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恵
圭と会う前日、美花は職場から帰宅すると、入浴を済ませた後、自宅のキッチンで生チョコレートを作り始めた。
「美花……大丈夫? 少し手伝おうか?」
スマートフォンでレシピサイトを見ながら、ぎこちない様子で生チョコレートを作っている娘の背中に、母の雪が心配そうに声を掛ける。
「お母さん。私、自分で作りたいんだ」
「そうだよねぇ。美花にとって、初めてのバレンタインデーだもんねぇ。頑張って完成させな?」
美花が振り返りながら言い切ると、雪は口元を緩めながらニヤリと笑い、店に戻る。
ラップを敷いたステンレス製のバットに、トロトロのガナッシュを注ぐと、粗熱が取れるまで、彼女は、メッセージカードを取り出した。
リビングにペンを取りに行くと、圭に想いを書き綴った後、キッチンでスマートフォンを片手に時間を潰した。
「よしっ! あとは冷蔵庫に入れて、チョコが固まるのを待つのみっ」
冷蔵庫にバットを入れた後、美花は自室に戻ってパソコンを起動させ、作りかけの楽曲を制作し始める。
(この曲…………いつか、圭ちゃんに聴いてもらいたいなぁ……)
ある程度、楽曲制作を進めたところで、美花は曲作りを中断し、早めにベッドに入った。
圭と会う当日の朝、美花は普段よりも二時間早く起床し、冷蔵庫に入っていたチョコレートの仕上げ作業を開始。
「あれ? 今日は随分と早く起きたじゃない?」
「これから仕上げて、チョコをラッピングするからね」
「へぇ……。恋のチカラって偉大だねぇ」
「もうっ! お母さんはテレビ見てなよぉ」
リビングでくつろいでいた母に目を細められた美花は、すぐさま背中を向けて作業に取り掛かる。
生チョコレートを切り分け、ココアパウダーを塗して、ラッピング。
(圭ちゃん、喜んでくれるといいなぁ……)
ささやかな願いをチョコレートとメッセージカードに託しながら、包装する彼女。
思いの外、時間が掛かってしまったけど、家を出る時刻までに間に合った。
「お母さん、行ってくるね」
「行ってらっしゃい。葉山さんと楽しい時間を過ごしておいで」
身支度を整えた美花は、雪に見送られながら、チョコレートとプレゼントのショップ袋を持ち、家を出る。
徒歩通勤の彼女は、手作りチョコが崩れないように、細心の注意を払いながら、職場へ向かった。