを解いた。『また役に立たなかった』と言いたげな顔で悄気ているのがありありとわかる。そんな彼女の頭を俺はローブ越しにポンポンと叩き「気にするな」と声を掛けた。


「先に進んでまた居ると面倒だ。予定通り今日は此処で野営しよう」

「わかった、そうするか」

サビィルに従い、戦闘体勢に入る前に投げた荷物を取りに行く。鞄を拾い上げながら周囲を見渡し、何処にテントを張ろうかと考えながら段取りを指示を始めた。

「ロシェル、焚き火を作りたいから乾いた枝をこの辺で集めて来てくれないか?シュウ、お前は彼女について行き、守るんだ。出来るよな?」

「わかったわ、任せて!」

ギュッと両手を握り、少し鼻息を荒げて見えるロシェルがなんだか可愛らしい。

「ピャアァ!」

そんなロシェルの足元で、得意げな声をあげてシュウが光を撒き散らしながら一回転してみせる。この様子なら大丈夫だろう。

「私は少し周囲を見て来る」

サビィルはそう言うと、即座に上空へと飛んで行った。

すぐに動き出した彼女達の姿を見送る。そして『さて、俺は今のうちに寝床の確保だ』と思い、荷物を解いて簡易テントを取り出した……のだが、お、おかしい。


(——無い……無い、無い!一個しかテントが、無いっ‼︎)


「っ‼︎‼︎——⁈」

慌てて全ての荷物を鞄から引っ張り出し、中身を確認する。だが、やはり無い!絶対に一人用の簡易テントを二つ入れた。自信がある。だって、何度も其処だけは入念にチェックしたのだから!なのに誰かが抜き取ったとしか思えないくらいご丁寧に消えている。


(だが、そんな事を誰かがする意味は無いのだし、自分が……ミスをした、のか?)


額に手を当て、暗くなる気持ちを何とか鎮めようとするがなかなかそれが出来ない。 理由は不明だが、『無い物は仕方がない』と、無理矢理どうにか己へ言い聞かせた。

「……ロシェルだけでも寝かせるか」

そうだ、それがいい。俺なら野営も徹夜も慣れている。木に寄り掛かり、座ったままでも仮眠程度でも取る事が出来れば残りの道中もなんとかなるだろう。


考えはまとまったので、一つだけしかなかった簡易テントを広げて仕方無くそれを組み立てる。一人用だと思っていたそれは意外に大きく、どうやら二人用のテントだったみたいだ。

「まち……がえた、のか?それにしてはおかしくないか!?」

イレイラが持って来てくれた旅支度の荷物はそれぞれ一人用の物が数個ずつだったはずなので納得が出来ない。出来ないが、目の前にコレがある以上事実として認めねばならないが……これは厄介だぞ。二人用だとなると、俺が『ロシェルだけで』と言った所で彼女が聞いてくれる気がしない。『さて、なんと言って説得しようか』と悩んでいると、焚き火に使えそうな枝を沢山抱えてロシェルがシュウと一緒に戻って来た。

「あら、もう組み立てていてくれたのね。ありがとう!」

少し開けた場所に枝を置き、ロシェルが微笑む。テントが一つだけである事に疑問が無い様子を見て、『もしかして、テントは彼女が入れ替えたのか?』と俺は思った。


「……でも、えっと……。テントって、もう一つ無かったかしら」


首を傾げる姿を見て、即座にロシェルを疑ってしまった事を詫びたくなった。

「それが……二つ持って来ていたはずだった物が一つにだけになっていて、しかもこれは二人用なんだ。入れ替えた記憶は無いし確認もしっかりしたから、こうなった理由は全くわからない」

「んー……。仕方がないですね、もうここまで来てしまった以上これで寝るしか……な、ないですよ。うん」

「なぁ、テントにはロシェルが——」と掛けた言葉を 即座にロシェルが遮り、「また!しっかり寝ないとダメですよ。これしかない以上一緒に休むしかないんです!そんなに私と一緒は嫌ですか⁈」と、予想通り俺の考えは直様否定された。

