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るるくらげ
いと
#和風ファンタジー
俺は鎌を振り上げたのだが——
「きゃぁぁぁあ!」
芽里が大声を上げた。
その声に気を取られてしまった俺は、ほんの一瞬、鎌を振り落とす動きを止めた。
その隙を見逃さなかった溝口は、来た方向に向かって俺に背を向けた。
——しまった!
俺は追いかけようとした。
だが、逃げようとした溝口の足が、急に止まった。
黒いフードを被った女が、行く手を阻むように溝口に近づいてきていたからだった。
——誰だ?
俺は女を凝視した。
女の手元は何かを握り締めていたが、それは鈍い光を放っていた。
歩道橋の薄暗い街灯の明かりの反射で、鈍い光を放つそれは……
——まさか……包丁?
「またお前か。しつこいよ」
と溝口が女に言う。
どうやら溝口の知り合いの女のようだが、まだ溝口はこの女の手元に気づいていなかった。
だが、女が低い声で
「赤ちゃんの元に、行かせてあげる」
狂気をはらんだ目でニタッと笑った。
女の様子から、溝口は女の手元に気づいた。
「何……それ? お前、俺を刺す気?」
上擦った声で後退りをした溝口は、向きを変えて俺の方へ逃げようとした。
だが、戻って逃げようとしても、そこには大鎌を持つ俺がいる。
前にも後ろにも進めない溝口は、俺と女の顔を交互に何度も見ている。
だが、女は俺が見えない。
溝口がおかしな動きをしていると思った女は、戸惑った顔をした。
溝口は俺の方を向き、女を指差して叫ぶ。
「梶原!魂が欲しいって言ってただろ!俺じゃなく、あの女から取れよ!」
——何を言ってるんだ、こいつは……。
「ほら!そのデカいヤツで、あいつを切れ!」
この状況に混乱してパニックになっている割には、ちゃっかりと俺に命令するのかよ。
呆れ顔で、俺は溝口を見る。
「ほら!梶原!早くやれよ!」
女の方を見ながら、溝口は俺に命令をし続ける。
「お前、自分の立場をわかっているのか?」
「え?」
溝口は素っ頓狂な声を出した。
「俺はお前の魂を取る側で、お前は魂を刈り取られる側にいるんだ」
俺は女を見ながら言う。
「あの世へ送りたいと思うぐらい、お前は人に恨まれていた」
溝口に向き直り、俺は嘲笑を浮かべた。
「人を人と思わないお前の傲慢が招いた、因果応報だな」
俺は鎌を逆手で持ち、左手を添えて至近距離にいる溝口の懐に入り込んだ。
「あとは、あの女にあの世へ送ってもらえ」
剣道の胴打ちのような体勢をとりながら、俺は鎌を奴の身体に引っかけて引いた。
溝口は声を発することなく、目を見開いたまま膝から崩れ落ちた。
崩れ落ちた溝口に向かって、女が歩いてきた。
女は冷たい目で溝口を見下ろすと、ゆっくりと両手で掴んでいる包丁を上にあげた。
そのまま躊躇うことなく、女は溝口に向けて包丁を下ろした。
ブスッ!
突き刺す音と血飛沫が飛び散る中、女は口角を上げて微笑んでいた。
ブスッ!
狂気と憎悪で笑う女に、血飛沫が花吹雪の如く舞い散っていた。
俺はその光景に、背を向ける。
そして血肉を絶つ音と舞い散る血飛沫のリフレインを背にして俺は、芽里を見る。
真っ青になって震えている芽里に俺は
「次は、芽里の番だよ」
と言って、優しく微笑んだ。
俺が芽里に向ける笑みは、これが最後だった。
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