テラーノベル
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「お。さっそくHanaさんにメールを送ってくれたんだな」
後ろから投げ掛けられた言葉に、圭が振り返ると、部長の柏木がパソコンのモニターを覗き込むようにして立っていた。
「おはようございます、部長。…………朝から驚かすなよ」
訝しげな表情を浮かべている圭の横に、同期の上司は、傍らにあったデスクチェアを引き寄せながら腰を下ろした。
「Hanaさんの動画投稿サイト、観たのか?」
「ああ、観た。パソコンで、あんなにダイナミックな音を出せるとは、思いもしなかったな。個人的には、ピアノ曲が印象に残ってる」
「ピアノ曲をアップしているのは、確か一曲だけだったよな」
「そうなのか? 俺も、まだ曲は全部聴いてないが、帰ったらまた聴いてみるよ」
「ああ。そうしてくれ。っと、そろそろ朝礼を始めるぞ」
気付くと、部署の社員たちが出社している。
柏木は、椅子を元の位置に戻した後、自身のデスクへ向かっていった。
圭は久々に九階の社員食堂で、昼休みを過ごした。
副社長になってからは一度も行かず、大概はホテルのレストランでランチをしていたが、今は、すれ違う社員たちに後ろを振り向かれ、ヒソヒソと小声で自分の事を言っているのを肌で感じてしまう。
(ま、そんなものだろう。副社長が課長に降格されるなんて、社員からすれば、恰好の話のネタだよな……)
圭は、食券売り場で味噌ラーメンを購入し、社員食堂の隅で、大人しく麺を啜っている。
それにしても、社員食堂って、こんなにザワザワしていたのか。
(こんなに陰口を叩かれるのなら、会社の外で、昼飯を食った方がいいかもしれない……)
不意に、圭の脳裏に、『家庭料理 ゆき』の落ち着いた雰囲気が掠めていった。
昨日、初めて行った店ではあったが、そこそこ静かで、カウンターに座っていても、ゆっくりと食事ができたように思う。
値段も、そんなに高くはない。
昨年のクリスマスに、泥酔してベンチで寝てる時に起こされた女の自宅、というのが圭の中で引っ掛かるが、何よりも、料理が旨かったし、女性店主も感じが良かった。
(仕事が終わったら……また寄ってみよう)
圭は、慌てて味噌ラーメンを食べ終わらせると、DTM事業部のフロアへ戻っていった。
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