「な、なにこれ……」
意識を失ったリュウト(仮)をズルズル引きずりながら、洞窟を出た瞬間――
外、やばいことになってました。
まず、雨。
普通の雨じゃない。めっちゃ嵐。バッシャバシャ。視界ゼロ。
しかも風もすごくて、髪ぶわぁぁ!!ってなる。前見えない!
次に、なんかデカイ光の弾がビュンビュン飛んでる!
ひとつひとつがヤバいサイズ。車ぐらいある。
それが見えない壁みたいなバリアで弾かれて、空にシュワァァって散ってく。
「うわ、なんか守られてるぅ〜ありがた〜い!」
……って安心してたら。
ドォォォン!!
「いや地面に来ることもあるんかい!!?」
ひとつの光弾がバリアすり抜けて地面に落ちたら、爆発音+土煙+地面クレーターのコンボ炸裂。
正直。
目が点になりました。
「何これ……戦争?今この世界、戦争してんの??」
うん、あのね?
誰か教えて。
私、洞窟に監禁されてただけだよね?
出た瞬間、魔法大戦争が始まってるのおかしくない!?
「た、助けに来たんだよね?リュウト君って」
今横で気絶してるリュウトを見る。
「……」
一か八か起こして見るか……?
「でも、あの状態になってたら……」
いやいやいや、まじでやばい雰囲気だったし!
「それに……牙? 生えてるし」
顔を近づけて、じーっと観察。
よく見ると、口元から犬歯がニョキッと出てる。
「お、おぉ……マジだ……」
ちょんちょんと、恐る恐る触ってみる。
「……かたい。ていうか、**牙!!**やっぱこれ牙!!」
起こすか、起こさないか――
アオイはその場で座り込んで、頭を抱える。
「どうしよ……マジでこれ、誰か説明書とかないの……?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《アバレー女王専用司令室》
「ふむ、やりよるな……人間」
女王は自室の王座から、モニター越しに戦況を見つめていた。
山亀の足を止めるという無謀な作戦。それを成功させてみせたユキたちに、静かな賞賛を送る。
「今回ばかりは、人間を信じて正解じゃったようじゃの……」
そのとき、魔通信が反応し、司令室に緊急連絡が飛び込んできた。
{女王様!緊急事態が発生しました!}
「なんじゃ、今が緊急事態じゃというのに、さらに重ねてくるのか」
{お母様、姫です。すぐに来てください}
「ふむ……」
女王が司令室へ向かうと、すでに獣人たちが全員作業を止めてモニターを見上げていた。
「お母様……あれが、例の……」
画面の中央に映し出されていたのは――
雨に濡れながら、静かに立つひとりの少女。
獣耳、そして二本の尻尾。
だが、それ以上に――
「……美しい……」
「……ええ……」
それは、もはや“存在の美”などという凡庸な表現で語れるものではなかった。
――彼女は、立っているだけで世界を更新していた。
空は嵐。雨は暴力。風は怒号。
それら全てが荒れ狂う中で、彼女だけが“美”として存在していた。
黄金の髪は、雨を弾かず――逆に雨粒を装飾品のように“魅せる”。
濡れた服すら、汚れを知らず、自然と透けることもなく、完璧な美の輪郭を守る。
顔立ちは、人類すべての理想を統合し、なお余りある圧倒的な均整。
その笑みは、見た者の“生きる意味”を一瞬で再定義する。
彼女を見るだけで悟りが開ける。
彼女に触れると国家が滅びる(くらいの勢い)。
彼女に見つめられると過去の罪が浄化される(気がする)。
美しさ、可愛さ、優雅さ、神聖さ、妖艶さ、清らかさ、あざとさ、慈愛、孤高……
あらゆる“愛され要素”が、圧縮されて“存在”という形になったもの。
「ご報告……いたします。
山亀の弱点を探していたところ、洞窟から現れた人影を拡大した結果……」
アバレーの獣人騎士たちは、誰ひとりその存在を見逃さなかった。
否――
本能が、見逃させてくれなかった。
「ハァ……ハァ……」
「おいっ!そんな場合じゃないだろ!落ち着け!」
だが、それが**“獣の本能”**というもの。
極上の“メス”を前にして、欲を抑えるのは至難の業だった。
「ど、どうしましょう……」
「人間どもからは……何も報告がない。
この状況を、もう一度よく考えてみるのじゃ」
「……?」
「山亀の内部から、あのような獣人が現れる。
それが正常だと思うか?」
「……た、確かに……」
「つまり、あれは――
山亀が我らを惑わすために作り出した幻覚かもしれぬ」
その言葉に、騎士たちの顔に次々と納得の色が広がる。
**“完璧すぎる”**という事実こそが、彼らの理性を納得させてしまった。
「……そうか。俺たちは妖術にかかっていたのか」
「そうだよな、あんなメスが現実にいるはずないもんな……」
「あぶねぇ……マジでヨダレ垂れちまったぜ……」
「そうじゃ。あれは我らを惑わす幻――」
「【零式対山亀砲】の準備は整っておるか?」
「はい!いつでも発射可能です!」
女王はゆっくりと頷く。
その横で、姫はただ唇を噛んでいた。
彼女には分かっていた。
――あれは幻などではない。
――あれは“本物”だ。
そして、女王が今からやろうとしていることも。
「我らの目を奪う、あの幻覚に向けて――発射じゃ」
その瞬間。
アオイに向けて――【零式対山亀砲】が発射された。
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