それから30分ほどして重森達はカフェを出たようだ。
ちょうど午後のコーヒータイムになり店が混み始めたので華子は接客に追われていて重森達が出て行った事に気づかなかった。
華子は今日重森に再会して気持ちが全く動揺していない事に気づいた。
(会ったらどうなるか心配していたけれど全然平気だったわ)
華子にとって重森との事はもうすっかり過去の事になっていたのだ。思わず華子はフフッと笑った。
午後4時前になるとカフェの客足も途絶え店内には数名の客しか残っていなかった。
4時半に美咲が仕事を上がると、華子は店長の中澤と二人で閉店作業を始めた。
この仕事にもだいぶ慣れてきた。華子は大抵の事は一人でこなせるようになっていた。
覚えてしまえば同じ仕事の繰り返しなので、もう少し経てばきっと余裕も生まれてくるだろう。
5時になるとバータイムの料理人である本間が店に入って来た。
華子が本間に笑顔で挨拶をすると、本間は華子にウインクを返してから厨房へ向かった。
(フフフ、本間さんったらお茶目。あんな人がお父さんだったらよかったのになぁ)
その時華子はふと全く記憶のない父親に対して思いを馳せる。そして表情を曇らせた。
(今度実家に帰ったらおばあちゃんにお父さんの事を聞いてみようかな)
華子はそう決心した。
カフェが閉店時刻を迎えたので華子はクローズの札を外へ出しに行った。
ドアを開けて外に出た瞬間、ちょうど陸がこちらへ向かって歩いて来るのが見えた。
陸は軽く手を挙げると微笑みながらゆったりと華子の傍へ近づいて来る。
「お疲れさん、今日はどうだった?」
「うん、あのね、加瀬さん、今日は問題なく普通に接してくれたわ。陸が朝話しをしてくれたお陰よ」
「それは良かったな。まあまた何かあればすぐに言えよ」
陸は華子の頭を手のひらでポンポンと撫でるとそのままドアを開けてカフェの中へ入ろうとした。
その時華子は陸のシャツの袖を引っ張り引き止めた。
「あとね、今日はもう一つ凄い事があったのよ」
「ん? 凄い事? どうした?」
「アイツが来たのよ」
「アイツ? もしかして重森か?」
「ピンポーン」
「そっか。で、大丈夫だったか?」
陸は心配そうに華子の瞳を覗き込む。
(陸が心配してくれている)
そう思った瞬間華子の胸の中がジーンと熱くなる。そして陸が心配しないようにと説明を始めた。
「うん平気。自分でも驚いたんだけれど全然大丈夫だったわ。なんていうのかなぁ、あっ、そう! 百年の恋も冷める___みたいな感じかな? あっ、でもそれも違うか」
「何が違うんだ?」
「えっとね、百年の『恋』は『恋』じゃなかったって感じ? 私が恋だと思っていたものは恋じゃなくて『幻』だったのかも。ううん『蜃気楼』かなぁ? いや『霞』? うーんなんか上手く言えないけれど、多分そんな感じだったのかもしれないって思っちゃった。私ね、ちゃんと付き合ったのは重森が初めてだったから重森との事はずっと初恋だと思っていたの。でも初恋じゃなかったみたい」
華子はクスクスと笑い出した。
陸は一瞬呆気にとられていた。
あれだけ華子が未練がましく思い続けていた相手と5年ぶりに再会したのだ。だから寄りを戻す事はあっても、好きじゃなかったかもなんて言い出すとは思ってもいなかった。
しかしその言葉を聞いて陸は安堵していた。
(寄りを戻したらなんて心配する必要はなかったんだな)
「そっか、それなら良かった。5年ぶりに会ってまた恋心が再燃するんじゃないかと心配していた俺が馬鹿だったな」
「え? 陸、心配してくれてたの?」
華子が嬉しそうな顔で陸の顔を覗き込む。
「ああ、俺を捨てて重森のところへ行ったらどうしようかとドキドキしてたよ」
陸は若干大袈裟気味に言う。
「嘘だー! 陸は何があっても絶対に動じない男でしょう? フフッ」
華子は微笑みながら続ける。
「とにかく私を追い出そうとしても出て行きませんからねーっ!」
華子はそう言って思い切り陸に抱き着いた。
子猫のように纏わりついてくる華子の事を陸はをギューッと抱き締め返す。そして華子の耳たぶを軽く噛んでから言った。
「華子の『初恋』は俺と始めなきゃ駄目だ」
そして今度は華子のおでこへチュッとキスをする。
そこでまた華子はまた甘えるように陸を抱き締めた。
そんな二人の甘い甘い様子を道行く人々が微笑みながら見つめていた。
コメント
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重森は 彼女の初恋の人では無かったことに気づいた華子チャン.... 家庭環境が複雑だった彼女は、ともかくハイスペックなお相手を見つけて 早く結婚したかっただけで、 やはり本当の恋愛は知らなかったんだね....🤔 陸さんに大事にされ 愛することを知った華子チャンと、彼女が可愛くてたまらない陸さん💏♥️ ゆっくりゆっくり愛を深め、幸せになってね~🍀✨
もぅ、甘々陸さん🩷╰(*´︶`*)╯♡美咲のことも陸さんの牽制で解決したみたいし❣️唯一重森だけは華子も陸さんもやっぱり心配だったよね😰 どう思われてるかとかよりを戻すんじゃないかとかいろいろね… でも華子は陸さんのおかげで吹っ切れてて牽制の大きな💍のお陰で予防線も張れたし‼️ 陸さんが心配を口にするとは思わなかったけど、"華子の初恋は陸さんとスタート▶️"をしっかりと実行して華子を思う存分愛してね❤️