その言葉に対して『異性と一緒に寝られる訳がないだろ!』と反論したいが、その理由を問われると、俺では彼女に理解してもらえる様には答えられないのでそれも言えない。


「うぐっ」と声を喉に詰まらせるだけしか出来ないまま固まっていると、それを勝手に同意したものと捉えたロシェルが、頰を赤くしてはいたものの満足気に頷く。


「わかればいいのです。大丈夫ですよ、安心してシド。……使い魔を襲ったりなどしませんから」


心配していなかった事を言われても、反応に困る。返す言葉が何もない。

「さあ、本格的に夜になる前にキャンプの用意をしてしまいましょうか。焚き火の位置は此処で問題ないですか?」

話題を変えたいのか、ロシェルが違う話を始めた。

「あ、あぁ。問題無い」

俺の声に頷いて応えたロシェルは乾いた枝を組み上げて、魔法を使って簡単に火をつける。火打ち石がいらない事に今更また驚いた。

旅の知識はあると言っていたロシェルが、少し安堵した顔になる。実践経験の無い者が教科書通りに出来て嬉しいといった感じに見え、可愛らしさを前にして自然と微笑むのを抑えられない。


周囲を見回し、座れそうな岩を探す。丁度手頃な物があったのでそれを運ぶと、焚き火の側にそれらを並べた。追加で 机代わりになりそうな平たい石も小さいながらに見つかり、組んだ木の上にそれを置く。

「こんな石よくありましたね。すごい、テーブルみたいだわ」

喜ぶロシェルに同意して、二人で椅子代わりの岩に座った。 焚き火の炎は少しずつ勢いを増し、周囲を温める。追加の枝も後で探して来ようと考えていると、サビィルが見回りから戻って来た。

「お帰りなさい。周囲はどうだったかしら」

ロシェルがそう問いながらサビィルへ右腕を差し出す。そこへ彼が止まると、少しぶるっと震えてから一息ついた。

「問題ない。この辺はいつも通りまだ安全だった。取りこぼしが此処まで来てしまったのだろうな。なに、たまにある事だ心配無い」

その言葉に頷き「そうか、ありがとう」と礼を伝えた。

「偉いだろう?撫でるか?撫でても良いのだぞ?」

ふっふっふと笑い、羽をフワッと広げるサビィルをロシェルが撫でる。目を細め、うっとりとする姿に俺は少し心が和んだ。

それを見て羨ましくでもなったのか、シュウが俺の方へと駆けて来て『自分も!』と言うように手へと擦り付いてきた。なので促されるまま首の下を撫でてやる。焚き火を囲み、すっかり子供動物園で動物達と戯れる一団のようになってしまった。

「携帯食があるから、今日はそれで済ませよう。明日は私がウサギでも獲ってきてやるから安心しておけ」

「それならサビィル、私が魔法で罠を張りますからウサギをこちらまで追い込んでもらえませんか?」

「それはいいな。任せろ!」

ロシェルの提案に対し、名案だとサビィルが何度も頷く。

「じゃあ俺が調理をしよう。調理前の解体作業なんて、ロシェルは……やりにくいだろ?」

「えぇ、お願いします。流石にウサギの調理を一からは出来る気がしませんから」

そんなやり取りをしながらロシェルが持って来た鞄から魔法で防腐処理をしてあるらしい携帯食を取り出す。腹一杯食べる訳にはいかないが栄養は取れるので夕食はそれで済ませた。


カップで水を温めて白湯を作る。それを彼女へ渡すと、互いに一息ついた。

「そうだ、見張りは私とシュウでやるからお前らはきちんと寝るのだぞ」

「いや、俺も見張りにつく。だから交代で——」

サビィルに向かい言った言葉は「アホか!」の一言で遮られた。この世界は話を最後まで聞いてくれる奴が少なく無いか?とちょっと思う。

「私が何の為に来たと思っておる!私は夜行性だぞ?昼間に積極的に寝ておいたから、一晩中でも見張れるわっ」

その一言にシュウまで賛同する声をあげた。シュウの様子的にどうやら本気でサビィルと一緒に見張りをするつもりらしい。

「しかし……」

ロシェルと一緒のテントで一晩寝るのは無理がある。交代出来れば逃げる口実になると考えたのだが、まさかサビィルの方から退路を塞がれるとは……。

「大丈夫ですよ、シド。私は寝相は良い方ですし、貴方の安眠を妨害などしません」

白湯を飲みながら、ロシェルがまた見当違いの事を言う。


(何故逆の心配をしないんだ?俺はそんなに安全な対象なのか?……そういえば、まず俺は、彼女に人間だとすら思われていないのだったな)


自分が彼女の『使い魔』という立場で側に居る事を改めて実感し、納得した。ならば、徹底して『使い魔』を演じていれば案外眠れるかもしれない。


(……よし、いっそ俺はただの枕だと思おう)


枕が不貞を犯す訳がない。それでいこう。

戦火で培った精神力を別の方向に発揮し、俺達は手に持っていたカップを石のテーブルの上に置くと、早速休む為にロシェルと同じテントへ向かう事になった。

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