「はぁ、そこに居たのぉ、てっきりどこかに行ってしまったのかと思っちゃったよぉ、良かった良かった」
『ペ、ペトラッ! シンパイ、サセル、ダメッ! グガァッ、ダメ、ダヨ』
暗がりに墨の様なペトラの姿は甚(はなは)だ見難い、だが、隠した舌の代わりに発してくれた言葉のお蔭で大体の位置を悟った兄達は、何と無くその辺りを見つめながらその声を聞く。
『あ、う、うん、そうだよね…… 心配掛けちゃったよね…… ゴメンなさい、もうしないから許して、レイブお兄ちゃん、ギレスラお兄ちゃん…… 怒らないで……』
『グガッ! ガァアァ……』
「怒ってなんていないよ、ギレスラもそうだってさ! それより何なんだい、そこ? 隠れ場所? 見つけたの?」
『ミ、ミツケタノ?』
兄達の優しい言葉を聞いたペトラは嬉しそうに言葉を弾ませて言う。
『うんっ! ここって凄いよ♪ ギレスラお兄ちゃんは縮まれば入れそうだけどぉ、レイブお兄ちゃんはどうかな? 中は広いよ♪』
『グガッ』
「へえ、その奥に空間があるのかぁ、どれどれ、僕が入れるか試してみよっか? 折角ペトラが見つけてくれた隠れ家だもんねぇ?」
『ワーイ、エヘヘヘ♪』
嬉しそうな笑いを残して再び姿を消したペトラの居た辺り、倉庫の最奥に近付いたレイブは目を凝らす。
壁を這った古い蔦(つた)の枯れた蔓(つる)に隠れて、足元に横穴がある。
穴の入り口はペトラが言っていた通り、ギレスラのサイズで有れば余裕で通り抜けられそうであったが、レイブだと微妙に感じる。
「うーん、先にギレスラが入ってごらん、翼を引っ掛け無い様にちゃんとたたむんだよ、その後で僕も挑戦してみるからね」
『グァ、リョウカイ』
背丈こそレイブより高いギレスラだが、顔や首はほっそりとしているし、一番太いだろう腹部でも、レイブの胴回りの半分ほどしかない。
短い両前腕を使って匍匐(ほふく)前進して行ったギレスラは、予想通りすんなりと穴の先に到達したらしく、嬉しそうな声を上げる。
『ヒロイヨ! レイブ、モ、キテー、ミテー! グアァ!』
「どれどれ?」
暗い穴の上下左右を両手で触って確認してからゆっくり頭を差し込んで行ったレイブだったが、暫(しばら)く進むと穴の径が小さくなって来たらしくうつ伏せに寝たまま顔を地面に擦りつけながらつま先の動きだけでもぞもぞ進むしか出来なくなってしまった。
「せ、狭い…… お? おおお!」
一旦戻って足から、そして仰向けでやり直すか、レイブが考えた瞬間頭部の周囲から圧迫感が消えた、出口を越えたらしい。
肩から下はまるで動かせないで居たレイブであったが、狭い稼動範囲ながら首を左右に振って穴の内部、広くなっている場所に視線を巡らせた。
暗いながらもこの場所がそれなりに広い事が察せられた、ギレスラとペトラの息遣いが少し距離を置いて聞こえる事からも類推できた様だ。
頭を突き出して初めて判ったが、何か水が流れるチョロチョロといった音にも気が付いた。
「良しっ! ぐっ、痛たたた! ならっ! ててててぇっ! はぁ、無理か…… やっぱり肩は抜けないみたいだなぁ…… 一旦戻るよ、って! あれ? あれれぇ! く、首がっ、首が抜けないぞっ! うんっ! うううんっ! ええっ、抜けない抜けないっ! ギレスラ、ペトラ! 手伝ってぇ! 助けてよぉ!」
『グガァ!』
『た、大変だわっ!』
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