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2 - 第2話*予期せぬ出会いと初恋の音*2

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2025年06月14日

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***


「〜〜!!!」

けたたましく鳴り響くスマホのアラームを切って飛び起きる。

画面は7:00。

よかった、まだ全然寝坊じゃない。 けれど、とうしてだろう、とても急がなくちゃいけない気がして起きてしまった。

……夢を、みたような気がする。

懐かしく、遠い昔の夢。

――ゆず、どうして、君が、


その先は、なんだったろうか。

何かとても大切なことを夢の中の自分は語って気がするのだけれど。

悲しいかな。もう随分と褪せてしまった、幼い頃の初恋の思い出。




***






「ありがとうございましたー!」


午後十時。

最後のお客様を見送った柚は、ふう……と大きく息を吐いた。

近頃の夢見の悪さのせいなのか。

いや、五月も下旬。寝苦しい夜も出てきたせいだろうか。やけに怠い。


「なんだよ、天野さん疲れた?」


背後から声がして振り返る。 明るく響く声の主はこの喫茶店の店長をしてる谷口航平である。


(そして、私の……)


「い、いえ。 ずっと事務職だったので、なんかダメですねえ。 体力が」


ここ最近の唯一の癒し。ちょっと気になる人ということにしとおこう。


艶のある少し硬そうな黒髪は短く切り揃えられていて、背は高く、スラリと長い脚が伸びている。

腰に巻いた黒いエプロンがこれまた素敵で。


「ははは、なんだそりゃ、まだ若いのによ」


豪快な笑い声と柔らかな笑顔は、ちぐはぐなようで、けれどとても綺麗だ。


「店長だってそんなに変わらないですよ」

「変わるだろ、十も違うとなぁ」


二十五歳の柚。三十五歳の航平。

だと、どうしても妹扱いが当たり前になってしまっていて。


柚は癖の強い、柔らかく張りのない髪の毛を指でくるくると弄ぶ。

この髪質は昔から好きじゃない。

おまけに童顔だし、こんな歳のくせに恋愛経験といえば、ろくなものがない。頑張って迫ってみたいと思っても、その方法さえさっぱりわからないのが現状だ。


(って、今それどころじゃないか)


「……ま、でも天野さんが来てもう半年くらい経つか? 」


頷きながら、柚はテーブルを拭いて回る。 五卓とカウンター六席の、決して大きくはない店内だからしっかりと声は行き渡る。


「はい。 この歳でアルバイトだなんて恥ずかしいですけどね」

「……働いてんだから恥ずかしくないだろ。 ゆっくり次探せばいいんじゃないか?」


優しく力強い声。

その度に胸の奥を、じわりと暖めてくれていること。 この人はきっと知らないから。


「ありがとうございます」

「天野さんらしく、自分のペースで考えりゃいいんだからな」


「はい」と、頷くが。

いつまでもアルバイトでは将来が心配だ。

父の存在は知らず、母も亡くし兄弟親戚はいない。

そんな柚にとっては、貯えのあるなしは死活問題。


奨学金を借り、必死に勉強をして、やっと入った大学。

卒業後は無事に電気機器メーカーへ就職したのだけれど……恋人だと思っていた男性が重役幹部の一人娘と結婚をした。

それを機に社内に居づらくなった柚は退職をしてしまったのだ。


そうこうしているうちに、唯一の家族である母が亡くなった。


小さな頃は体が弱く、苦労ばかりをかけた母に、結局私は何ひとつ親孝行をできていないまま。

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