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皆優しくて 職場環境も良さそう....✨ 楓ちゃん、本当に良かったね~❤️
南さんも優しくて頼れそうですね🥹そうそう、一樹さんに愛されてるんですよ、楓ちゃん💖 会長は実質ナンバー2で眼の奥に鋭さを隠すダンディなんてどうしましょう💓雅則さんに一樹さんとヤスさんと、イケメン並べた日にゃ幸せすぎて昇天します😍😍😍🌙
ナンバー3が正味のナンバー2で、一応ナンバー2がなんやかんや、やねんな、多分。知らんけど。
窓際にあるデスクの一角に行くと一樹が叫んだ。
「南っ」
「はーいっ、あ、社長おはようございます」
「おはよう。彼女が長谷部楓だ。楓、こっちは総務の沢口南。南はヤスの彼女な。ここでは頼りになる先輩だから色々教えてもらうといい」
楓は目の前にいる南を見た。
南はジーンズにセーターというカジュアルな服装で、長い髪は明るめのピンクブラウンに染めている。
そして耳にはピアス、指にはいくつもの指輪を着けたお洒落でチャーミングな女性だった。
「長谷部楓です。よろしくお願いします」
楓は少し緊張気味に挨拶をした。
「沢口南です、よろしくねー! そんなに緊張しなくても大丈夫よ、楽しくやりましょう」
楓は南の優しい言葉にホッとする。
「じゃあ南、後は頼んだぞ」
「オッケー」
「楓、じゃあな」
楓はコクリと頷く。
一樹が立ち去ると南が楓を見晴らしの良い窓際の席へ案内してくれた。
「ここが楓ちゃんのデスクね」
机と椅子、そして机の上に置かれているパソコンは新品のようだ。
机の上には必要な事務用品もまとめて置かれていた。
(ここが私の机? 自分の席が持てるの?)
今まで仕事で自分のデスクなど持った事がない楓は密かに感動している。
「経理はね、昔は資格を持ったおじーちゃん組員がやってたんだけど、その人はもう高齢で引退しちゃったの。だから今は週3日出勤するパートさんと私の二人でやってるんだけど、私は簿記の資格がないでしょう? だからちんぷんかんぷんで私は補助的な作業しか出来ないのよー。パートさんは資格も経理経験もあるから大体の事はわかるみたいなんだけど、わからない事が出てくるとうちの顧問税理士さんに電話でいちいち聞いてたんだ。そんなだったから楓ちゃんが来てくれてすごく助かるのー」
「あ、でも私は資格はありますが実務経験がないので果たしてお役に立つかどうか……」
「大丈夫大丈夫、矢崎さんがちゃんと教えてくれるから。あ、もう一人のパートさんは矢崎(やざき)さんっていうの。矢崎さんのご主人は組が経営しているラーメン屋の店長なんだ。矢崎さんはそっちの仕事も手伝ってるからこっちへの出勤は火・水・木の週三日なの。明日来るから紹介するね」
「はい」
楓はもう一人ベテランの女性がいると知りホッとした。
「じゃあとりあえず今日は伝票入力でもやってもらおうかな」
「わかりました」
楓が椅子に座ると南がパソコンの入力画面を開いてくれた。
「この伝票を一枚一枚入力してもらってもいい?」
「わかりました」
「わからない事があったら何でも言ってね」
「はい、ありがとうございます」
画面に表示されている入力画面は、楓が商業高校時代に使っていた会計ソフトと似ていたのですぐに使い方がわかった。
楓が問題なく入力を始めると、南は楓の向かいの机に戻る。そしてこう言った。
「コーヒーメーカーは後ろの壁際にあるからいつでも自由に飲んでね。お腹が空いたらコーヒーの脇に誰かが持って来たお菓子やお土産が置いてあるから自由に食べて大丈夫よ。食べながら仕事をしても全然問題ないから」
