「記憶障害をおこしてます。」
医者は俺たちにそう告げた。
今から数時間前を遡る────
今日は俺とまろが付き合って2年の記念日だった。しかしまろは急な仕事が入り記念日を一緒に過ごすことができなくなって喧嘩になった。家を飛び出したまろは交通事故に遭い、記憶障害になった。
記憶障害といっても今までの記憶が失くなって思い出さないといけないというものではなかった。
まろは24時間しか記憶がもたず24時間経つと忘れてしまうそうだ。それに加え、これまでの記憶も最低限程度もなかった。
「まろ…何か覚えてることとかある?…」
「えっと…」
まろはうつ向いたこれ以上何も言わなかった。
俺はとんでもなく後悔した。あの時喧嘩なんてしなければ…。が謝っていれば。冷静になればしょうもない喧嘩だ。
「はじめまして。ないこっていいます。」
自己紹介したってすぐ忘れられる。
まろはもう怒ってないんだろうな。
むしろ喧嘩したことも二人の思い出も全部忘れてしまった…。
ごめん。俺がわがまま言ったせいでごめん。
「うっ…うぅっ…」
まろは隣で俺が泣き出すと「大丈夫?」心配そうにと言った。
でも違う…。いつも俺が泣いていたときは、
「どないしたんよ? 話してみ?」と言いながら頭を撫でてくれた。
もう俺が知ってるまろはいないの?
いつもみたいに愛しそうに名前を呼んでくれないの?
俺が何より大切にしたかった思い出は…日常は俺が壊してしまった。
お願い…お願いだから治って…忘れないで…
そう願いながら俺は病室をあとにした。
「はじめまして。ないこっていいます。」
あの日から俺はまろのお見舞いに行く度に、
はじめまして。と言い続けている。何度はじめましてと言っただろうか…。
あれから一週間以上が経ったが未だに記憶は治らない。医者には回復の見込みはほぼない言われた。
まろ…思い出してくれるよね…?きっと明日には…。きっといつか…。思い出すまでまつからさ。
そして今日もまた俺はまろに言う
「はじめまして。ないこっていいます。」
~END~
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