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The Night of Rewriting
“起源”が裂けた瞬間、音はなかった。
爆発も崩壊音もない。ただ、世界を構成していた“前提”が、静かにほどけていく感覚だけが広がった。
色が消える。
境界が曖昧になる。
存在と非存在の区別すら、ゆっくりと溶けていく。
その中心に、カルディアとリエルは立っていた。
二人の手は繋がれたまま。
離れることを拒絶するように。
カルディアの黒が、脈打つ。
リエルの光が、それに応じる。
混ざり合うのではない。
侵食し合い、支配し合い、均衡を保つ。
危うい、綱渡りのような状態。
「……これが、“起源”の内側」
リエルが呟く。
その声は、どこか遠くから響いてくるようだった。
「違う」
カルディアが否定する。
「もう、ここはそうじゃない」
リエルは彼を見る。
その瞳の奥に、何かが変わっているのを感じた。
「……変えてるの?」
「違う」
カルディアは静かに言う。
「壊れてるだけだ」
だが、その“壊れ方”はただの破壊ではなかった。
意味が消えた場所に、新しい意味が生まれ始めている。
“起源”が定めていたルールが崩れ、代わりに別の“原理”が滲み出している。
欲望。
選択。
執着。
本来なら排除されるべきそれらが、世界の基盤へと染み込んでいく。
「……やっぱり、そうなるんだ」
リエルは小さく息を吐く。
「ねえ、カルディア。これ、止まらないよ」
カルディアは即答する。
「止める気もない」
その言葉は、あまりにも自然だった。
リエルは少しだけ苦笑する。
「うん、知ってる」
彼女の足元に広がっていた光が、わずかに弱まる。
代わりに、黒が強くなる。
だがそれは支配ではない。
彼女自身が、それを受け入れている。
「……私も、止めない」
その瞬間、二人の“接続”がさらに深まる。
境界が曖昧になる。
カルディアの欲望が、リエルを通して形を持つ。
リエルの存在が、カルディアの衝動に“意味”を与える。
“起源”の残滓が、最後の抵抗を見せる。
「……誤り」
かすかな声。
崩れかけた意識。
「世界は、均衡によって成立する」
「欲望は、排除されるべき不純物」
リエルがそれを見上げる。
「でも、それがなかったら」
彼女は静かに言う。
「誰も、何も選ばないよ」
#恋愛
“起源”は答えない。
すでにその機能の大半は失われている。
カルディアが、一歩踏み出す。
その動きに合わせて、空間が形を変える。
彼の意志が、直接“現実”を書き換えている。
「……気に入らないなら」
低く、静かに。
「全部、上書きする」
その宣言とともに。
黒が、世界へ広がる。
それは闇ではない。
“満たされないもの”の集合。
欠落、渇き、求める衝動。
それらが世界を侵食し、同時に構築していく。
リエルはそれを見つめる。
恐怖はない。
ただ、確信だけがあった。
「……もう、元の世界には戻らないね」
カルディアは短く答える。
「ああ」
「必要ない」
その言葉に、リエルはゆっくりと目を閉じる。
「じゃあさ」
彼女は、彼の手を少しだけ強く握る。
「ここから先は、“私たちの世界”だね」
カルディアは、ほんのわずかに頷く。
その瞬間。
最後に残っていた“起源”が、完全に崩壊した。
音もなく。
抵抗もなく。
ただ、“意味を失ったもの”として消えていく。
その跡に残るのは――
何も定義されていない、新しい空間。
空でもなく、大地でもない。
時間すら、まだ流れていない。
完全な“余白”。
リエルが一歩踏み出す。
足元に、淡い光が広がる。
それは彼女自身の“選択”。
そこに、“存在する”という意思。
カルディアも、その隣に立つ。
彼の影が、ゆっくりと形を作る。
「……これで終わり?」
リエルが問いかける。
カルディアは少しだけ考えてから、答える。
「いや」
「ここからだ」
その言葉と同時に。
世界が、初めて“動いた”。
時間が流れ始める。
空間が広がる。
色が戻る。
だが、それはかつてのものとは違う。
より濃く、より歪で、より“個人的”な世界。
リエルはそれを感じ取る。
「……全部、繋がってる」
彼女の声は、わずかに震えていた。
「あなたの欲望と、私の存在が……全部」
カルディアは彼女を見る。
その視線は、強く、逃がさないものだった。
「当然だ」
リエルの鼓動が速くなる。
逃げ場はない。
離れるという選択肢は、もう存在しない。
それでも。
「……いいよ」
彼女は小さく笑う。
「その代わり――」
一歩近づく。
距離が、ほとんどゼロになる。
「私も、全部持っていくから」
カルディアの瞳が、わずかに揺れる。
その瞬間、二人の間で何かが確定する。
支配でも、従属でもない。
奪い合い。
同時に、手放さないという契約。
その証のように、空間が脈打つ。
新しい世界が、彼らを中心に形成されていく。
だが――
完全ではない。
どこかに、歪みが残っている。
消えきらなかった“何か”。
それはまだ、小さく、かすかなものだった。
リエルはそれに気づく。
「……カルディア」
「どうした」
「まだ終わってない」
その言葉に、空間の奥で微かな“影”が動いた。
新しく生まれた世界の外側。
あるいは、内側の最深部。
そこに、残されたものがある。
“起源”ではない。
だが、それに連なるもの。
そしてそれは――
二人を、見ていた。
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