「はい」
「あとは……そうだ、今日のお昼は初日だから一緒に食べに行く?」
「はい」
「お昼も自由だから外へ行っても中で食べても好きにして大丈夫よ」
「わかりました」
職場環境がかなり自由だとわかり楓は嬉しくなる。
そこで一つ気になっていた事を南に聞いた。
「服装はジーンズでもいいんですか?」
「うん。ここは普通の会社よりもかなり緩いからカジュアルでも全然大丈夫よ」
南はニッコリして言った。
その後も楓は入力を続ける。
10時半を過ぎると南が声をかけてくれたので二人で飲み物を取りに行った。
コーヒーメーカーは業務用タイプの立派なマシンで、エスプレッソからカフェラテまで好きなメニューを選ぶ事が出来た。
「すごいマシンですね」
「コレいいでしょう? つい最近前のが壊れちゃったから買い替える時に社長に聞いたの。『楓ちゃんも来るんだから女子が好きなカフェラテを作れるやつがいい』ってね。そしたらすぐにOKが出たわ。フフッ、だから楓ちゃんのお陰でカフェコーナーが充実よ」
「そうなんですか?」
「そうよ。楓ちゃんは社長に愛されてるわよねー」
クリーミーに泡立ったカフェラテを飲みながら、南がニコニコしながら言った。
(愛されてる……私が?)
思ってもいない事を言われたので楓は戸惑っていた。
楓がぼーっとしていると、突然背後から力強い声が響いた。
「南! 新人さんは来たのか?」
その声はとても力強い響きをしていた。
「あ、会長、お疲れ様です。来ましたよー、楓ちゃんです。楓ちゃん、うちの会社の会長!」
会長の話は一樹から聞いていた。
この会社の会長である円城寺雅則は現在44歳。雅則は藤堂組・組長の愛人の息子で藤堂組ではナンバー3の地位にいると一樹は言っていた。
楓はびっくりして立ち上がると、慌てて後ろを向いて深くお辞儀をした。
「長谷部楓です。この度は採用していただきありがとうございました。どうぞよろしくお願い致します」
「君が楓ちゃんか! 一樹から聞いてるよ、これからよろしくね」
雅則が優しく話しかけてくれたので楓はホッとする。
もっと怖い人かと思っていたが、雅則の第一印象はソフトで爽やかなイメージだった。
ただし体格は一樹と同じくらい背が高くてガッチリとしている。
堂々とした立ち姿にはオーラが溢れ、微笑みを浮かべた瞳の奥には、やはり一樹と同じで人を射抜くほどの鋭い眼光が見え隠れしていた。
(目力が凄い……やっぱりこの人も本物のヤクザなのね)
楓が少し緊張気味にしていると、雅則は急に満面の笑みを浮かべ手に持っていた紙袋を南に渡した。
「九州出張の土産だ。楓ちゃんと食べなさい」
「わーい♡ 会長、ありがとうございまーす」
南が礼を言ったので楓も慌てて礼を言う。
「では美女二人で、是非ともうちの事務方をしっかり守ってくれよ」
「承知でーす」
「はい」
雅則は笑顔でうんと頷くと、軽く手を上げてからその場を後にした。
雅則の姿が遠ざかっていくと、緊張していた楓がフーッと息を吐く。
それに気付いた南がクスクスと笑った。
「うちの会長ダンディでしょう?」
「はい……実はもっと怖い方かと思っていました」
「フフッ、違うんだなー。雅則会長はね、藤堂組ではナンバー3の地位だけど実力で言えばおそらくナンバー2だと思うわ。それに組員達からの信頼も厚いしね。だから私達も会長を信頼して言う通りにしていれば絶対に大丈夫だから」
南が今言った言葉には、どう考えても明るい未来しか見えない。
思わず楓は嬉しくなり、
「はいっ」
と元気よく返事をした。
それから二人はもらった菓子折を開け、フロアに残っている組員達に配り始めた。