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#バトル
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雨上がりの石畳を、ノアは小走りで進んでいた。
「うわぁ……絶対怒られる……」
肩に掛けた配達鞄を抱え直し、空を見上げる。
雲の切れ間から、白い月が覗いていた。
王都の夜は冷える。
昼間は賑やかな通りも、この時間になると静かだった。
今日は配達が長引きすぎた。
腹も減ったし、足も痛い。
早く帰りたい。
そう思いながら角を曲がった時だった。
「あれ……?」
路地の先に、暖かな灯りが見えた。
小さな喫茶店。
見覚えがない。
木製の看板には、柔らかな文字でこう書かれていた。
⸻
『Cafe Luna』
⸻
「こんな店あったっけ……」
月灯りに照らされた扉は、妙に静かで。
でも、不思議と入りづらさはなかった。
むしろ――少し、安心した。
ノアはそっと扉を開ける。
ちりん。
小さな鈴の音が鳴った。
「いらっしゃいませ〜」
柔らかな声。
ふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。
カウンターの奥から、猫耳の少女が顔を出した。
淡いクリーム色の髪。
揺れるしっぽ。
優しそうに細められた瞳。
「あの、ここは…?」
「カフェ喫茶、ルーナへようこそ 」
少女は楽しそうに笑った。
その横では、茶髪の女性が静かにカップを拭いている。
一瞬だけ視線が合った。
「お好きな席、どうぞ」
ぶっきらぼうな声。
けれど、不思議と冷たい感じはしない。
「あ、はい」
ノアは窓際の席へ腰を下ろした。
椅子がやわらかい。
ほっと息が漏れる。
店内は静かだった。
客は一人だけ。
窓際の奥に座る女の子が、ぼんやり月を見ている。
テーブルには小さな花瓶。
淡い色の花が飾られていた。
「ご注文はどうします?」
気付けば、猫耳の少女がメニューを持って立っていた。
「あっ、えっと……おすすめとかあります?」
「疲れてる人には、シトラス・ドリームおすすめですよ〜」
「シトラス・ドリーム……?」
「柑橘系のカクテルです。カクテルと言っても、ノンアルコールだから安心してくださいね。」
にこにこと笑う彼女につられて、ノアも少し笑ってしまう。
「じゃあ、それで…!」
「はーい」
ぱたぱたと去っていく後ろ姿を見送りながら、ノアは店内を見回した。
静かだ。
けれど、居心地が悪いわけじゃない。
むしろ、落ち着く。
なんでだろう。
初めて来た店なのに。
「……珍しいね」
ふいに声がした。
窓際の女の子が、こちらを見て笑っている。
「あ、え?」
「この時間に初めて来る人」
柔らかな銀髪の髪。
羊のツノがついた女の子。
彼女は少し首を傾げる。
「迷ったの?」
「あー……まあ、ちょっと」
「ふふ、ゆっくりしていくといいわ。私店員じゃないけどね」
そう言って、彼女は微笑みながら窓の外を見る。
月明かりが横顔を照らしていた。
「……綺麗な月」
小さな呟き。
その視線が、なぜだか少しだけ印象に残った。
「お待たせしました〜」
モカリアが飲み物を運んでくる。
透明なグラス。
淡いオレンジ色。
柑橘の香りがふわりと広がった。
「うわ、すご……」
「疲れてる時は甘いもの大事ですから」
モカリアは嬉しそうに笑う。
ノアは一口飲んだ。
「……おいしい」
思わず声が漏れた。
冷たい。
でも、じんわり身体が軽くなる。
「でしょ〜?」
モカリアが得意げに笑う。
さカウンターの奥で、茶髪の女性――タルティアが静かにこちらを見ていた。
ほんの少しだけ。
表情が柔らかくなった気がした。
気付けば、雨は止んでいた。
窓の外では、白い月が静かに光っている。
ノアはグラスを持ったまま、小さく息を吐いた。
「……なんか、落ち着く店ですね」
その言葉に、モカリアは少し目を細める。
「そう思ってもらえたなら、嬉しいです」
静かな声だった。
だけどどこか、
大事なものを撫でるみたいな響きがあった。
帰る頃には、身体の重さが少しだけ消えていた。
扉の前で、ノアは振り返る。
「また来てもいいですか?」
「もちろんっ またのお越しをお待ちしてますっ」
モカリアは笑った。
その後ろで、窓際の女の子がまた月を見上げている。
白い月だった。
なぜだろう。
その光景が、やけに心に残った。
ちりん。
扉の鈴が、小さく鳴る。
夜風は冷たかった。
それでもノアは、
少しだけ足取りが軽くなった気がした。