「なんなんすか、いまの! すごいっすよ!」
飛び跳ねて危うく落ちそうになったうさ耳を引っ張り上げて
「……あれが複合魔術だ。少し足りないと思ってな、足してみた」
うさ耳は「まじっすか! そんな事が出来るなんて!」としきりに感激しているが──。
違う。本当は足止めだけできれば良かったのだから。
うさ耳の攻撃の瞬間、魔獣の方からの暗い血のような紅の視線を感じた。あれには目も耳も口もない様に見えるのに。
そして感じた不吉さをこちらに向けるために発動の速い魔術を立て続けに撃ち込んだのだ。結果期待通りそのお返しはターゲットを変えて俺に来た。
お返しに届けられたのは命が削られる衝撃。
おそらくあのままいけばうさ耳は死んでいただろう。
呑気にはしゃいでいる隣のうさ耳はそんな事は知りもしないが。
「やってくれるな……」
「ぜ、全然効いてないっすよ⁉︎」
魔獣はその場で脚を止めたものの、無傷だ。
「あんなん喰らって平気ってこれは本当にやばいっす……!」
ああ、まともにやればどうしようもない。俺ならゴリ押しで仕留めることも出来るが、その場合あそこには不毛の地が広がることになるだろう。それは困るのだ。
「だが、これで間に合った」
眼下にはこちらに大きく手を振りながら、街の方へ急いで退がっていくフィナとジョイスが見える。街を守れと指示しなきゃなと思っていたが、機転の利くやつらだ。
魔獣はやがて動き出して、フィナたちの作ってくれたバリケードに到達する。
「行かせんよ。イモータルジェイル」
俺は2人が魔力を込めて打ち込んでくれた杭に仕込んでいた魔法陣により広域魔法を展開する。
間隔を開けて打たれた杭は、お互いに魔力の網で繋がりそれは天高く立ち昇って魔獣の行く手を阻む。
突然現れた壁に気づいたのか気づいてないのか、真っ直ぐ進みぶち当たった奴を跳ね除けた衝撃が街の方にまで広がる。
フィナとジョイスはそれぞれに風や纏魔の壁を作りそれを防いでくれた。
「おおおっ? なんすかあれっ、なんすかあれえ!」
「目標を通さず更に捕縛する魔術障壁だ。複数の魔道具と他人の魔力も使った特製だ。これで舞台は整った。うさ耳、特等席で眺めているといい」
「はいっす! 網膜に焼き付けてやるっすよー!」
俺たちは召喚鳥で正面に回り込み、魔獣を見据える。
俺はいつもの魔道具であるタバコに火をつける。スキルで作られた平和という意味の名のタバコはこの世界において俺の特定の力を解放するキーアイテムだ。
吸い切れば何も残らない。フィルターなんてつけてない。吐き出す煙は全て発動するスキルに変換される。
魔獣に吹きかけるように吐いた煙は広く拡散して魔獣に届く。
この魔獣は多くの命の集合体だ。彩虹輝石が魂や願いを集めて作られたものに対して、この魔獣は生きている命を集めた塊だ。
生きる事に特化しており、そのためのスキルが自身を殺した相手に現象を返して殺し取り込む事を繰り返す事で死んでは補充を繰り返し、1+1-1+1-1+1……と続くループで死ねない。
最初の村で、ただ1人が村民の命を集めてその肉も取り込んだのだろう。聖騎士あたりからはその魔力も特性も。トレントにこいつは何度殺されただろうか。しかしプールしてた命の数が尽きる前にトレントは押し負けたのだ。比較にならない巨大な命も削り取られた。それほどに強いスキル。
最終的にトレントやら何やらを取り込んだ姿がこれだ。
この威容。魔力も世界最大だろう。
だが──
「だとしても貴様が魔獣であるなら俺には関係ないな」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!