テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
相談室の沈黙がしばらく続いたあと、少女が小さく肩をすくめた。
「……あの、私、明日……ちょっとだけ話しかけてみようかな」
遥は目を見開いた。
「話しかける?」
「うん……ほんの一言でもいいから。無視されてるのはつらいけど、何もしなければ、ずっとこのままだから」
少女の手はまだ微かに震えていたが、その指先には小さな決意の光が見えた。
遥は少し笑った。無理に明るく見せるわけじゃなく、自然に口から出た。
「そうだな。ちょっとだけでも、行動してみるのは悪くない」
「でも……もしまた無視されたら、どうしよう」
声が震える。恐怖と不安で、胸がいっぱいになっているのがわかる。
「……そしたら、そのときはまた耐えればいい」
遥の言葉は淡々としていたけれど、確かに力があった。
「失敗しても死ぬわけじゃない。声をかけただけで、何かが変わるかもしれない。それだけでも前に進んだってことだ」
少女は少し目を潤ませ、でも頷いた。
「……うん、わかった。やってみる」
夕陽が相談室の窓から差し込み、二人を優しく照らす。
遥もまた、胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。
――誰かに気づいてほしい。
でも、まずは自分で行動してみる。小さな勇気でも、確かに意味はあるのだ。
少女は立ち上がり、少し背筋を伸ばした。
「ありがとう、遥。……話せてよかった」
その言葉には、まだ不安が残っていたけれど、確かな希望も含まれていた。
遥は軽く頷き、椅子に戻る。
自分もまた、同じように少しずつ、怖さを抱えながら前に進むしかない。
それでも、誰かに必要とされる瞬間を信じて、息をしていればいい。
――明日、少女がほんの一言でも声をかけられたなら、それだけで世界は少し変わるかもしれない。
それを信じるために、今日も二人はこの静かな相談室で、少しだけ心を重ねたまま、沈黙を共有していた。