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相談室の扉が閉まると、微かに紙と椅子の匂いが漂った。 今日の相談者は、肩を少し落とした女子生徒だった。机に肘をつき、目を伏せながら小さく声を出す。
「……友達に、無視されちゃった」
その言葉は、吐き出した瞬間に空気を揺らすほど重かった。
遥は机に顎を乗せて、静かに視線を送る。
「……無視って、どんな感じ?」
「昼休み、教室で話しかけても、目も合わせてくれない。挨拶しても、返事もしない。周りは笑ってるのに、私だけ置いてけぼりで」
声がだんだん震えてきた。
遥は小さく息を吐く。
――わかる。
俺も、そんな日々を何度も過ごしてきた。
家では殴られ、学校では無視され、存在を消すしかない日々。
声を出すだけで、笑われたり怒られたりする。
「……辛いよな」
遥はぽつりとつぶやいた。
「……はい」
少女は頷くだけで、視線は床に向いたまま。
遥は言葉を探す。
「俺も無視されてたことある。話しかけても返事されないとか、笑われるとか。……気づかないふりして、ただ耐えてた」
少女は少し顔を上げ、遥の目を見た。
「耐えるだけ?」
「うん」
遥は肩をすくめる。
「でも、耐えるだけでも生きていける。無視されても、息してるだけで、いつか別の誰かが気づくかもしれない」
相談者は黙り、机の上で手を握りしめる。
「……でも、誰も見てくれない気がする」
「そうかもしれない」
遥は認めた。
「俺もそうだった。でもさ、無視される自分を責める必要はない。自分はそのままでいいんだ」
短い沈黙のあと、少女が小さく息を吐いた。
「……少し、楽になったかも」
遥もまた、自分の胸の奥で、ほんのわずかな安堵を感じた。
――無視されても、自分の存在は無くならない。
生きてるだけで、誰かの目に触れる瞬間がある。
二人の間に、夕陽が差し込む。教室の光とは違う、柔らかく温かい色。
無視されて傷ついた心を、少しだけ包み込むような光だった。
少女はそっと笑みを浮かべる。泣き笑いみたいに、まだ不安は残るけれど、少しだけ肩の力が抜けた。
――無視されても、存在している意味はある。
遥もまた、自分にそう言い聞かせるように、息を整えた。
※「無理に前向きにならなくてもいい、生きてるだけで価値がある」というメッセージのつもり。