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遥の相談室2

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遥の相談室2

34 - 第34話 笑ってはいけない気がして

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2025年11月02日

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放課後の相談室。

薄曇りの窓の向こうで、夕陽がにじんでいた。

蛍光灯の光に照らされた机の上で、紙コップの温かいお茶が、かすかに湯気を立てている。


「……笑うたびに、苦しくなるんです」


目の前の生徒が、ぽつりとこぼした。


「ほんとは楽しいのに。笑ったあと、急に“こんな自分でいいのかな”って思って……」


遥は、黙って聞いていた。

相手の指が、机の端で小さく震えていた。


「誰かと笑ってるとき、なんか、悪いことしてる気がして」


「悪いこと?」


「だって、私だけ笑ってる。

誰かがつらい思いしてるかもしれないのに、

自分だけ楽しんでるって、なんか……罪みたいで」


遥は少しだけ目を伏せた。

静かな間が流れる。

窓の外では、部活の掛け声が遠くに響いていた。


「……たぶん、それは“優しさ”の形だと思うよ」


「優しさ?」


「人の痛みに鈍感になれたら、楽なんだと思う。

でも、そうなれないってことは、

誰かの痛みを、ちゃんと感じてるってことだから」


「でも、そんなの疲れます」


「うん。優しい人ほど、笑うことにも傷つく」


彼はそう言って、紙コップを両手で包んだ。


「笑うって、本当は“生きてていい”っていう証みたいなものなんだ。

でも、生きてることを許せないと、笑うたびに痛くなる。

──俺も、そうだった」


相談者が顔を上げる。


「今は違うんですか?」


遥は少しだけ間をおいて、曖昧に笑った。


「わかんない。

けど、“笑ってはいけない”って思うたび、

それでも笑ってくれる誰かのことを思い出すんだ。

その人の笑顔だけで、少しだけ、罪悪感がやわらぐ気がする」


少女はしばらく黙っていたが、

やがて、ほんの少しだけ口角を上げた。

それは、痛みの中に生まれる、かすかな光のようだった。


「……私も、そんな笑い方ができたらいいな」


「きっと、できるよ」


遥の声は、やさしいというより、どこか祈るようだった。



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