テラーノベル
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溝口が歩道橋の階段を上がり切ろうとした時、反対の階段から芽里が上がってきていた。
溝口は芽里に気づいたのだが、同時に芽里の少し離れた後から歩く人影があった。
人影に気づいた溝口は、
「芽里!」
と叫んで歩道橋の上を走り出したのだが──
「そんなに走って、何に急いでいる?」
声をかけられた溝口は、ピタリと足を止めた。
声のする方へ、ゆっくりと振り向き──
「梶原……?何でお前が、いるんだ?」
歩道橋の手すりに腰掛けて足を組んでいる俺を見て、溝口は思いっきり目を見開いていた。
──こんなに驚くこいつの顔。初めて見たな。
俺は口角を少し上げて、小さく笑って言う。
「何でって、待っていたからだよ」
「待って……いた?お前が、俺を?」
「ああ、そうだよ」
俺の視界の端に、階段を上がりきった芽里が入り込む。
──二人、揃ったな。
俺は横目で芽里を見た後、すぐに視線を溝口に戻した。
「お前たちの魂を貰うために、待ってたんだよ」
「は?お前……何を言っているんだ?頭、おかしくなったか?」
溝口は呆れた顔で、
「あっ、そうか!お前、事故で頭ぶつけたんだっけ?
だからおかしくなったのか!あはは」
俺を嘲笑うように大笑いをし始めた溝口の声が、辺りに響いた。
その声に気づいた芽里が
「宗輔!」
と溝口を呼んだが、俺がいることに気づいたようだ。
俺を見ながら
「樹……? え? どうして?入院していたはず……」
芽里は動揺した声を出した。
俺は芽里に向けてフッと小さく微笑むと、芽里は立ち止まったまま、その場から動けなくなっていた。
俺は溝口の方に振り返って、
「先ずはお前から、もらうとするか」
そう言って、手のひらを上に向ける。
浮かび上がった鎌は、俺がこれまで使っていた鎌とは全く違う、長く真っ直ぐな大きな鎌へと生成された。
——え? 鎌がデカくなってる?
自分で生成したこの鎌に、俺自身が驚いていたが、それ以上に驚いていたのは溝口と芽里だ。
二人とも大きく目を見開き、口も大きく開けて声も出せずに俺の大鎌を見つめていた。
二人の顔を見て、俺は
「アーハッハッハ」
と、思わず笑ってしまった。
俺の笑い声に、溝口は我に返ったらしく、
「な、なんなんだよ!お前!」
と叫んだが溝口の目は、恐怖に怯える目をしていた。
「なんだ?溝口、お前は俺を怖がっているのか?」
俺が嘲笑うと、溝口は真っ赤な顔をした。
「そんなワケねぇーだろ!」
拳を上げて、手すりに座っている俺に向かってきた。
だが俺は手すりの上に立ち上がり、ジャンプして溝口の背後に回る。
溝口はそのまま手すりにぶつかり
「ウグッ」
と鈍い呻き声を上げて、膝を崩して倒れ込んだ。
溝口は俺に振り向くと、憎悪を込めて睨む。
俺はそんな溝口から、真正面に見えるビルの壁面の大型ビジョンへ視線を向けた。
「俺に向かってくるのはいいけど、その前にアレを見た方がいいんじゃないか?」
俺が大鎌でビル壁面の大型ビジョンを指すと、溝口は大型ビジョンに視線を向けた。
大型ビジョンに映るニュース速報。
溝口建設株式会社
独禁法違反及び巨額収賄
代表取締役社長の溝口宗一郎逮捕
が大きく流れていた。
瞠目して大型ビジョンを見つめる溝口。
「なんだ、これ。嘘だろ……」
小さな声で呟いていた。
「跡取りとして、入社予定だったんじゃないのか?残念だな」
と俺が言うと、溝口は俺に鋭い視線を向けて叫んだ。
「これは、何かの間違いだ!そんなはずない!」
「間違いでなく、事実だよ」
俺は嘲笑う。
「お前の父親、なんでも金で解決しようとして、身から出たサビだろ?」
「なんだと?」
溝口は怒りで身体を震わせていたが、俺はそんな溝口に冷たい目を向けた。
「お前の親は昔からそうだっただろ?
紗羅がお前の家に行ったから、お前の親は金を出してきた。
そうだっただろ?」
「あー、そうだったな。お前が姉貴に泣きついたから、姉貴が怒って、俺の家に来たんだっけ?」
俺を怖がってたはずの溝口は、俺を小馬鹿にして優位になろうとする。
そんな溝口に、俺は大きくため息をついた。
「俺はお前らの事を言ってなかったから、紗羅がお前の家に行ったことも、最近まで知らなかったよ」
「え?」
「なんでお前の親が、急に俺の家に金を持ってきたのかとは思っていた。
だけど俺は、その理由を知ろうとしなかったからな」
——俺の様子がおかしいと思った紗羅は、面識のある蒲生を真っ先に訪ねた。
そして何があったのかと蒲生に詰め寄り、紗羅はあの動画を見たのだ。
怒りが堪えきれなかった紗羅はその動画を持って、溝口の家に行った。
紗羅が俺のために、そこまでしていたことを、俺は知らないまま過ごしていた。
いや、違う。俺は嫌な事から目を背けて、真実を知ろうとしなかった——
「俺が知らなかったのは、そのことだけじゃない。
他に知ったことは、お前の親が……お前に脅されたと蒲生が言ったと聞いて、蒲生と蒲生の親を恫喝したことだ」
「……蒲生から聞いたのか?」
溝口は忌々しい顔で、俺を睨みつけた。
「蒲生から、何も聞いてない。
だってそうだろ?
お前の親から金を貰ったと自ら言って、恥の上塗りをするような真似を、蒲生と蒲生の親がすると思うか?」
——そう、俺は蒲生からは、一切聞いてはいない。
俺が知ったのは、蒲生の人名本からだ。
蒲生が俺に謝れば、いじめを認めることになる。
溝口が不利にならないようにしたかった溝口の親は、蒲生と蒲生の親を脅した。
これはいじめではない。ただふざけただけだったと言えと、金を渡された蒲生と蒲生の親は、その金を受け取ってしまった。
だから蒲生は俺に謝りたくても、謝ることが出来なかった。
謝れないまま、蒲生は……
俺は怒りを込めて、溝口を見た。
「お前の親とお前は、傲慢の塊だな」
「なんだと!」
「傲慢な人間というのは、いずれにしても制裁されるんだよ」
俺は溝口に低い声で言う。
「お前の親は、社会的制裁を受けた。
お前も制裁は受けるべきだよな?」
「なっ……」
溝口は何か言いかけたが、俺は
「お前の傲慢は、お前の魂で償え!」
と叫んで大鎌を振り上げた。
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るるくらげ
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