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次の週、蘭子は東京にいた。

仕事をしていない彼女は、たまに東京を訪れては買い物や観劇を楽しむのが常だった。

この日は、銀座のカフェである人物と待ち合わせをしていた。


「蘭子! 遅れてごめん!」

「遅いじゃないの、真司(しんじ)さん! 待ちくたびれて帰ろうかと思ってましたわ」

「ごめんごめん、ちょうど仕事の件で呼び止められてさ」


そう言いながら、真司は笑顔で蘭子の向かいに腰を下ろした。


三崎真司(みさきしんじ)・34歳。彼は蘭子の母・和子の弟の長男で、二人は従兄妹にあたる。

真司は仕立ての良いスーツを纏い、背が高く洗練された雰囲気を持つ好青年だ。

父親が経営する複数のテーラーのうち、銀座店を任されている。


店員が来ると、真司はコーヒーを注文した後、こう言った。


「ところで、紫野の居場所は見つかったか?」

「それがさっぱり! 一体どこに行っちゃったのかしら?」

「そうか……。それにしても、なんで伯父さんたちは紫野をあんな家に嫁がせたんだ? 高倉家は金貸しで悪名高い家だろう?」

「仕方ないのよ。工場の資金繰りのためだったの……」

「工場の経営、そんなにひどい状態なのか?」

「お父様たちは私には隠しているけど、実際はかなり厳しいみたいよ……」

「なんでそんなことに。先代の頃は堅実な経営だったはずなのに……」


真司の言葉に、蘭子は苦笑いをしながら言った。


「ふふっ、きっと商才のないお父様のせいよ。東京で何度も事業を起こしては失敗続きだったのよ。娘の私も不安でいっぱいだったわ。それでも故郷に戻ればうまくいくと思ったのに……せっかく我慢して田舎に帰ったのに無駄だったわ」

「ははっ、相変わらずお前は怖い女だな。自分の欲望のためならギリギリのこともする……本当に恐ろしいよ」

「あら、人聞きの悪いことを言わないで! 紫野の父親の運転手が飲酒運転をしたのは、偶然よ。私は何もしていないわ。それに、ブレーキの故障だって故意かどうか証拠はないんだから」


蘭子の言葉に、真司は眉をひそめながら顔を近付けて言った。


「俺だって、お前に頼まれたから仕方なくやったんだ。お前が紫野を俺にくれると言ったからな! それなのに、肝心の紫野はどこへ行ったんだ? これじゃあ約束が違うじゃないか。お前が約束を破るなら警察に行くぞ?」

「嫌だわ、真司さんったら! 今さら警察に行っても何の証拠も残っていないわ。だから無駄なことはやめてくださいな」


蘭子の呑気な様子に苛立った真司は、不満げに言った。


「本当にお前って奴は悪女だな……このことを知ったら伯父さん伯母さんがどう思うかな?」

「あら、真司さんだって、賭博や遊郭での借金に困って私に泣きついたじゃない! あの時、誰が助けてあげたと思ってるの?」

「それには感謝してるって何度も言っただろう?」

「ふうん。でも、その後は? また遊び歩いて借金を作ってるんじゃないでしょうねぇ?」

「そ、そんなことあるわけないだろう! 今は真面目に親父の店で働いてるんだ」

「本当かしら?」


蘭子は意地の悪い笑みを浮かべた。

その時、コーヒーが運ばれてきたため、二人は一旦会話を中断した。


真司はコーヒーを一口飲んでから、蘭子に尋ねた。


「で、そっちこそどうなんだ? 村上家の長男とは結婚できそうなのか?」

「それが駄目なの! 母が直接村上夫人に掛け合ったけど、国雄様には想い人がいるからって断られてしまったのよ」

「へぇ……あの国雄に?」


真司は学生時代、国雄と同じ学年だったため、多少の面識があった。


「そうよ。 一体誰なのかしら、その女は……。だから、私は国雄様に会う前に、彼を諦めなくてはならないかもしれないの。今日はその相談をしたくて真司さんに会いに来たんだから」

「そういうことか……。いやでも、既に想い人がいるなら難しいんじゃないか? 親も公認なんだろう?」

「そうだけど、でも私、国雄様を諦め切れないわ! 私の夫になるのはあの人しか考えられないもの」

「お前は相変わらず強気の女だなぁ……。となると、良い考えがない訳でもないんだが……」

「何! どんなこと?」


真司は笑いながら答えた。


「ははは、俺はタダでは動かないぞ。父親の会社の経営が厳しいとはいえ、お前は親からもらった金がたっぷりあるんだろう? 」

「まあ、真司さんたらズルい! で、今度はいくら必要なの?」


蘭子の問いに、真司は顔を近付けひそひそと囁いた。


「まあ! そんな大金、一体何に使うの?」

「今回は賭博や女じゃないさ。新しい事業を始めようと思っていたところへ、一緒にやろうと言う人が現れてさ。その会社の軍資金だ!」

「まあ! それなら叔父様に出資してもらったらいいじゃないの」

「これまで何度も事業に失敗して、その度に親父に穴埋めしてもらったんだぜ? これ以上は頼めるわけないだろう?」

「だからといって、そんな大金……」

「お前は村上家の嫁になるんだろう? それなら、これくらい大した額じゃないじゃないか!」

「それはそうだけど……」

「その資金を出してくれれば、すぐに動いてやるよ。俺にはいい案があるんだ」

「本当に? 信じていいのね」

「もちろん!」


その後、二人は喫茶店を出て近くの銀行へ向かった。

【大正浪漫】茜さすあの丘で ~幼き日の憧れは、時を経て真の慈しみへと変わる~

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