放課後の光は、どこかやさしくて、どこか冷たかった。窓際の机に肘をつきながら、遥はぼんやりと空を見ていた。
ドアが控えめにノックされる。
「……入っていい?」
声の主は、少し緊張した面持ちの男子生徒。
学年は遥より下。視線を合わせないまま、部屋に足を踏み入れる。
「人が多い場所、苦手でさ」
彼はそう言って、俯いた。
「教室でもグループに入れないし、
無理に話しかけようとすると、声が震える。
だから、いつもひとり。……でも、寂しいんだ」
遥は黙っていた。
彼の言葉は、どこかで自分に重なっていた。
「ひとりは、楽なんだけどね。
誰かに会うと、すぐ疲れちゃう。
でも帰って一人になると、息が詰まる。
この繰り返し、どうすればいいのか分かんない」
「……俺も似たようなもんだよ」
遥は、ペンを弄びながら答えた。
「人といると、心が擦り切れる。
でも、一人になると、誰かの声が恋しくなる」
少し笑って、続けた。
「居心地のいい孤独って、あるんだ。
静かで、誰にも邪魔されなくて、呼吸ができる。
でも、そこに長くいすぎると、
その静けさが“誰もいない音”に変わる」
「……怖くなるんだよな」
少年が小さく呟く。遥は頷いた。
「うん。
だから、無理に人に混ざらなくてもいい。
でも、心が“会いたい”って言った時だけ、
その声をちゃんと聞いてやればいい。
誰にも頼れないと思ってても、
“頼ってもいい”場所は、少しずつ作れる」
風がカーテンを揺らした。
外はもう夕暮れに染まりかけている。
「……俺もさ、そんな場所を探してる途中なんだ」
遥は言った。
「だから、たまにここに来いよ。
沈黙でもいいから、同じ時間を過ごせば――
孤独は少し、やわらぐから」
少年は小さく頷いて、ドアの前で振り返る。
「……ありがと」
遥は微笑んだ。
その笑みは、光に溶けるように淡かった。
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